脳血管内科・SCU
研究活動の概要【脳血管内科】

脳血管内科は、脳血管障害を全身血管病として捉え、神経病学・循環器病学・リハビリテーション医学・救急医学・画像診断学・血栓止血学などの多角的な視点から研究活動を進めている。
豊富な入院患者の綿密なデータベースに基づいて、脳血管障害の症候学・病態生理・診断・内科治療法などを解明する多くの研究を、連綿と発表し続けてきた。その活動実績を国内外で評価され、脳血管障害研究の国際的中核機関と位置づけられている。

2023年は古賀が部長として6年目、豊田は部門長かつ副院長として7年目に入った。
井上はSCU特任部長(国際戦略室室長との併任)に昇任した。横田脳血管リハビリテーション科医長は、リハビリテーションに関する診療・研究の推進に重点を置きながら、引き続き当科業務を兼務した。吉村病棟医長、三輪外来医長、吉江医師、田中医師、高下医師、塩澤医師、福田医師(データサイエンス部との併任)、石上医師(研究医療課長、循環器病対策情報センター事業管理室長兼任)に鴨川医師(専門修練医終了後4月から非常勤、11月から常勤)を加えた体制で、科を運営した。
高下医師は10月から藤田医科大学脳卒中科の講師として異動した。専門修練医の山城、野田が2年間、山口が1年7ヵ月間(11月から脳神経内科医師)、レジデントの江頭が3年間、加藤は所属施設の都合のため2年間の研修を終えた。連携内科専攻医の貴田は1年間、新垣、滝川は6ヵ月間の研修を終えた。宮田敏行客員研究員は引き続き血栓止血研究に関連した研究活動を指導した。

診療面では、脳神経内科や脳神経外科と連携して、脳血管部門全体でチーム診療に取り組んだ。
2022年5月8日から新型コロナの感染症法上の位置付けが2類相当から5類に変更となり、入院時全例PCR(抗体)検査、保健所への報告義務、ICUと10W病棟に限定した個室管理がなくなった。感染対策を継続しながら積極的な脳卒中・神経疾患診療を実践した。国立循環器病研究センターでは、救急外来・画像診断部門・血管造影室・SCU病棟を機能的に集約した1階で急性期脳卒中診療を行い、安定後の脳卒中管理・リハビリテーションを一般病棟と脳リハビリテーション部門のある6階で行っている。
救急隊や地域の医療機関の要請に対して、24時間365日脳卒中患者を断らず受け入れており、2020年から開始された日本脳卒中学会の一次脳卒中センターの認定を受け、2021年から一次脳卒中センターコア施設となり、整備の一環として、急性期治療の提供のみならず、脳卒中患者さんに対して医療及び介護に関する適切な情報提供を行う「脳卒中相談窓口」を運用している。

脳内科と心疾患科の連携が重要な分野において、Brain Heart Teamとしての診療に取り組んでいる。
具体的には、心不全科、小児循環器科と連携しての卵円孔閉鎖術適応、不整脈科、心臓外科と連携しての左心耳閉鎖デバイスや左心耳閉鎖術、不整脈科と連携しての失神外来について、定期的にミーティング、症例検討会を行い、院内横断的な連携強化、診療体制の充実に取り組んだ。

とくにこれまで構築してきた静注血栓溶解療法と急性期血管内治療を組み合わせた脳梗塞急性期再開通治療では、治療開始までの時間短縮に注力し、静注血栓溶解療法施行は126例を超え、急性期血管内治療は初めて130件を超えた。急性期診療の詳細は、SCUの活動概要に詳述した。
引き続き再発予防治療、家庭・社会復帰、無症候性脳血管障害診療などの診療にも力を注いだ。

多施設共同研究は、脳血管内科が長年とくに重視してきた、研究の主軸である。

豊田・井上・古賀・福田は、杏林大学脳卒中医学平野照之教授と共同で急性期脳梗塞に対するテネクテプラーゼの有効性と安全性を調べる医師主導型無作為割付試験T-FLAVORの準備を開始し、AMED委託研究費「新規血栓溶解薬テネクテプラーゼの脳梗塞急性期再開通療法への臨床応用を目指した研究」を獲得し、特定臨床研究法のもと、先進医療Bの承認を受け、鋭意126件の症例登録をしている。クラウドファンディングにより23,670,000円の支援を受けた。

豊田・吉村・福田・古賀・井上・三輪は、NIH助成による国際共同無作為化比較試験FASTEST(脳出血急性期止血薬評価)の国内研究助成としてAMED委託研究費「脳出血超急性期患者への遺伝子組換え活性型第Ⅶ因子投与の有効性と安全性を検証する研究者主導国際臨床試験」により、特定臨床研究承認および先進医療Bの承認を受け、2023年末までに国内164例(世界341例)の症例登録を行っている。

国内で行ったSAMURAI-NVAF研究から国際共同研究に発展するかたちで、欧州と共同でEarly versus Late initiation of direct oral Anticoagulants in post-ischaemic stroke patients with atrial fibrillatioN (ELAN)試験(古賀日本代表)への症例登録を開始し、2022年11月までに101例を登録した。ELAN試験の主要結果を欧州脳卒中機構会議2023のプレナリーセッションで報告、New Engl J Med に同時オンライン掲載した。

豊田が、運営委員長を務める脳卒中データバンク事業(事務局 古賀・吉村)の推進を行うとともに現在の医療事情に合致した新しい全国版データベースで登録を推進するとともに、登録施設に対してquality indicator(脳卒中医療の質を評価する指標)の施行率のフィードバックを毎年継続している。このフィードバックにより全国平均との比較が可能となり、ガイドラインやエビデンスを遵守した脳卒中医療の普及が期待される。

