移植医療部における研究活動の主たるテーマは ①重症心不全ならびに難治性、希少心筋疾患、②心原性ショックに対する積極的な機械的循環補助、③補助人工心臓治療、④心臓移植治療、⑤組織バンク の5つに分けられる。これらをテーマとして重症心不全患者の予後改善と組織移植の実践を目指した臨床ならびに研究活動を行っている。
筋ジストロフィーに続発する二次性心筋症や、先天代謝異常症に続発する二次性心筋症を対象として他施設との共同研究を進めている。また当科ではDanon病やMarfan症候群に続発する二次性心筋症、さらには成人先天性心疾患による重症心不全症例も経験している。これら希少心筋疾患はその希少性ゆえ、重症心不全となった際の治療方針決定の判断基準などが定められていない。これら希少心筋疾患に対する当院の治療経験を国内外における治療方針決定の判断材料とするべく学会報告や論文報告を行っている。
劇症型心筋炎、急性心筋梗塞などの急性心不全や、特発性心筋症や二次性心筋症による慢性心不全の急性憎悪時により心原性ショックに陥った患者に対して、積極的に種々の機械的循環補助、具体的にはECMO、Impella及び体外設置型補助人工心臓を複合的に応用し、bridge to recoveryまたはbridge to bridgeを目指した治療を行っている。急性心不全や慢性心不全の急性憎悪に陥った患者の紹介を受けた際には、可及的速やかにチームを紹介病院に派遣し、患者の病態を把握し、治療方針を立て、現地の医療者とともにICを行った後、患者を当院に緊急搬送し、積極的に機械的循環補助を行って救命し、離脱もしくは、植込型補助人工心臓への移行を行っている。患者が回復し地元に帰る際には、紹介病院で研修会などを行い、フィードバックも行っている。
2023年は24件の植込型補助人工心臓装着(ポンプ交換3件含む)、12件の体外設置型補助人工心臓装着、8件のImpella装着を実施した。当科では循環器内科、心臓外科とともに、看護師、薬剤師、臨床工学技士、リハビリ部門、臨床心理士、精神科医師、Child life specialist、移植・人工心臓コーディネーターなど多職種からなる診療チームによって補助人工心臓治療を進めており、補助人工心臓装着患者の3年生存率は90%を超えている。2021年5月より植込型補助人工心臓によるDestination therapyが保険償還され、2023年は5件装着した。今後さらに、院外他施設、他職種との連携を積極的に進めていくこととしており、補助人工心臓患者のさらなる予後、QOLの改善に取り組む。またこれら補助人工心臓装着患者の社会復帰や社会的サポート体制の構築についても進めていく。
治療方針を決定するための補助人工心臓装着(Bridge to decision:BTD)の医師主導治験(NCVC-BTD_01)を2017年10月に開始し、2018年5月に終了した。INTERMACS Iの9例の患者で3例が離脱、6例が植込型補助人工心臓に移行し、全例生存した。総括報告書を2019年1月に提出し、ニプロ株式会社が薬事申請を2020年6月に提出し、2021年3月に薬事承認され、9月1日に保険償還された。
超小型かつ長期間安全に使用可能な体外循環システム(ECMO)の医師主導治験(NCVC_ECMO)を、当院を含めた3施設で2020年4月から開始し、2021年12月までに24例実施し、終了した。2022年、薬事承認申請を進めている。
第3波に突入した新型コロナウイルス感染症による重症呼吸不全治療としてのBiofloat血液ポンプ、Biocube人工肺とT-NCVCコーティングした回路を組み合わせた高性能ECMOの特定臨床研究を、東京、大阪の各々5施設で2020年12月から開始した。現在まで23例実施し、17例で生存離脱した。
2023年は当院において過去最多となる32例の心臓移植を実施し、2023年末における心臓移植数が203例に到達した。当院の心臓移植数は全国第二位であり、その予後も10年生存率90%以上と良好である。
当科ではさらに心臓移植を実施するのみならず、心臓移植数の増加を目指し様々な活動を行っている。臓器提供施設やドナーコーディネーターに対する講演ならびに情報提供を積極的に行うとともに、脳死ドナー出現時にはメディカルコンサルタントとして医師を提供施設に派遣することで、より良い状態での臓器摘出を目指した活動も行っている。
当院では、冷凍保存同種組織を用いた外科治療について、充実した専門家の配置の下、センター内に配置する「組織保存バンク」を利用し適切な組織採取および保存、さらには組織移植を実施している。
当バンクは、西日本組織移植ネットワークを運営し、西日本の組織提供の中心的な役割を演じており、2023年には18回の組織移植コーディネーターの派遣、16例のICを実施し、7件26組織の心臓弁・血管の採取を行い、13組織(院内10組織、院外3組織)の供給を行った。
また、教育面については、日本臓器移植ネットワーク・都道府県コーディネーターと連携するためのワーキンググループを日本組織移植学会中心に設置し、2023年には8回の当バンク主催の西日本組織移植ネットワーク組織移植コーディネーター研修会をドナー移植コーディネーターに対して、1回の心臓弁・血管採取の研修会を院内外の心臓血管外科医に対して開催した。平成30年4月に同種凍結保存組織外科加算が増点され、2023年には当院で10例、他院で3例の心臓弁・血管の移植が実施された。
- 当院のECMOを装着した心原性ショック患者において、胸部CTにおける肺野のdensityが予後予測に有用であることを報告した。
- 重症左心不全症例における毛細血管前後複合性肺高血圧の病態を植込型補助人工心臓(VAD)装着前後の血行動態から評価した。術前肺血管抵抗3Wood単位以上であった症例の約30%がVAD装着後も肺血管抵抗高値であり、1年後でも約8%が高値であった。術後3年では全ての症例で肺血管抵抗が正常化していた。
- 植込型VAD装着後の合併症として重要なドライブライン感染症について、静脈内留置カテーテル、硝酸銀溶液、モノフィラメントナイロン糸を用いた処置の有用性について報告した。
- 植込型VAD装着患者における、装着前後の健康関連QOLについて評価した。植込型VAD装着3ヶ月および12ヶ月後の健康関連QOLは術前に比べて著明に改善していた。特に身体的健康状態に関する指標は社会的関係、自立度、心理学的健康状態に比べてより著しく改善がみられた。
- 植込型VAD装着患者において、術後運動耐容能の改善に係る因子を検討し、右心機能、抑うつ症状、下肢筋力が関連していることを報告した。