脳神経内科
研究活動の概要

 脳神経内科では、脳血管障害や認知症などの神経内科疾患の病態解明と治療成績の向上を目指し、基礎・臨床の両面から様々な研究活動に取り組んでおります。特に治療研究に関しては、脳血管障害に関係する細胞実験(iPS細胞)、げっ歯類モデル、非人類霊長類モデル、臨床研究、医師主導治験というすべてのステージの研究に取り組んでいる、世界でも非常に珍しい研究グループです。国立循環器病研究センター内では、臨床研究に関しては脳血管内科と、基礎研究では研究所と深く連携し、脳血管障害の制圧を目指し、日々の研究に取り組んでおります。

  • ● 脳血管障害へのGenome-guided therapyの実現
      • 遺伝性脳小血管病CADASILの診療体制の構築と新規治療法の開発
      •  CADASIL (cerebral autosomal dominant arteriopathy with subcortical infarcts and leukoencephalopathy)とは、最も頻度の多い遺伝性の血管性認知症であり、最も頻度の多い遺伝性脳卒中です。脳神経内科では、単一遺伝子疾患CADASILを突破口に血管性認知症や脳梗塞の病態を解明することを目標としたさまざまな研究を進めて参りました。
         以下、脳神経内科での取り組みを具体的に記述します。基礎研究の分野ではCADASIL患者由来のiPS細胞とCADASILのモデルマウスを用いて研究開発を進めております。近年われわれは、CADASIL患者由来のiPS細胞から分化させた血管壁細胞は、PDGFRβの発現が増加しており、細胞遊走能が異常亢進していることを見出し、報告いたしました。診療の分野では、2022年11月より本邦初のCADASIL外来をオープンし、2023年12月時点で125人のCADASIL患者が定期的にCADASIL外来に通院するに至りました。2024年には、新たに若年性脳梗塞外来を開設予定です。われわれも協力したAMED難治性疾患実用化研究事業「CADASILのデータベース構築と運用」研究班調査結果では、日本国内のCADASIL患者数は 1200〜3500人と推定されているため、おおよそ全国のCADASIL患者の5%が当院脳神経内科に通院していると推定されます。このスケールメリットを活かして、脳神経内科ではさまざまなCADASILの臨床研究に取り組んでいます。例えば、日本国内には、システイン残基の置換を伴わない特殊なCADASIL (NOTCH3遺伝子p.R75P変異関連CADASIL) が多いことを見出し、このNOTCH3遺伝子p.R75P変異関連CADASILが、通常のシステイン残基の置換を伴うCADASILに比して、有意に脳出血が多いこと、病理検査所見が異なることを報告し、新規疾患概念 出血指向型CADASILとして提唱しました (Ann Neurol. in press)。日本最大のCADASIL high volume centerである国立循環器病研究センター脳神経内科は、National Taiwan University Hospital、Taipei Veterans General Hospital、Jeju National University Hospitalと共同で、世界最大のCADASILレジストリの構築を2023年から開始しました。2023年はCOVID-19 pandemicが終了したため、各種の国際共同研究も再開しました。CADASIL研究においては、オランダ・ライデン大学のSaskia Oberstein教授と共同で、臨床CADASIL scaleの開発を、英国・ケンブリッジ大学のHugh Markus教授と共同で、CADASILのGenome-Wide Association Studyを、オーストラリア・ニューサウスウェールズ大学のPerminder Sachdev教授と共同で、CADASILバイオマーカーの開発を進めています。このように、国立循環器病研究センター脳神経内科は、2023年に、アジアのCADASIL研究の中核施設に発展しました。
         加えて特筆すべき点として、われわれは、2021年11月より世界初のCADASIL患者さんを対象とした医師主導治験、AMCAD治験を開始し、2022年10月末で予定通り患者登録を完了した点が挙げられます。総括報告書は2024年3月までに完成予定であり、この治験の結果からCADASILの患者さんの福音となる結果が2024年に発表されることが、各方面から期待されています。
         また、患者・市民参画(Patient and Public Involvement)にも積極的に取り組んでいます。CADASIL外来通院中の患者さんを対象とした、医療情報共有のための患者会、「国循CADASIL知ってる会」を立ち上げ、定期的に勉強会を開催しております。2023年5月には韓国・済州島において日韓の患者交流会も実現しました。次回は2024年3月の開催を予定しております。
         日本脳卒中学会・CADASILレジストリーワーキンググループを担当しているわれわれは、今後も世界中のCADASILの患者さんのため、CADASIL研究を牽引していく所存です。

