現代の医療において、画像診断は疾患の正確な診断、治療方針の策定、治療効果の判定などにおいて極めて重要な役割を果たしている。国立循環器病研究センター(国循)の放射線医学分野では、高度な循環器病画像診断と低侵襲治療の推進を使命とし、最新の放射線機器を駆使しながら、臨床診療と研究開発を並行して進めている。
我々の研究は、循環器疾患の病態を的確に把握し、画像診断技術の向上と、それに基づく治療法の革新を目指すことに重点を置いている。これにより、より迅速で適切な医療を提供し、患者の負担を最小限に抑えることを目標としている。
また、学術的活動として、日本医学放射線学会、日本IVR学会、日本核医学会、日本磁気共鳴学会などの国内学会に積極的に参加し、研究発表を行っている。さらに、北米放射線学会(RSNA)、ヨーロッパ放射線学会(ECR)などの国際学会においても研究成果を発信し、世界的な医療の発展に貢献している。
加えて、国循放射線部は、心臓血管内科、心臓血管外科、脳神経内科、脳血管外科などの診療科と緊密に連携し、最先端の診断技術および治療法の開発と臨床評価を共同で進めている。このような多職種協働を通じて、循環器疾患領域における最良の医療を提供し、患者の健康と生活の質の向上を目指している。
(心臓:2,499件/冠動脈:1,735件/脳灌流:776件/脳血管3D:666件)
CT部門では、最適なタイミングで迅速に画像や検査結果を提供し、検査の生産性を高めることを目的として研究活動を進めている。具体的には、イメージングバイオマーカーや人工知能などの新技術を実臨床に応用するため、放射線科医と診療放射線技師のチームが実証実験を行い、その成果を国内外の学会や学術誌で報告している。
本年度は、特に近年検査数が急増している急性期脳卒中の患者を対象としたCT脳灌流検査におけるさらなる最適化や被ばく低減への取り組みを、国内外の学会で報告した。また、画像処理人工知能を活用したノイズ低減法が臨床における心臓CTの画質向上や診断精度の向上に寄与することを示し、海外学会で発表した。さらに、増加傾向にある心臓4次元CT検査では、大量のデータが発生することでデータ容量の逼迫という課題があるが、その解決策として再構成条件の最適化が有効であることを示した。加えて、治療後の予後予測において、人工知能を用いて単純CTから測定した各種臓器別の計測値が有用であることを実証し、国内学会で報告した。
また、CT技術の複雑化と専門性の向上に伴い、初心者や再学習者向けの教育ニーズが高まっている現状がある。これに対して、E-learningを活用した教育手法が普及しているが、さらなる教育効果の向上を目的に、360度カメラとヘッドマウントディスプレイを用いたリアリティのある動画視聴の有用性を国内学会で報告した。
(心臓:1,215件/冠動脈:209件/脳灌流:614件/脳血管3D:8,976件)
MRI部門においては、新たな高速撮像法やRF励起技術を応用した時間短縮や画質改善の検証、ディープラーニングを用いた再構成法を応用した基礎実験や臨床応用、心筋の新規性状機能診断法の確立、新たなプラークイメージング手法の確立などに関して研究を行い、国内・国際学会等での報告及び誌上公表を行い、臨床応用にむけて調整を行った。
本年度においては、新たなスライス非選択励起balancedシーケンスを用いた心血管の3D撮像法に関して従来法よりも画質改善・撮像時間短縮があることを確認し、報告を行った。また、従来の心電図呼吸同期法よりも簡便かつ時間短縮を可能とした非造影MRAを考案し、その有用性について報告した。また、新たな心筋バイオマーカーとして期待されるMR spectroscopyに関して臨床例を蓄積し、その有用性を国内外の学会で発表を行った。また、新たな緩和時間定量化技術であるMR fingerprintingに関して、基礎実験とボランティア検証を行い、臨床応用例を蓄積している。さらに、煩雑な撮像技術が問題となる心臓MRIに関して、より効率的な撮像条件を目指して、本年度はMoSe法による定量精度向上、心筋脂肪抑制法の最適化に関して、それぞれ実験・報告を行った。
プラークイメージングに関しては、bone imagingを応用した3D-T1強調画像を考案し病理所見との対比を行い、新たなプラーク撮像法となる可能性を報告した。
