ゲノムとは、遺伝子「gene」と、すべてを意味する「-ome」を合わせた、遺伝情報全体を意味する用語で、ゲノム情報は、生命の設計図といえます。ほとんど全ての病気はその人自身のゲノム情報(遺伝要因)と、病原体や外的影響(環境要因)の両者が影響し合って起こります。近年のゲノム解析技術の著しい進歩に伴い、個人のゲノム情報に基づいて、個人の体質や病状に適した、より効果的・効率的な疾患の診断、治療、予後予測、予防介入を行う「ゲノム医療」が発展しつつあります。
国立循環器病研究センターでは、これまで、マルファン症候群、遺伝性不整脈、家族性高コレステロール血症、などの遺伝性疾患を中心に、ゲノム情報の影響が大きい疾患を中心にゲノム医療にとり組んできました。これらを発展させるとともに、その他の循環器領域の心筋症を含む難病・希少疾患はもちろんのこと、将来は心筋梗塞、脳卒中、生活習慣病などのありふれた病気に対してもゲノム医療を推進できるように、2017年4月から、診療科横断的な「ゲノム医療部門」が設立されました。
ゲノム医療部門は、QT延長症候群、カテコラミン誘発性多形性心室頻拍、ブルガダ症候群などの遺伝子不整脈を担当する「心臓ゲノム医療部」、マルファン症候群とその類縁疾患を中心に診療を行う「血管ゲノム医療部」、家族性高コレステロール血症を中心に診療を行う「内分泌代謝ゲノム医療部」、そして遺伝子検査や遺伝カウンセリング、遺伝情報の管理等を担当する「ゲノム医療支援部」から構成されます。
ゲノム医療部門の診療においては遺伝子診断から遺伝カウンセリング、治療までを行う体制を構築しています。
ゲノム医療部門ではこれまでの遺伝性不整脈、マルファン症候群、家族性高コレステロール血症に加えて、2020年度より遺伝学的検査が保険適用になった特発性血栓症について遺伝子解析に基づく臨床研究を臨床各科・研究所と共同して行っています。
また、遺伝相談室では産婦人科部と協力して、NIPTコンソーシアムの協力施設として、無侵襲的出生前遺伝学的検査(non-invasive prenatal genetic testing:NIPT※)を臨床研究として実施しています。※NIPTは、遺伝カウンセリングを行なったうえで母体から採取した血液をスクリーニングして特定の胎児染色体異常を検知する方法です。
さらに2022年度にセンター内に設置された、メディカルゲノムセンターの一員として、ゲノム医療部門は臨床と基礎をつなぐ架け橋として活動を開始しました。さらに、それらの取り組みの一環として、ゲノム情報の利活用を推進し、あらたなゲノム医療を創るため以下の研究等を自ら実施または参加しています。
- 循環器疾患におけるゲノム医療推進のための全国規模プラットフォームの構築
- 日本医療研究開発機構の
- 未診断疾患イニシアチブ(IRUD)研究事業
- 難病のゲノム医療推進に向けた全ゲノム解析基盤に関する先行的研究開発
- マルチオミックス連関による循環器疾患における次世代型精密医療の実現