      • もやもや病感受性遺伝子RNF213遺伝子p.R4810Kバリアントと脳卒中・循環器病との関連
      •  2019年にわれわれは、東アジアのもやもや病の創始者バリアントであるRNF213遺伝子p.R4810Kバリアントが、日本人の脳梗塞、特にアテローム血栓性脳梗塞の強力なリスク遺伝子であることを報告しました (Circulation. 2019;139:295-298)。現在、われわれは、脳血管障害を有するRNF213遺伝子p.R4810Kバリアント保有者の臨床的特徴を解明するため、NCVC Genome Registryの構築を進めています。NCVC Genome Registry への登録症例数は、2023年に3,000例をこえ、既に世界最大のデータベースとなっております。
         RNF213遺伝子p.R4810Kバリアントに関連して、われわれは近年いくつかの新知見を見出し、国際誌に報告しております。
         RNF213遺伝子p.R4810Kバリアントが、これまで関連が報告されてきた頭蓋内動脈血管径の細小化のみならず、ウィルス動脈輪の構成血管(Front Aging Neurosci. 2021:13:681743)や頭蓋外頚動脈血管径の細小化とも関連していることを見出しました (Stroke Vasc Interv Neurol. 2022;2:e000298)。さらに、同バリアントが冠動脈の一時的な狭窄による心臓の虚血を来す冠攣縮性狭心症と関連することを見出しました(JACC:Asia. 2023;3:821-823.)。これらの結果は、RNF213遺伝子p.R4810Kバリアントが、脳血管のみならず、全身の血管の異常と関連している可能性を示しています。現在、BioBank Japanと共同で、全身の血管への影響を検討しております。
         RNF213遺伝子p.R4810Kバリアント保有者に対して脳血管内治療を施行した場合、非保有例と比べて、有意に術中再閉塞率及び術後再閉塞率が高いことを報告しました (Stroke Vasc Interv Neurol. 2022;2:e000396)。この結果は、RNF213遺伝子p.R4810Kバリアントの有無が、超急性期脳梗塞の診療に有用な情報であり、超急性期脳梗塞患者におけるRNF213遺伝子p.R4810Kバリアントの迅速診断の重要性を示しています。われわれは、病院到着時刻から遺伝子検査の結果が判明するまでの時刻として、病着-遺伝子検査時間 (door-to-gene time) というtime flowを新たに提唱し、現在RNF213遺伝子p.R4810Kバリアント測定の実用化を目指し、島津製作所と共同研究を進めております。
         RNF213遺伝子p.R4810Kバリアント保有者には、無症候者も存在するため、本バリアントがもやもや病、アテローム血栓性脳梗塞を発症させるには、追加の環境因子や遺伝子異常が発症因子と考えられてきています。そこで、われわれは、もやもや病との関連が報告されていた、抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO-Ab)に注目したところ、本バリアントの存在がTPO-Ab値の上昇と有意に関連していました(Atherosclerosis. 2023;382:117281)。以上より、TPO-Ab値の上昇は、RNF213遺伝子p.R4810Kバリアント保有者において脳梗塞/一過性脳虚血発作の発症に関連する付加的環境因子の1つである可能性があります。
         更に、われわれは、家族性高コレステロール血症の本バリアント保有者は、頭蓋内動脈狭窄/閉塞症を約83%の割合で保有していました (JACC Asia. 2023;3:625-633)。さらに、家族性高コレステロール血症の原因遺伝子バリアントの1つのPCSK9遺伝子p.E32K保有患者のなかで、同時にRNF213遺伝子p.R4810Kバリアントを保有すると、頭蓋内動脈狭窄症が多発することが示唆されました (Neurol Genet. 2023;9:e200099)。つまり、脂質異常症または家族性コレステロール血症の原因遺伝子変異が、本バリアント保有者の付加的な発症因子であることが想定されました。
         以上の発見に基づき、われわれは、従来の「アテローム血栓性脳梗塞」とは異なる東アジア人特有の特徴を有する「RNF213関連血管症」という新たなる疾患概念を提唱し、総説に報告しました (Lancet Neurol. 2022;21:747-758)。RNF213遺伝子p.R4810Kバリアント保有者の長期予後および脳梗塞発症修飾因子、さらにはRNF213遺伝子p.R4810Kバリアント保有患者における脳梗塞発症やもやもや病を来す多遺伝子モデルの構築、など多面的アプローチにより、RNF213関連血管症の疫学・自然史の調査や病態解明を進めております。
         さらに、前述のように、RNF213遺伝子p.R4810Kバリアントは脳血管のみならず、全身血管に関連する可能性のある遺伝子であることから、RNF213関連血管症の全貌を明らかにすることにより、国立循環器病研究センターのミッションである「循環器病の制圧」にわれわれは挑んでいます。

