現代の医療において、疾患の正確な診断、治療方針の策定、治療効果の判定において、画像診断は極めて重要な役割を果たしている。国循の放射線医学分野では、高度な循環器病画像診断と低侵襲治療の推進を使命としている。これを受け放射線部では、最新の放射線機器を駆使し、臨床実践と研究開発を並行して進めている。循環器病の病態を的確に把握するための画像診断技術の向上と、それに基づく治療法の革新を目指している。これにより、患者様に対してより迅速で適切な医療を提供できるよう努めている。また学術的分野においては国内では日本医学放射線学会、日本IVR学会、日本核医学会、日本磁気共鳴学会などに積極的に参加し、研究発表を行うとともに、北米放射線学会、ヨーロッパ放射線学会など国際的な学会においても研究成果を発信している。
さらに、国循放射線部は心臓血管内科、心臓血管外科、脳内科、脳血管外科など様々な診療科と緊密な連携を図かり、協力体制を構築し、最先端の診断技術および治療法の開発と臨床評価を共同で進めている。我々の目標は、循環器疾患領域において常に最良の医療を提供することで、患者様の健康と生活の質を向上させることにある。
(心臓:2,507件/冠動脈:1,708件/脳灌流:768件/脳血管3D:632件)
CT部門では、最適なタイミングで迅速に画像や検査結果を提供し、検査の生産性を高めることを目的として研究活動を進めている。具体的には、イメージングバイオマーカーや人工知能などの新技術を実臨床に応用することについて、放射線科医と診療放射線技師のチームが実証実験を行っている。
本年度は、まず重症大動脈弁狭窄の患者における予後予測にCTで測定した心筋細胞外液量の重要性を実証し、国内学会で報告し表彰された。また、CTを用いたエネルギー弁別による大動脈弁石灰化の定量評価や、人工知能による自動解析を用いた冠動脈石灰化の精度向上により、被曝量を減少させることも国内学会で報告した。多機関共同研究により開発された画像処理人工知能のノイズ低減法が実際の臨床画像の心臓CTの質向上に貢献することを昨年に引き続き海外学会で報告した。さらに実臨床に応用しやすくするための工夫として、ノイズ低減用の人工知能モデルの設計の改善法に関する報告も行った。
また、CT技術の複雑化と専門性の向上に伴い、初心者やリフレッシャーズ向けの教育への需要も高まっている。個々人の学習進度を可視化する手法を用いることで、対象者の満足度が高まった点も国内学会で報告した。
(心臓:1,288件/冠動脈:297件/脳灌流:689件/脳血管3D:12,948件)
MRI部門においては、ディープラーニングを用いた再構成法を応用した高画質化・高速化に関する基礎実験や臨床応用、新たな緩和時間定量技術の検証、新たなプラークイメージング手法の確立、心臓MRIの撮像時間短縮に向けた実験などに関して研究を行い、国内、国際学会等での報告及び誌上公表を行い、臨床応用にむけて調整を行った。
Deep learningを用いた再構成であるDeep Resolve法を心筋のT2強調画像およびT2 Mapに応用する検討を行い、多断面かつT2強調画像とT2 Mapの同時撮像が可能なプロトコルを作成し、従来法と比較して同等の精度であることを確認し、国際学会にて報告を行った。また、体位変換による心機能や血流の変化に関して、新たな撮像技術である3D Cineと4D Flowを用いることで妥当な評価が可能であることを確認し、国際学会にて報告を行った。さらに、自由呼吸下に高時間分解能で心筋灌流画像が撮像可能であるGRASP-Vibe法の基礎的検討を国内学会にて報告を行い、さらに臨床例を蓄積し、その定量評価の有用性に関して国際学会にて報告した。心臓MRIの効率化に向けて、自由呼吸下に撮像可能な3D Cineを考案し、従来法と同等の機能評価を維持しながら自由呼吸下での撮像および後処理での任意断面作成が可能であることを国内学会にて発表を行った。
また、長い検査時間や煩雑な撮像技術が問題となる心臓MRIに関して、ファントムを用いた練習や撮像時間短縮の工夫などを含めた効率的な心臓MRI運用を目指した基礎実験に関しても報告を行った。
