脳血管内科・SCU
研究活動の概要【脳血管内科】

 脳血管内科は、脳血管障害を全身血管病として捉え、神経病学・循環器病学・リハビリテーション医学・救急医学・画像診断学・血栓止血学などの多角的な視点から研究活動を進めている。
豊富な入院患者の綿密なデータベースに基づいて、脳血管障害の症候学・病態生理・診断・内科治療法などを解明する多くの研究を、連綿と発表し続けてきた。その活動実績を国内外で評価され、脳血管障害研究の国際的中核機関と位置づけられている。

 2024年は古賀が部長として7年目、豊田は部門長かつ副院長として8年目に入った。井上はSCU医長として6年目、特任部長(国際戦略室室長との併任)として2年目に入った。横田脳血管リハビリテーション科医長は、リハビリテーションに関する診療・研究の推進に重点を置きながら、引き続き当科業務を兼務した。吉村6N病棟医長、三輪外来医長、吉江医師、塩澤医師、鴨川医師、福田医師(データサイエンス部との併任)、石上医師(研究医療課長、循環器病対策情報センター事業管理室長兼任)の体制で、科を運営した。田中医師は4月から近畿大学脳卒中センターに異動した。専門修練医の柿野、村田が2年間、レジデントの稲垣が3年間の研修を終えた。宮田敏行客員研究員は引き続き血栓止血研究に関連した研究活動を指導した。

 診療面では、脳神経内科や脳神経外科と連携して、脳血管部門全体でチーム診療に取り組んだ。救急外来・画像診断部門・血管造影室・SCU病棟を機能的に集約した1階で急性期脳卒中診療を行い、安定後の脳卒中管理・リハビリテーションを一般病棟と脳リハビリテーション部門のある6階で行っている。救急隊や地域の医療機関の要請に対して、24時間365日脳卒中患者を断らず受け入れている。屋上ヘリポートを活用して、豊能町などの遠隔地からドクターヘリ搬送受け入れている。2020年から開始された日本脳卒中学会の一次脳卒中センターの認定を受け、2021年から一次脳卒中センターコア施設となり、整備の一環として、急性期治療の提供のみならず、脳卒中患者さんに対して医療及び介護に関する適切な情報提供を行う「脳卒中相談窓口」を運用している。

 脳内科と心疾患科の連携が重要な分野において、Brain Heart Teamとしての診療に取り組んでいる。
具体的には、心不全科、小児循環器科と連携しての卵円孔閉鎖術適応、不整脈科、心臓外科と連携しての左心耳閉鎖デバイスや左心耳閉鎖術、不整脈科と連携しての心房細動に対するアブレーション、失神外来について、定期的にミーティング、症例検討会を行い、院内横断的な連携強化、診療体制の充実に取り組んだ。

 とくにこれまで構築してきた静注血栓溶解療法と急性期血管内治療を組み合わせた脳梗塞急性期再開通治療では、治療開始までの時間短縮に注力し、静注血栓溶解療法施行は90例を超え、急性期血管内治療は例年に続き130件を超えた。急性期診療の詳細は、SCUの活動概要に詳述した。
引き続き再発予防治療、家庭・社会復帰、無症候性脳血管障害の診療にも力を注いだ。

 多施設共同研究は、脳血管内科が長年とくに重視してきた、研究の主軸である。

 豊田・井上・古賀・福田は、杏林大学脳卒中医学平野照之教授と共同で急性期脳梗塞に対するテネクテプラーゼの有効性と安全性を調べる医師主導型無作為割付試験T-FLAVORの準備を開始し、AMED委託研究費「新規血栓溶解薬テネクテプラーゼの脳梗塞急性期再開通療法への臨床応用を目指した研究」を獲得し、特定臨床研究法のもと、先進医療Bの承認を受け、鋭意95%の症例登録をしている。

