創薬オミックス解析センター
沿革

創薬オミックス解析センターはオミックス解析を通じて、循環器疾患の原因究明、創薬や治療・診断・予防法の開発とより豊かな医療を提供するために、2015年4月に設立され、オミックス解析推進室、ゲノム系解析室、プロテオーム系解析室、統合オミックス情報解析室の4室体制で研究活動を開始した。
2019年4月の国循センターの改組に伴い、創薬オミックス解析センターはバイオバンク・循環器病統合情報センターとともにオープンイノベーションセンターの傘下に入った。同4月、蒔田センター長が赴任し、同5月、創薬オミックス解析センターは藤代台から健都に移転した。2022年4月山口センター長(愛媛大学とのクロスアポイント)が着任した。創薬オミックス解析センターは2022年12月のメディカルゲノムセンター発足にあたって参加しており山口は同センター長も併任している。現在は副センター長に髙橋篤(併任、病態ゲノム医学部部長)、白井学室長(統合オミックス情報解析室)、若林真樹室長(プロテーム系解析室)、吉田守克上級研究員、坂橋優治リサーチフェローが在籍している。2022年度に病態分子機構解明並びに創薬のために新たにHTSワークステーションが設置された。

研究活動の概要

創薬オミックス解析センターは、循環器疾患により引き起こされる組織、細胞、体液中の生体分子の変化や変動を、ゲノム・エピゲノム・トランスクリプトーム・プロテオームのレベルで網羅的・高精度に測定(多層オミックス解析)する。蓄積された生体分子情報に基づいて、1)疾患発症に関わる分子機序を明らかにし、2)疾患や病態・予後を診断・評価する方法を開発し、3)創薬標的となる分子を発見し医薬品開発に応用し、4)疾患発症予防法の開発を目標としている。創薬オミックス解析センターの研究概要は以下のとおりである。

  1. 重症心筋症の多層オミックス解析
    移植医療部との共同研究「心筋症、心筋炎及び心臓移植後患者を対象とした多層オミックス解析を用いた病態解明と予防・治療法開発に関する研究」が2021年6月に承認され、心臓移植の対象となる重症心筋症について、TruSight Cardioを用いた174遺伝子のターゲットエクソン解析を行った。さらに2022年3月「心筋症、心筋炎及び心臓移植後患者を対象とした多層オミックス解析を用いた病態解明と予防・治療法開発に関する研究」(研究総括責任者:塚本泰正)が国循センター研究倫理委員会の承認を得て、拡張型心筋症、不整脈原性右室心筋症、ラミン心筋症などの重症心筋症を対象とした解析を行ってきた。極微臨床試料を用いた多層オミックス解析手法を開発し、RNA-seq解析を用いた、心臓移植後の心内膜生検のFFPE薄切切片1枚から拒絶反応特異的な遺伝子発現変動の検出が可能になった。また1細胞解析による心疾患の病態解明を進めるとともに、空間的遺伝子解析を用いた疾患メカニズムの解明に着手した。プロテオーム解析では、FFPE薄切切片1枚から病態を反映したタンパク質量の変動を捉えることに成功した。また特発性心筋症における網羅的プロテオーム解析を多数例実施し、データベース化に着手している。

  2. 心筋症モデル動物を用いたオミックス解析
    ヒト心筋症のモデル動物(遺伝子改変)についてシングルセルオミックス解析、網羅的タンパク質発現解析ならびに超微細構造解析を経時的に実施し、心筋細胞特異的な遺伝子・タンパク質発現変動を確認し、心筋症病態の発症進展に関する分子機構候補を見出した。脆弱な心筋組織からの適正なシングルセルオミックス解析に最適な条件の開発を行っている。

  3. HTSシステムを用いた創薬分子標的および創薬スクリーニング
    Opera Phenix Plusによるハイスループットでのハイスピードイメージングを核とし、HTSワークステーションを構築している。本ワークステーションによる全自動化作業により、siRNAライブラリによる分子機構の解明、様々な化合物ライブラリを用いた創薬支援に取り組んでいる。