【世界初の脳動脈瘤治療用カバードステント開発】
当科では、生体医工学部の中山泰秀室長(当時)と当科の佐藤徹医長(当時)が中心になって、治療困難な大型脳動脈瘤の根治を目指した新規脳動脈瘤治療用ステント「多孔化カバードステント(NCVC-CS1)」を開発し、2018年度に医師主導治験を完了した。2020年には厚生労働省の先駆け審査品目に指定され、2021年に検証的治験を開始した。早期上市に向けて治験を進捗させている。
【フローダイバーター留置術におけるTEG6sを用いたプレートレットマッピングの有用性を評価する多施設共同研究(FUTURE study)】
未破裂脳動脈瘤に対するフローダイバーター留置術の周術期における虚血性及び出血性合併症の発生とTEG6sの測定結果との相関を調べ、今後の適切な抗血小板療法の指標とすることを目的に、特定臨床研究を開始した。目標症例数300例のうち、すでに200例が登録され、2024年度中の登録終了および解析開始を目指している。
【脳梗塞急性期血栓回収療法に関する研究】
脳梗塞急性期における脳前方循環主幹動脈急性閉塞(Large vessel occlusion: LVO)に対する機械的血栓回収療法は広く行われているが、新たな機器の開発や脳灌流画像の応用などによりさらに適応が拡大する可能性がある。
当科では脳血管内科、脳神経内科と共同して機械的血栓回収療法を実施しており、各閉塞動脈別の最適な手技および機器選択、CTもしくはMRIで評価した脳灌流画像に基づく適応判断の適正性、それぞれの臨床転帰などについての研究を行っている。最近ではLVOの25-40%を占めると言われているMedium vessel occlusion (MeVO)症例に関する解析を行なっている。MeVOは内頚動脈や中大脳動脈中枢側閉塞などのLVOと比較し閉塞部位が遠位で虚血範囲が広くないがしばしば予後不良であり、MeVOに対する血栓回収療法への期待は世界的に高まっている。同分野に関する学会発表を行なったほか、論文として投稿中である。
【もやもや病の病態と治療に関する研究】
もやもや病の発症機序は、RNF213多型の関与が知られているが未だ不明である。外科的治療介入となった患者を中心に積極的に解析を行う方針としており、33例が解析終了、39例が解析予定である。また、もやもや病に起因する脳卒中のうち脳梗塞については血行再建術による予防効果が知られているが、出血転化の機序や治療介入の適応については明らかになっていない。2022年には出血型もやもや病に関する京都大学および当センターの共通データベースを作成した。2023年には長期予後における出血イベントと出血ハイリスクの側副血行路に関する解析を行い、論文作成中である。引き続きデータ収集と解析を行っていく。
【甲状腺疾患と頭蓋内血管狭窄に関する研究】
2021年のもやもや病診断基準の改訂により、甲状腺疾患の合併があってももやもや病と診断可能となった。当科からは抗甲状腺抗体陽性頭蓋内血管狭窄症について、その特徴と経過中の脳血管イベントリスクについて論文報告している。抗甲状腺抗体の病的意義を明らかにするため、多施設共同研究への発展を目指し症例蓄積中である。
【脳神経外科手術におけるハイブリッド手術室の活用に関する研究】
当センターでは2019年の移転にあたり、バイプレーン脳血管撮影装置を備えた脳神経外科専用ハイブリッド手術室を、全国の病院に先駆けて導入・運用しシーメンス社との共同研究を行っている。複雑な脳血管障害に対するハイブリッド手術のみならず、通常の血管内治療や術後CTおよび術中血管撮影を併用する直達手術においても同システムを活用している。また、くも膜下出血などの緊急疾患においても積極的に同室を使用して、治療の効率化を図っている。2023年度はより積極的に活用することで治療件数を増やすとともに、同手術室を用いた脳動脈瘤治療の治療戦略と成績について論文を作成し投稿した。未来の脳外科手術室の発展に貢献すべく、今後も積極的な運用・検証を行っていく。
【脳動脈瘤に関する研究】