      • う蝕原性細菌感染と脳卒中(特に脳出血)との関連の解明
      •  脳出血、脳微小出血の主な原因は高血圧症と考えられていますが、降圧療法による脳出血、脳微小出血の予防は未だ確立されていません。そのため、脳出血、脳微小出血を発症させるその他の原因の探索が求められています。われわれは、う蝕原性細菌であるStreptococcus mutans (S. mutans) の中で、コラーゲン結合蛋白であるCnmを発現するS. mutans株の口腔内保有が脳出血、脳微小出血の発症と関連し、さらに、脳微小出血の重症化とも関連していることを報告しました。この知見より、現在、Cnmを発現するS. mutans株の口腔内保有が脳微小出血を増加させるかどうかを検討する前向き観察研究の、Risk Assessment of Cnm-Positive Streptococcus mutans in Stroke Survivors (RAMESSES研究)を施行しており (Front Neurol. 2022;13:816147)、2023年度に全患者の観察期間が終了しました。また、S. mutansに対する鶏卵抗体(IgY抗体)を含有するタブレットを服用することで、口腔内のS. mutansを減少させ、脳出血を予防することが出来るかを探索する臨床試験を計画しており、脳出血に対する分子標的予防法の確立をめざしています。

      • 口内・腸内細菌叢変容と脳卒中発症との関連の解明
      •  脳卒中は、要介護の第2位であり、依然新規治療法の確立が喫緊の課題です。近年、腸内細菌叢の変容が、マクロファージ、好中球、リンパ球などの炎症細胞炎症性サイトカインを発現させることにより、脳卒中の発症・重症化と関連していることが基礎研究などで提唱されています。われわれは、年間で約700~800名の急性期脳卒中の入院患者を加療しており、このような大規模の患者での口内細菌、腸内細菌の変容と脳梗塞の発症の関連を検討する観察研究は世界初の試みであり、血管生理学部との共同研究です。
         現在、約350名の脳卒中患者と55名の健常者より同意を取得しています。その中で、脳梗塞患者198名と健常者55名の腸内細菌を比較したところ、Streptococcus X(未発表データ)が脳梗塞発症に関連していることが判明しました(論文投稿中)。