 豊田・吉村・福田・古賀・井上・三輪は、NIH助成による国際共同無作為化比較試験FASTEST(脳出血急性期止血薬評価)の国内研究助成としてAMED委託研究費「脳出血超急性期患者への遺伝子組換え活性型第Ⅶ因子投与の有効性と安全性を検証する研究者主導国際臨床試験」により、特定臨床研究承認および先進医療Bの承認を受け、2024年末までに国内257例(世界626例)の症例登録を行っている。

 豊田が、運営委員長を務める脳卒中データバンク事業(事務局 古賀・吉村)の推進を行うとともに現在の医療事情に合致した新しい全国版データベースで登録を推進するとともに、登録施設に対してquality indicator(脳卒中医療の質を評価する指標)の施行率のフィードバックを毎年継続している。このフィードバックにより全国平均との比較が可能となり、ガイドラインやエビデンスを遵守した脳卒中医療の普及が期待される。人工知能(AI)を活用したデータ解析を開始した。

 頭蓋内出血を発症した心房細動患者を対象とした早期抗凝固療法に関する安全性および有効性を検証する多施設共同観察研究(SAFE-ICH研究)(古賀研究責任者、三輪・田中事務局)は、2024年5月に欧州脳卒中会議2024で主要結果を報告した。

 脳血管内科では主要な研究テーマの一とつとして心房細動を伴った心原性脳塞栓症の病態解明や治療法の開発を行ってきた。抗凝固療法中にも関わらず脳梗塞を発症する心房細動患者(AFIDA)、非抗凝固療法中に脳梗塞を発症する心房細動患者と比較して脳梗塞再発リスクが1.5倍であることを解明した。AFIDAに対して経皮的左心耳閉鎖術の有効性と安全性を評価する臨床研究AFIDA1(多施設前向コホート研究)とAFIDA2(多施設単群介入研究)を開始した。

 単施設研究の充実にも努めた。若手医師が脳神経内科と合同で運営している急性期患者連続登録NCVC Stroke Registryのデータベースを用いた研究に取り組んでいる。
他にも、心臓内科、心臓血管外科、移植部や放射線部など院内他科、研究所の病態ゲノム医学部と連携した研究も行われた。

 脳卒中に関連するInternational Stroke Conference 2024、European Stroke Organization Conference 2024、World Stroke Congress 2024、Asia Pacific Stroke Conference 2024を始め、多くの国際学会、国内学会に、当科メンバーが運営委員ないし発表者として参加した。

 研究成果の速やかな英語論文化を全員に課し、多くの英語論文が、peer reviewを受けてJAMA Neurology、JAMA Netw Open、Circultion、Annals of Neurology、Stroke、Neurologyをはじめとする英文誌に採択された。豊田がStroke、PLoS One等、古賀がJ Atheroscler Thromb、脳卒中、臨床神経学等のeditorial board memberを務め、多くの当科メンバーが英語論文査読業務に携わった。

研究活動の概要【脳卒中集中治療室 SCU】

 井上はSCU医長として6年目、樋口はSCU師長として2年目を迎えた。SCU病棟は18床を有し、主に内科系の脳卒中診療を担う脳血管内科および脳神経内科の医師、専門修練医、レジデント約40名(ローテーションや異動により変動あり)が、緊急入院する脳血管障害患者の急性期治療および管理を行う病棟として機能した。

 SCU病棟には、日勤帯に約15名、夜勤帯に6名の看護師が勤務した。医師と看護師を中心に、放射線科や検査科と連携し、多くの緊急入院を受け入れた。適応例に対しては、血栓溶解療法や血管内治療といった最先端の急性期治療を積極的に実施した。日勤帯、夜間帯、土日祝日を問わず24時間体制で2~3名(スタッフ医師または専門修練医とレジデント)の緊急当番医および当直医が対応し、救急隊や近隣医療機関とホットラインを通じて直接連絡を取りながら、脳卒中急性期医療を提供した。また、豊田・塩澤が心臓内科の田原医長、脳神経外科の片岡部長らと協力し、救急隊への訪問を通じて患者搬送の促進に努めた。古賀・塩澤・鴨川は、脳神経内科の阿部医師、脳神経外科の山田医長と協力して大阪広域の救急隊に対してPCEC・PSLS講習を行った。一方、古賀・井上・吉村・三輪・吉江は近隣医療機関を訪問し、集患活動を行った。脳神経外科とは緊密に連携し、適切な血管内治療や開頭手術を実施した。

