病理部 病理診断科
研究活動の概要

 病理部門は、循環器疾患の診療に必要な組織病理診断情報を臨床に提供するために、病理解剖と外科手術検体や心筋などの生検材料の病理組織診断および細胞診断を主要な業務としている。これらの検体を活用した広い分野にわたる臨床研究を他科と協力して行っており、循環器系および病理系、一部呼吸器系の学会および学術誌に発表している。病理解剖は今日、世界的にその数は著明に減少している。NCVCにおいても剖検数は10数年前と比べると激減してきた。2024年1月~12月は剖検率が15%(年間総数33体)と少ないながらも、その件数は全国では常に上位にランクされている。組織診断件数は数年前から増加傾向にあり、特に心筋生検の数は2024年の1年間で1693件(総組織検査数1278件、総電顕検査数415件)と増加傾向を維持している。また、心・血管を専門とする病理部門は全国的に少なく、この特殊性を生かすため、これまで随時全国の医療機関から循環器系疾患の病理診断のコンサルテーションを受け入れてきた。2024年の1年間で770件(心筋生検597件、電顕173件など)と例年に比し著増している。外部施設からの病理検体の作製依頼および診断の有料のコンサルテーションの受け入れ体制を整え、ホームページに公開し、現在30施設以上と契約している。また2020年4月からはアミロイドーシスに関する調査研究に参加しており、心筋生検におけるアミロイド診断についてのコンサルテーション体制を構築している。2024年の1年間におけるアミロイド診断についてのコンサルテーションは140件であった。

 研究については病理部門のスタッフの専門性を生かしつつ、当センター他科あるいは外部の研究機関(研究機関、大学、基幹病院)と多数の共同研究を行っている。現在進行中の主な研究テーマとして以下が挙げられる。

  1. 肺高血圧症・中性脂肪蓄積性心筋血管症に関する病理学的検討
  2. 組織透明化による肺循環器疾患の解析(基盤Cを獲得)
  3. 慢性心筋炎の診断基準確立と予後予測因子の探索(三重大学等、AMED研究)
  4. Danon病の心筋障害における慢性炎症の関与について
  5. 特発性心筋症の診断と予後予測の向上を目指した心筋生検と摘出心における病理像の比較
  6. 心臓粘液種に関する臨床病理学的検討
  7. 当院40年における大動脈弁疾患の病因の動向についての検討
  8. COVID-19ワクチン関連心筋炎の多機関共同後ろ向き研究(三重大学等、AMED研究)
  9. アミロイドーシスに関する調査研究(厚生科研)
  10. 脳梗塞発症に伴う心臓免疫細胞の変化(ミュンヘン大学)
  11. 世界最大劇症型心筋炎レジストリを用いた長期疫学調査及び予後予測モデルの開発(奈良医大循環器内科学講座、AMED研究)
  12. 循環器疾患とAI診断について(脳神経外科、脳血管内科、予防医学・疫学情報部、次世代医療部:頸動脈プラーク、脳血栓、心筋炎、心アミロイドーシス)
  13. 抗ガン剤投与後の心筋障害に関する病理学的検討(基盤Cを獲得)
  14. がん治療関連心筋障害の病理組織学的解析による発症メカニズムの解明(大阪国際がんセンター、明石医療センター、大阪大学循環器内科)
  15. 粥状動脈硬化症と血栓症の病理
  16. 心臓サルコイドーシスおよび心筋炎による病理形態変化と臨床像の特徴に関する研究(昭和大学法医学講座)
  17. 冠動脈疾患を合併しない心不全における冠微小循環障害に関する前向きコホート研究(横浜市立大学循環器内科学講座)
  18. 脳血栓症の発症におけるNeutrophil Extracellular Trapの関与について(脳神経外科、脳血管内科)
  19. Oncocardiologyと脳血栓(脳血管内科)
  20. 頸動脈プラークの組織像解析と長期予後の研究・動脈硬化の性差:新規マーカーNPC2の有用性について(科研費若手研究を獲得、栄研化学)
  21. 遺伝子関連情報を用いた臓器移植に関わる個別化医療に関する研究(移植部)
  22. KLF1-mRNA 医療の開発による心筋再生誘導(心臓再生制御部:AMED研究)
  23. 女性のライフサイクルにおけるイベント特有の病態が脳卒中発症における性差に与える影響とそれを用いた脳卒中発症を予測するスコアを既存のビッグデータを用いて開発する研究(産婦人科、AMED研究)
  24. 国立循環器病研究センターのバイオリソースを活用した多層オミックス解析による循環器疾患の新規病態解明(創薬オミックス解析センター)

 教育については、他科のレジデントの学術発表や論文の指導を行っている。さらに奈良医大医学生のクリニカルクラークシップとリサーチクラークシップ、さらには短期の病理実習も受け入れている。定期的な心筋生検や病理解剖(全剖検例でCPCを施行)のカンファレンスでは臨床科とのディスカッションが活発に行われている。

 その他、NCVCバイオバンク保存のため、病理部門はバイオバンクと協力し病理解剖、周産期検体、移植摘出心などの組織の収集保存を行っている。