    • ● 脳血管障害の診断の向上を目指す研究
        • 新規ペナンブラマーカーの開発
        •  近年、血栓溶解療法や脳血管内治療の台頭により、急性期脳梗塞の予後は著しく改善しました。これらの治療は、発症早期に医療機関を受診できた一部の脳梗塞症例に適応が限られていました。しかし、最近では救済不能な脳梗塞(虚血コア)に至っていない、「ペナンブラ」が十分に存在する症例では、発症から時間が経過していてもこれらの再灌流療法が有効であることが相次いで報告され、その適応範囲が拡大されました。一方で、ペナンブラ領域の推定には、専門医による詳細な症状評価、高度な頭部画像の撮像や専用解析ソフトが必要であり、実施可能な医療施設は一部に限られていました。このため、ペナンブラを簡便に推定可能な新規のバイオマーカーの開発が望まれていました。われわれは、最近の研究で、脳梗塞に反応して生体内で産生されるホルモンであるアドレノメデュリンに着目し、その産生の指標であるmid-regional pro-adrenomedullin(MR-proADM)が超急性期脳梗塞におけるペナンブラを予測可能であることを示しました(Brain Pathology. 2022;33:e13110)。MR-proADMがペナンブラバイオマーカーとして確立できれば、血液検査による発症早期の脳梗塞診断や再灌流療法の適応判断への応用が期待され、これからの脳梗塞の診療を劇的に変革させる可能性を秘めています。現在、脳梗塞と脳出血、さらには脳梗塞と似た臨床症状を示すStroke mimicsの鑑別にMR-proADMが有用であるかを検証すべく、新たな研究を開始しています。

        • 血液バイオマーカーに基づく脳卒中の病型診断法の確立
        •  脳梗塞に対する血管内治療デバイスの進歩に伴い、超急性期における脳梗塞の病因診断の重要性がますます高まっています。主幹動脈閉塞を伴う心原性脳塞栓症は直ちに治療が必要ですが、救急外来での心電図が心房細動を示さず洞調律であった場合など、その診断が困難であるケースを私たちは日常臨床でよく経験します。そこでわれわれは、超急性期脳梗塞患者の血液中のmid-regional pro-atrial natriuretic peptideの濃度を測定し、心原性脳塞栓症の診断におけるその有用性を現在検討しております(論文投稿中)。

        • 超音波を用いた脳血管障害の新たな診断・治療法の開発
        • 1. 頚動脈不安定プラークの超音波診断
           動脈硬化による粥状硬化性病変(プラーク)はその進展により血管狭窄を引き起こすだけでなく、破綻によって粥腫や血栓が塞栓となって脳梗塞を引き起こすため、このようなリスクの高いプラークは要注意プラークとよばれています。頚動脈エコー検査でプラークが安定したものなのか、不安定で脳梗塞を起こしそうなのかを調べることができれば脳梗塞発症予防に大きく貢献できると考え、われわれは超音波造影剤を用いてプラークの不安定性を評価する研究を行っています。プラーク内部の新生血管を描出し、新生血管の多いプラークで脳梗塞発症例が多いことや、通常のエコー検査ではわからないようなごく小さな潰瘍を早期にみつけられることもわかり、さらにプラークの質的診断向上を目指して研究を行っています。超音波造影剤は現在日本で保険適応となっているものがなく、代替とするために各超音波機器で非造影での新生血管の検出ができないか検討する研究も行っています。

          2. Bow-Hunter症候群の超音波診断
           超音波検査は、術者によって検査結果が大きく変動しうる難しい検査ですが、非侵襲的で、ベッドサイドで施行でき非常に多くの情報を得ることができるため、脳神経内科では積極的に様々な臨床研究を展開しております。首を動かすことで血管が圧迫されて、若年性に脳梗塞を起こす症候群としてBow-Hunter症候群という病気が知られており、この症候群を見逃さないようにするための超音波診断のアルゴリズムを最近われわれは国際誌上で発表しました(Int J Med Sci. 2021;18:2162-2165, Acta Neurologica Belgica. 2020;120:1003-1005)。

        • 脳主幹動脈閉塞を予測する病院前脳卒中スケールの開発
        •  脳梗塞が発症してから血管内治療を開始するまでの時間を出来るだけ短縮するために、救急隊が簡便に脳主幹動脈閉塞による脳梗塞を見分けることが出来るFACE2-ADスケールという指標を作成しました(Transl Stroke Res. 2020;11:664-670)。今後、脳卒中診療の現場で広く使用されていくことが期待されています。