 2024年には約1,900例の緊急入院を受け入れ、そのうち時間外緊急入院(平日夜間および土日祝日)は1,224例であった。疾患別の内訳は、急性期脳梗塞770例、急性期脳出血231例であった。静注血栓溶解療法は92例(前年118例)、緊急血管内治療は134例(前年138例)に実施した。

 急性期脳梗塞における血管内治療に関しては、医療コミュニケーションツール「JOIN」を活用し、脳神経外科と24時間体制で連絡・情報共有を行った。さらに、画像診断にはRAPIDシステムを使用し、発症後24時間までの症例にも積極的に治療介入を行った。急性期脳出血では、診断後できるだけ早期にニカルジピン静注薬を用いて、収縮期血圧140mmHg前後を目標とした厳格な血圧管理を実施している。2022年より、静脈炎予防対策として早期から経口降圧薬の導入を推奨し、静脈炎発生率を低減させている。また、2022年4月から新たに導入された「重症患者初期支援充実加算」に対応するため、毎朝SCU師長・SCU責任リーダー・SCU医長が回診を行い、要件を満たすよう管理した。さらに、SCU責任リーダー・SCU医長が病床管理と抑制解除ラウンドを実施し、適切な入院日数の確保と抑制解除の協議を行った。

 急性期入院症例の多くを臨床研究や治験に登録した。診療チームは、指導医師1~2名と専門修練医またはレジデント2~3名の計3~4名で構成され、入院時から診療を担当し、全例の診療内容を毎日確認して治療方針を検討した。日勤帯の緊急入院においては、担当診療チームが可能な限り初期から対応することで、緊急当番医が次の緊急対応を円滑に行えるよう配慮した。

 毎朝のSCUカンファレンス、水曜日朝の頸動脈カンファレンス(脳血管部門全体)、木曜日朝の血管内治療カンファレンス(脳血管部門全体)、木曜午後の脳血管内科および脳神経内科回診では、各症例の診断、治療方針、問題点を議論し、診療レベルの維持・向上に努めた。このシステムは、脳血管障害診療に従事する医師の育成にも寄与している。

 また、看護師、リハビリテーション科スタッフ、放射線科、検査科、栄養科と協力し、多職種連携による脳卒中診療を実施した。脳卒中患者が入院した際は、入院日にリハビリテーションをオーダーし、入院当日または翌日からリハビリテーションを開始できる体制を整えた。さらに、脳卒中に関連するてんかん診療にも注力している。

 2011年から運用しているSCU入院例を中心とした脳血管内科・脳神経内科の脳卒中合同データベース(NCVC Stroke Registry)の登録症例数は11,000例を超えた。このデータベースは、多くの研究や臨床試験の基盤として活用されている。

2024年の主な研究成果
  • 脳卒中部門として救急応需率の維持
  • 国内ガイドライン・推奨作成への貢献
  • 研究者主導国内多施設共同第Ⅱ相試験T-FLAVOR試験の運営
  • 国際共同試験研究者主導第Ⅲ相試験FASTESTの運営
  • 国内多施設共同研究AFIDA1・AFIDA2の中央事務局運営
  • 各臨床治験の症例登録・管理
  • 国内脳卒中臨床試験研究者ネットワークNeCSTの運営
  • 急性期患者連続登録NCVC Stroke Registryを用いた単施設研究の推進
  • 脳卒中データバンク事業の管理運営