脳血管、腹部血管領域では非造影MRパフュージョンの撮影最適化や解析法の検討、短時間での脳血管高分解能撮像を行い、脳血管疾患、てんかんの評価、腎臓の灌流評価に積極的な応用を行った。
多施設共同研究として、MRIの検査時間の短縮を目的とした機械学習手法による超解像技術の応用に関する研究結果は基礎的な内容に関しては、論文報告を行い、次のステップとしてリアルワールドでの実証実験を開始している。
(心臓PET(18F-FDG):216件/血管炎PET(18F-FDG): 75件/
心臓PET(13N-アンモニア):124件/脳PET(15O-GAS):388件/
アミロイドPET:136件/地域連携核医学検査:875件)
RI部門では、大型医療機器の多施設共同利用を推進し、近隣医療機関からの核医学検査依頼に柔軟に対応している。検査日の翌診療日には紹介元に検査結果を迅速に返送する体制を整え、多様な目的に応じた核医学検査を提供している。2023年11月にはアミロイドPETの撮像施設認証を取得し、保険診療としてのアミロイドPETも開始した。地域医療を支える核医学検査室として、近隣医療機関と定期的に交流し、施設訪問や研究会を通じて核医学検査の有用性や新たな知見を発信している。また企業とのミーティングを継続的に実施し、最新技術の習得や検証、新たな解析ソフトウェアの導入や有効活用に幅広く取り組み、研究成果を国内外の学会で報告している。
PET検査では、18F-FDGを用いたPETアンギオグラフィに注目し、大型血管炎患者を対象に、18F-FDG PETで大型血管の解剖学的評価と血管壁の炎症評価が同時に可能であることを北米放射線学会で報告した。さらに13N-アンモニア心筋血流PETのフラクタル解析に関する研究を国内学会で報告予定である。また、当センターで独自に開発した迅速O15ガスを用い、腎臓の循環イメージングを撮像し、腎疾患患者への臨床応用を進めている。加えて、アミロイドPETを用いた治験にも積極的に協力している。
SPECT検査では、診断精度向上を目指した研究や新しい解析手法の開発に注力している。たとえば、PYPシンチグラフィを用いた心アミロイドーシス診断において、心筋へのPYP集積を客観的に評価する新指標「Heart and Aorta SUV Subtraction(HASS)」を考案し、国内学会で発表した。HASSとは、CTで減弱補正したSPECTデータからstandardized uptake value (SUV)を算出し、心臓全体のSUVから上行大動脈内の血液プールのSUVを差分した半定量指標である。その他に、心臓専用半導体SPECT装置の使用感を多施設間で共有するためのアンケート調査を実施し、国内学会誌に結果が掲載された。自施設での経験に基づいた知見の発発信を通じて、心臓核医学検査の普及に寄与している。
(胸部大動脈ステントグラフト内挿術:84件/腹部大動脈ステントグラフト内挿術:80件/
バルーン肺動脈形成術:191件/肺動静脈瘻塞栓術:8件/経皮的腎形成術:6件/
経動脈的止血術:11件 総計:466件(緊急:85件))
カテーテル部門においては、大動脈瘤や大動脈解離に対するステントグラフト治療についての技術的成功率の向上に関わる研究および長期成績向上に関わる治療技術の考案、治療成績向上につながる画像診断についての研究、臨床診療を行っている。また、血管外科と共同で慢性大動脈解離について「大動脈解離術後の偽腔拡大に対する血管内治療の中長期成績と安全性に関する臨床研究」が進行中である。
また、慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)に対する、肺動脈バルーン拡張術および治療に効果的な画像診断についても研究、臨床診療を引き続き行っている。企業と連携しBPA後の治療予後、再治療適応基準を確立するために人工知能を用いた画像データ遡及的解析についても進行している。
周産期医療における産褥期危機的出血や消化管出血をはじめとする緊急でのカテーテル止血術にも原則すべての症例に対応している。
塞栓技術や血管造影技術の向上のため、基礎的研究にも取り組んでおり、血管造影検査における新たな定量的評価法、塞栓物質の塞栓効率についての研究成果を国内学会や国際学会にて報告した。