        • 脳卒中後合併症・後遺症の実態調査
        •  2023年度より厚労省科学研究費「脳卒中後の失語・嚥下障害・てんかん・認知症の実態調査と脳卒中生存者に対するチーム医療の確立を目指した研究」が採択され、5月17日に第一回班会議を行い、本研究テーマである脳卒中後の失語・嚥下障害・てんかん・認知症における現状や課題について議論を行いました。失語に関しては、国立循環器病研究センターにて施行された200例を超える脳卒中後のSLTAのデータを集積し、心理士の指導の下、電子化を開始、嚥下障害に関しては、9月に早期経管栄養プロトコルを作成し、他施設への説明会をWebにて開催し、10月から導入を達成しました。多施設コホートの成果として、アンケート調査および早期栄養プロトコル導入による臨床的効果を判定する予定です。また、脳卒中後のサルコペニアと嚥下障害の関連についての成果が、欧州臨床栄養代謝学会の機関誌Clinical Nutritionに採択され、2023年8月に出版されました。認知症に関しては、脳卒中急性期、退院後3か月のMMSEデータを500例以上収集しており、今後脳卒中後の臨床・画像データによる認知障害リスクモデルを構築する予定であり、2024年度に政策提言をまとめる予定となっています。

      • ● 脳血管障害の新規治療薬開発を目指す研究
      •  内因性循環調節ペプチドのアドレノメデュリンは、血管拡張作用や血管新生作用、NO産生作用、血管内皮細胞や血管内皮前駆細胞のアポトーシス抑制作用など、多彩な作用を有することが知られています。
         現在、国立循環器病研究センターでは、センター全体が一丸となり、造影剤腎症と急性期脳梗塞の治療のためのアドレノメデュリンの臨床応用を目指した研究に取り組んでおります。脳神経内科では、研究所と共同で、この急性期脳梗塞患者へのアドレノメデュリンの投与を目指した前臨床研究および臨床研究を先導しております(J Stroke Cerebrovasc Dis. 2021;30:105761)。
         rt-PA静注療法や血管内治療法の普及によって、閉塞血管の再開通方法は確立しました。しかし、①急性虚血の組織障害に対する治療と、②亜急性期以降の再生医療を実現できなければ、これ以上の家庭復帰率の向上は期待できません。アドレノメデュリンは、一剤でこの①と②の両方の目的を達成できうる、安全性の高いペプチドホルモンです。脳神経内科では、2020年1月から急性期脳梗塞患者を対象にアドレノメデュリンを投与する医師主導治験を開始しました (AMFIS治験)。すでに、計画された60症例への投与は完了しました。現在、その結果の解析を進めております(論文投稿中)。

    • ● 脳卒中後てんかんに関係する研究
    •  脳卒中後てんかんは、高齢者てんかんの主因であり、全脳卒中患者の約10%が合併し、脳卒中後の生活や社会復帰を大きく阻害するため、重要な問題となっています。そこでわれわれは、2016年度から多施設共同研究による脳卒中後てんかんレジストリを構築し、脳卒中後てんかんの病態解明、診断・治療法の確立を推進してきました。
       また、2023年度は脳梗塞急性期MRI画像にて皮質の出血性変化がてんかん発作と強く関連することを見出し、その成果を報告しました(Ann Neurol. 2023;93:357-370)。また、脳卒中後てんかんにおける脳波所見と予後の関連について2023年8月に学術誌に報告しました(Epilepsia. 2023;64:3279-3293)。
      さらに、米国のYale大学が主催するIPSERC(International Post Stroke Epilepsy Research Consortium)に参加し、共にメタ解析を行い、脳卒中後の発作と予後の関連を報告しました(JAMA Neurol. 2023;80:1155-1165)。一連の研究成果が国際的にも認められ、3月、12月とAsia Pacific Stroke Organization主催下に教育講演を行いました。これまでの成果を包括した総説が海外学術誌に報告されます(Neurology, in press)。当センターは、名実ともに脳卒中後てんかん研究のハブ施設としてこれからも研究を推進していきます。

