分子薬理部
研究活動の概要
分子薬理部で新谷を中心に取り組んできた課題は、
- ミトコンドリア呼吸鎖の活性調節機構の解明と創薬研究
- 遺伝性拡張型心筋症の病態形成に関与する新規分子標的の探索、機能解析
- ミトコンドリア心筋症の病態進展機構の解明とヒト組織への展開
- MSC移植治療の機序解明:マクロファージのエフェロサイトーシス亢進と修復型転換
である。R6年度は、1. チトクロムCオキシダーゼ(CcO)のアロステリック活性化剤の開発をすすめ、以前のヒット化合物から物性が改善したリード候補化合物を創出し、マウスモデルでの有効性を確認した。2. 当研究室で同定したメカノシグナルに関与する介在板タンパク質が遺伝性心筋症の病態修飾因子であり、有望な創薬標的であることを明らかにし、治療薬開発をすすめている。
3. 1細胞核RNAシークエンス(snRNA-seq)を施行し、ミトコンドリア機能低下に伴って、代償から不全に移る病態進行過程において重要な転写因子の同定に成功した(Sci Adv, in revision)。
2024年の主な研究成果
- ミトコンドリア呼吸鎖の活性調節機構の解明と創薬研究
チトクロムCオキシダーゼ(CcO)の活性をアロステリックに調節する内因性のタンパク質Higd1aの発見に基づき、低分子化合物によるCcO活性化による創薬研究を進めている。これまでのヒット化合物は患者細胞、モデル動物での薬効は認めたものの物性、hERG阻害など開発を進めるにあたり問題点があった。そこで有機合成により化合物の改変に取り組み、溶解度・膜透過性・代謝安定性などの物性が改善し、hERG阻害も改善したリード候補化合物を創出し、マウスモデルでの有効性を確認した。低分子のみならずHidg1aタンパク質の改変、de novoタンパク質の創出にも取り組んでいる。 - 心疾患の病態形成に関与する新規分子標的の探索、機能解析
当研究室で独自に同定したメカノシグナルに関与する、介在板に存在する膜タンパク質が遺伝性心筋症の病態修飾因子であり、有望な創薬標的であることを明らかにした。この知見に基づき、2つの異なるモダリティでAMED研究費を獲得し、開発を進めている。 - ミトコンドリア心筋症の病態進展機構の解明とヒト組織への展開
ミトコンドリア病(MD)の根本的な原因は、ミトコンドリア呼吸鎖の機能不全であり、現在も有効な治療薬がない難治性疾患である。MDの病態進行メカニズムを理解するために、経時的に心機能低下がみられるミトコンドリア心筋症(Mitochondrial cardiomyopathy: MCM)モデルであるNdufs6 KDマウス(PNAS. 2012:109;6165-6170)(FS6KD: Ndufs6は呼吸鎖複合体Iのサブユニット)の心臓組織を用いた1細胞核発現解析(snRNA-seq)を行った。その結果、ミトコンドリア機能低下に伴って、代償から不全に移る病態進行過程において重要な転写因子の同定に成功した。この知見に基づき、国立循環器病研究センターで診療されたミトコンドリア心筋症症例の1細胞発現解析、空間トランスクリプトーム解析を実施し、ヒトでも同転写因子の重要性が保存されていることが示唆された。現在、知見をまとめ論文投稿中(Sci Adv, in revision)。 - MSC移植治療の機序解明:マクロファージのエフェロサイトーシス亢進と修復型転換
R6年度は、ヒト単球細胞株(THP-1)からマクロファージ4亜型(M0、M1、M2a、M2c)への分化誘導系を確立し、Bcl-2/BCL-XL/MCL-1に対する阻害剤にてアポトーシスを誘導したMSC(iPS細胞から分化させたiMSC)をエフェロサイトーシスさせ、iMSCの取り込みがマクロファージの遺伝子発現にどのような影響を与えるかについて、RNA-Seqにて網羅的に検討を行った。また併せて、日本赤十字社との共同研究にて、輸血血液の製造過程で使用する白血球除去フィルターから末梢血単球を単離し、マクロファージへ分化誘導するin vitro実験系を確立した。