2020年度11月より国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)との契約にて研究プロジェクト”脳動脈瘤ビッグデータとAIを用いた増大破裂関連因子抽出と予測システムの構築”を行っている。本研究では脳動脈瘤患者背景データベースを構築し、AI技術を用いて、”脳動脈瘤自動診断技術”と”脳動脈瘤増大破裂予測システム”を開発することを目的としている。2023年度は、脳動脈瘤自動診断技術を確立し、患者背景因子を使用した脳動脈瘤増大破裂予測システムと頭部MRI画像を使用した脳動脈瘤増大破裂予測システムを組み合わせた統合予測システムの作成を進めた。今後の臨床研究につなげていく。最終的には世界初の精度の高い脳動脈瘤増大破裂予測システムを完成させ、医療機器申請と臨床応用を目指していく。
【脳動静脈奇形の病態と治療に関する研究】
当センターは直達手術、血管内治療、定位放射線治療(ガンマナイフ)を高水準に同一施設内で行うことが可能で、治療件数は全国トップクラスであり、多数の紹介を受けている。今後も専門外来を継続することで、さらなる症例集約と手術実績・成績維持に努める。当センターでの治療成績については、学会発表および論文報告を行い、症例蓄積を継続している。2019年に最新型ガンマナイフICONに更新し、より精度の高いプランニングソフトLightningも導入し、さらなる低侵襲治療が可能となった。ICONを用いて、これまで治療困難とされている大型脳動静脈奇形に対する治療方法の確立を目指した臨床研究を推進していく。
【頚動脈プラークのリスク層別化に関する研究】
これまで頚動脈の石灰化プラークは脳虚血イベントを起こしにくい安定プラークであるということが定説であった。一方で最近になり、頚動脈CTにおける石灰化病変の分布やサイズによっては不安定プラークとなりうるという報告が見られるようになり、本分野のトピックになっているが、依然としてその議論の結果はControversialのままである。我々は石灰化の分布や形状に着目して、その中でもCarotid rim signとCalcified noduleについて注目した。するとCarotid rim signはプラーク内出血と関連するだけでなく、症候の再発にも関連するという新たな知見が得られた。また、Calcified noduleは有意に女性かつ症候性病変に多く存在し、頚動脈ステント留置術に不向きである可能性があることを発見した。学会発表を複数回行い、論文としては英文雑誌に1本掲載、1本は英文雑誌において査読中である。今後深層学習なども導入しCT画像及び新規バイオマーカー分子も含めた病理組織解析を行うことで、石灰化プラークの意義を明らかにすることを目指すとともに同テーマで各種競争的研究費を申請中である。
- 大型脳動脈瘤の新規治療デバイスである多孔化カバードステント(NCVC-CS1)に対する検証的治験を遂行している。
- 未破裂脳動脈瘤に対するフローダイバーター留置術における、抗血小板療法の新規指標としてTEG6sを使用した特定臨床研究を開始し、症例登録が順調に進んでいる。
- 機械的血栓回収療法における最適な手技および機器選択、脳灌流画像に基づく適応判断の適正性、臨床転帰などについての研究を脳内科と合同で行っている。最近では、Medium vessel occlusion (MeVO)症例を中心に解析しており学会発表する。
- 出血型もやもや病に関して京都大学と新たに合同データベースを作成した。術後出血イベント発生に関する解析を行い、現在論文化している。
- 甲状腺疾患合併もやもや病症例を蓄積しており、もやもや病および自己抗体陽性頭蓋内血管狭窄の病態解明を目指し解析している。
- ハイブリッド室での治療件数を増やし、有用性についての論文を投稿中である。
- AIを用いた脳動脈瘤自動診断技術を確立した。患者背景因子を使用した増大予測システムと頭部MRI画像を使用した増大予測システム開発を組み合わせた統合予測システムを作成し、検証していく。
- ガンマナイフ導入以来の当センターの脳動静脈奇形の治療戦略と治療成績につき、全国学会にて発表を行った。大型脳動静脈奇形に対する治療方法の確立を目指した臨床研究を推進している。
- 石灰化プラークの意義に関して頚動脈狭窄症データベースを用いた解析により、Carotid rim signはプラーク内出血と関連するだけでなく、症候の再発にも関連すること、Calcified noduleは有意に女性かつ症候性病変に多く存在し、頚動脈ステント留置術に不向きである可能性があることを報告した。学会発表を複数回行い、論文としては英文雑誌に1本掲載、1本は英文雑誌において査読中である。