冠動脈プラークイメージングに関しては、多施設共同研究のための標準化プロトコル案を作成・提案し、一次予防における有用性について症例の蓄積を継続している。さらに冠動脈プラークの画質に対する心拍等患者要因の影響を調べ、撮像法最適化の検討も行っている。
脳血管、腹部血管領域では非造影MRパフュージョンの撮影最適化や解析法の検討、短時間での脳血管高分解能撮像を行い、脳血管疾患、てんかんの評価、腎臓の灌流評価に積極的な応用を行った。
多施設共同研究として、MRIの検査時間の短縮を目的とした機械学習手法による超解像技術の応用に関する研究結果は基礎的な内容に関しては、論文報告をおこない、次のステップとしてリアルワールドでの実証実験を開始している。
(心臓PET(18F-FDG):185件/血管炎PET(18F-FDG): 63件/
心臓PET(13N-アンモニア):246件/脳PET(15O-GAS):283件/
地域連携核医学検査:832件)
RI部門では、他院からの核医学検査依頼を核医学検査室直通で受け付け、検査日の翌診療日には結果を返送する体制を整え、画像診断地域連携の強化を継続して行っている。地域医療を担う核医学検査室として周辺の医療施設と定期的に交流し、web研究会などを通じて核医学検査の有用性や新たな知見などの情報発信を行っている。また企業とも定期的にミーティングを行い、最新知見の取得や撮像技術の向上に努め、国内学会や国際学会で研究報告を行っている。
PET検査では13N-アンモニア心筋血流PETを用いて心筋血流予備能(MFR)の年齢別・性別のノーマルデータベースを作成し北米放射線学会で報告した。その他にも13N-アンモニア心筋血流PETにおける右室ストレイン解析や、微小循環障害の新たな指標として13N-アンモニア心筋血流PETにおける左室の一過性虚血性内腔拡大(TID)の有用性についても国内学会や国際学会で報告した。また当センターで開発した世界初の迅速O15ガスを用いて腎疾患患者の腎機能・循環イメージングを撮像し、臨床応用を進めている。その他に新たな心筋血流PET製剤の治験にも積極的に参加し、国内最多の撮像件数を得た。
SPECT検査では、診断精度向上に関わる研究や新たな撮像技術の考案を積極的に行っている。PYPシンチグラフィを用いた心アミロイドーシス診断において、超早期像(PYP投与後10分後の画像)が従来の1時間後像または3時間後像と同程度の診断精度を有することを米放射線学会で報告した。また、心筋血流SPECTの画像を人口知能でPET類似画像に変換するvirtual PETを用いた多施設共同研究に参加し、心筋血流SPECTにおける右室の血流および機能評価の有用性を研究している。
(胸部大動脈ステントグラフト内挿術:69件/腹部大動脈ステントグラフト内挿術:63件/
バルーン肺動脈形成術:201件/肺動静脈瘻塞栓術:2件/経皮的腎形成術:11件/
経動脈的止血術:18件(緊急:9件))
カテーテル部門においては、大動脈瘤や大動脈解離に対するステントグラフト治療についての技術的成功率の向上に関わる研究および長期成績向上に関わる治療技術の考案、治療成績向上につながる画像診断についての研究、臨床診療を行っている。また、血管外科と共同で慢性大動脈解離について「大動脈解離術後の偽腔拡大に対する血管内治療の中長期成績と安全性に関する臨床研究」が進行中である。
また、慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)に対する、肺動脈バルーン拡張術および治療に効果的な画像診断についても研究、臨床診療を引き続き行っている。企業と連携しBPA後の治療予後、再治療適応基準を確立するために人工知能を用いた画像データ遡及的解析についても進行している。
周産期医療における産褥期危機的出血や消化管出血をはじめとする緊急でのカテーテル止血術にも原則すべての症例に対応している。
塞栓技術や血管造影技術の向上のため、基礎的研究にも取り組んでおり、血管造影検査における新たな定量的評価法についての研究成果を国内学会で報告した。また、塞栓物質の塞栓効率についての研究結果を国再学会で報告予定である。