  • ● 認知症の新規治療薬開発を目指す研究
  •  高齢者の認知症においては、複数の原因が関与することがしばしばです。認知症の筆頭疾患であるアルツハイマー病にも高血圧や糖尿病などの生活習慣病に基づく血管病が深く関与しているということが知られています。そこで、私たちは、βアミロイドやタウを過剰発現する動物モデルを用いてその病態を検証し、血管病の視点からアルツハイマー病の治療法を開発する研究を行っています。その中で、抗血小板剤であるシロスタゾールが、アミロイドβタンパク質高発現マウスにおいてアミロイドβの排泄を促進することを見出しました(Ann Clin Transl Neurol. 2014;1:519-533)。この結果に基づき、PMDAとの事前面談・対面助言を経て、軽度認知障害患者を対象とした日本初の多施設共同プラセボ対照ランダム化医師主導治験、「軽度認知障害患者に対するシロスタゾール療法の臨床効果並びに安全性に関する医師主導治験 (COMCID研究)」を開始し、その研究成果を2023年に報告しました (JAMA Netw Open. 2023;6:e2344938)。COMCID研究においては、軽度認知障害患者に投与した際のシロスタゾールの安全性は示されましたが、認知症への進行を予防する有効性は示されませんでした。しかしながらシロスタゾールを投与された患者では、プラセボを投与された患者に比べ、血液中のアルブミンと認知症の多くの脳で蓄積が見られる老廃物、βアミロイドの複合体の濃度が、治療前に比べ増加する傾向が示されました。これにより、シロスタゾールが脳内のβアミロイドを、血液中に排出することを促進させた可能性が示唆されました。
     カテコール型フラボノイドであるタキシフォリンが、アミロイド血管症モデルマウスにおいてアミロイドβのオリゴマー化を抑制し、血中へのクリアランスを亢進することを見出しました。脳神経内科ではタキシフォリンの有用性を臨床研究で検討し、タキシフォリン摂取患者は、5~6か月の間で視空間認知機能、遂行機能を中心に有意な改善を認めました (J Alzheimers Dis. 2023;93:743-754)。この結果に基づき、特定臨床研究による認知症予防効果への検証を行います。
     無症候性頸動脈狭窄/閉塞症は、認知機能低下を発症させる血管性認知障害の原因の1つです。レスベラトロールは、「長寿遺伝子」SIRT1を活性化させて多面的作用を介して認知機能を改善させることが想定されますが、無症候性頸動脈狭窄/閉塞症患者において、レスベラトロールの摂取は、脳血流量増大と認知機能改善と有意に関連することが明らかとなりました (J Stroke. 2023;26:64-74)。この結果に基づいて、現在、AMEDとの委託研究開発契約のもと、レスベラトロールの効果を検討するための特定臨床研究を行っています(REVAMP trial: REsveratrol for VAscular cognitive impairment investigating cerebral Metabolism and Perfusion)。

2023年の主な研究成果
  • 軽度認知障害患者を対象とした日本初の多施設共同プラセボ対照ランダム化医師主導治験、「軽度認知障害患者に対するシロスタゾール療法の臨床効果並びに安全性に関する医師主導治験 (COMCID研究)」を完遂し、その成果を報告しました(Saito S et al. JAMA Netw Open)。
  • 遺伝性脳小血管病CADASILが、梗塞型と出血型を内在する症候群であることを報告した (Ishiyama H et al. Ann Neurol)。
  • Cnmを発現するStreptococcus mutans株の口腔内保有が、認知症に密接に関連する脳表の微小出血と関連することを報告しました(Ikeda S et al. Eur J Neurol)。
  • 脳卒中後てんかんにおける特異的な脳波所見と予後の関連を報告した(Fukuma K et al. Epilepsia)。
  • 脳卒中前のサルコペニアが与える脳卒中後の予後への影響について報告した(Fukuma K et al. Clin Nutr)。
  • RNF213遺伝子と抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体値の関連について報告した(Yoshimoto T et al. Atherosclerosis)。
  • RNF213遺伝子と冠攣縮性狭心症の関連について報告した(Ishiyama H et al. JACC: Asia)。
  • CADASIL患者にアドレノメデュリンを投与する医師主導治験のプロトコールペーパーを報告した(Washida K et al. Cerebral Circulation - Cognition and Behavior)。
  • CADASIL患者さんを対象とした、医療情報共有のための患者会、「国循CADASIL知ってる会」を立ち上げた。