脳卒中・循環器病次世代医療研究部
研究活動の概要

超高齢社会の到来に伴い、健康寿命の延伸を達成するために、脳卒中を含む循環器病の制圧は喫緊の課題である。本研究プロジェクトでは、脳卒中患者を対象に、DPCから取得したビックデータや、電子カルテから取得しうるサマリーや検査結果等を含むテキストデータ、画像情報等から、新規医療技術の評価や至適な医療提供体制の整備に貢献するデータベース基盤を構築するとともに、機械学習や深層学習などで得られた知見の提供を目指している。

2023年の主な研究成果

  1. J–ASPECTデータを用いたくも膜下出血(SAH)症例における脳血管攣縮の研究
    DPCデータには入院時と退院時ADLの情報が存在し、手術治療を含む介入行為が臨床転帰に関わる解析を実施してきた。一方で脳血管攣縮(Vasospasm)などの合併症の発生などを正確に特定する上で、入院機関内の重症度の推移が必要となるが、ビックデータでは詳細な重症度の推移を収集方法は確立されていない。DPCデータにはA項目(モニタリング及び処置等)、B項目(患者の状況、Hファイルから抽出)、C項目(手術等の医学的状況)から算出される看護必要度が日単位で入力されている。本研究ではビックデータを用いたVasospasm研究の立ち上げ、看護必要度の変化により入院期間内の重症度の推移が捉えうるかを検討した。2017〜2020年度にJ-ASPECT研究協力施設に破裂動脈瘤によるくも膜下出血により入院となった56,933症例を対象に、入院日、入院4/7/14日目、及び退院前日の看護必要度を収集し、臨床転帰と看護必要度に有意な関連を示すことを見出して論文投稿中である。J–ASPECTデータを用いて、SAHに対してクリッピングないしコイル治療による根治術を行った30,134例を評価した。来年度は、看護必要度からSpasm症例を特定し大規模データベースによるSpasmの発生リスクなど解析する。
  2. 非外傷性頭蓋内出血症例に対する頭部CTの自動評価
    DPCによる臨床データに脳画像情報で得られる情報を組み合わせて、機械学習による血腫増大を予測する臨床判断支援システム(Clinical Decision Support System, CDSS)の開発を実施した。頭部CTにおける脳内出血を3D情報での自動抽出が可能となれば、出血の部位診断及び体積を計測が可能となる。血腫の部位及び体積は手術適応に関わるものであり、自動抽出化により手術適応の判断の補助が実現可能となる。脳神経外科専門医による頭部CTに含まれる血腫の部位を全スライス上で色塗り(Segmentation)を実施し、U-Netを用いて学習させた。U-Netにより構築した血腫のSegmentationの精度はDice Similarity Coefficient(DIC)係数で評価するが、脳内出血(DIC : median 0.92, avg. 0.88±0.01)において既存の報告を上回る精度が得られた。
    またU-Netで得られた情報(画像情報)から出血の部位(言語情報:脳内出血の頻度の高い被殻、視床、皮質下、小脳、脳幹の5つに分類)を予測するためTransformerを組み合わせ、血腫の部位診断の自動化を試み、高い精度が得られた(AUC:被殻 0.68, 視床 0.63,皮質下 0.77,小脳 0.83,脳幹 0.60)。血腫の部位及び体積測定の自動化が精度良く可能となったことから、ガイドラインに準拠した手術適応の判断が可能となった。一方で非手術症例の428症例のデータを用いて、Follow時の血腫が増大するか否かを予測するモデルを構築した。血腫のSegmentation部位から抽出された画像的特徴 (Radiomics)、DPCから得られた臨床情報を使用して予測を行い、既存報告に比較し精度の高いモデルを構築しえた(スライド24)。予測モデルを制作した過程において、臨床情報単独、Radiomics特徴量単独で得られる予測精度より、両者を合わせた予測では精度が高いことがわかり、論文として報告予定である。また上記の脳出血に対する手術適応の評価や、非手術症例に対する血腫の増大を予測するシステムを一連の流れを新規特許として出願した。
  3. 脳梗塞症例の長期的予後の評価及び疾患管理を可能とするネットワーク構築
    クラウドサービスを介して、患者・家族及び医療機関、介護事業所、薬局間で、退院サマリーや循環器病再発予測などに関わる重要項目、介護情報等を共有できる。同サービスと連携可能な疾患の自己管理ツールにおいて、患者自身が自身の医療情報を所持しつつ、血圧や体重、服薬管理、及び退院後のQOLを定期的に入力することで、再発や重症化の予防につながる情報を共有することを可能とする。パソコンやタブレット端末、スマートフォンを使って、患者・家族及び在宅ケアの関係者間(医療機関、介護事業所、薬局)で介護情報や生活情報を共有できるサービスにより、双方向性の情報共有が可能である。
    本研究で、阪急阪神ホールディングスと共同で脳梗塞後の疾患管理を目的としたPHRアプリケーション*1を開発し、同社が提供している患者を中心としたクラウドサービスとの連携手法を検討した。現在Pilot Studyとして、70〜80代を中心とした脳梗塞を発症した患者様に協力いただき、疾患管理を目的としたアプリケーションを使用開始した。1ヶ月後のアンケートにて使用感を確認し、操作性に問題がなく、継続使用を検討していることなどが聴取できた。今後は回復期や維持期の医療機関、薬局、介護事業所等にもクラウドサービス*2に参入いただき、多職種・多施設連携による患者管理を実施予定としている。
  4. *1 いきいき羅針盤 https://healthcare.hankyu-hanshin.co.jp/info/15159/
    招待制にて脳卒中後の疾患管理項目「ストロークノート」を案内中

    *2 阪急阪神みなとわ https://minatowa.hankyu-hanshin.co.jp

学会発表等
  • 連乃駿、飯原弘二ら、第48回日本脳卒中学会学術集会、シンポジウム3、脳卒中レジストリー・医療情報の現状と展望、演題:急性期虚血性脳卒中医療の質の評価、現状と今後の課題について
    2023年3月16~18日
  • 渡辺省吾、連乃駿、飯原弘二ら、第42回日本医用画像工学会大会、OP14-3「MRI FLAIR画像を用いた異常検知による脳梗塞再発予測の検討」 2023年7月29日(土)
  • 渡辺省吾、連乃駿、飯原弘二ら、日本脳神経外科学会第82回学術総会、シンポジウム16、SY16-4「機械学習・AI技術による臨床情報・自然言語処理・MRI FLAIR画像を用いた脳梗塞の再発予測」 2023年10月25日(木)