頭蓋内出血を発症した心房細動患者を対象とした早期抗凝固療法に関する安全性および有効性を検証する多施設共同観察研究 (SAFE-ICH研究)(古賀研究責任者、三輪・田中事務局) は、2023年7月までに254例を登録し30日後のフォローアップを終了した。主要結果を欧州脳卒中機構会議2024で報告予定である。

バイオジェン株式会社の資金提供を受けて、広範脳梗塞に対する脳保護療法に関する国際多施設共同ランダム化比較試験 (CHARM)(豊田国際中核メンバー、古賀主任研究者、井上事務局) に日本最多の5例を登録したが、症例登録の遅延のため薬剤開発が中止となった。

<治験>
Leiberexia-stroke (Milvexian)
ブリストルマイヤーズスクイブ社とヤンセンファーマ者が共同開発する凝固第Ⅺ因子阻害薬milvexianを用いた、非心原性脳梗塞患者への国際第三相無作為化偽薬対照比較試験Librexia Strokeが全世界で症例登録をはじめ、豊田が国内調整医師となり当施設も研究参加した。

S-005151
塩野義製薬が開発した再生誘導医薬開発品レダセムチドを用いた急性期脳梗塞患者への国際後期第Ⅱ相無作為化偽薬対照比較試験が全世界で症例登録をはじめ、豊田が国内調整医師となり当施設も研究参加した。

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国内での医療政策に関わる活動として、脳血管内科医師の多くが委員、実務を担当した「脳卒中治療ガイドライン改訂2023」を2023年8月30日に発行した。豊田は、PMDA 専門委員として新規薬剤・医療機器承認に関わった。アルツハイマー病治療薬のレカネマブ承認を受けて静注血栓溶解(rt-PA)療法適正治療指針 第三版の追補(古賀政利委員)を行い2023年9月に公表した。

単施設研究の充実にも努めた。若手医師が脳神経内科と合同で運営している急性期患者連続登録NCVC Stroke Registryのデータベースを用いた研究に取り組んでいる。
他にも、心臓内科、心臓血管外科、移植部や放射線部など院内他科、研究所の病態ゲノム医学部と連携した研究も行われた。

脳卒中に関連する多くの国際学会、国内学会が一部オンラインを併用しながら現地開催形式で行われた。International Stroke Conference 2023、European Stroke Organization Conference 2023、World Stroke Congress 2023、11th Japan Korea Joint Stroke Conference、Asia Pacific Stroke Conference 2023を始め、多くの国際学会、国内学会に、当科メンバーが運営委員ないし発表者として参加した。

研究成果の速やかな英語論文化を全員に課し、多くの英語論文が、peer reviewを受けてThe New England Journal of Medicine、JAMA Neurology、Annals of Neurology、Stroke、Neurologyをはじめとする英文誌に採択された。豊田がStroke、PLoS One等、古賀がJ Atheroscler Thromb、脳卒中、臨床神経学等のeditorial board memberを務め、多くの当科メンバーが英語論文査読業務に携わった。

研究活動の概要【脳卒中集中治療室 SCU】

井上がSCU医長5年目を、SCU師長として樋口師長が着任した。SCU病棟は、18床での運用を行い、主に内科系の脳卒中診療を行う脳血管内科と脳神経内科の医師、専門修練医、レジデント約40名(ローテーションや異動による変動あり)が、緊急で入院する脳血管障害患者の急性期治療および管理を行う病棟として機能を果たした。

通年のコロナ禍に対応すべく、オープンスペースだった病床の一部をビニールカーテンで個室化するなどして、個室7床・ビニール対応個室3床の合計10床で感染対策に尽力している。

SCU病棟は、看護師は日勤帯約15名、夜勤帯6名が勤務した。医師と看護師を中心に放射線科や検査科と協力して多くの緊急入院受け入れを行い、適応例に対しては積極的に血栓溶解療法および血管内治療などの最先端の急性期治療を行った。日勤帯、夜間帯、土日祝日を問わず24時間体制で2-3名(スタッフ医師または専門修練医とレジデント)の緊急当番医や当直医が救急隊や近隣の医療施設と直接通話が出来るホットラインを使用して断らない脳卒中急性期医療を実践した。
塩澤・古賀が、心臓内科田原医長、脳神経外科片岡部長らと協力して当院への患者搬送を促進するため救急隊へのオンラインを併用しながら啓発活動を行っている。

脳部門では脳神経外科と緊密に連携し、適切な血管内治療や開頭手術を行った。2023年は約1800例の緊急入院を受け入れ、時間外緊急入院(土日祝日もしくは平日夜間の入院)が半数以上であった。
そのうち急性期脳梗塞 759例、急性期脳出血 207例であった。アルテプラーゼによる静注血栓溶解療法は118例(前年116例)、緊急血管内治療は138例(前年106例)に行った。特に血管内治療に関しては医療コミュニケーションツールであるJOINを使用し、脳神経外科とともに24時間体制で連絡と情報共有を密に取り、画像診断としてRAPIDシステムを使用することで発症24時間までの症例にも積極的に治療介入を行った。

急性期脳出血では診断後の可及的早期からニカルジピン静注薬を使用して収縮期血圧140mmHg前後を目標に厳格な血圧管理を行った。昨年よりニカルジピン静注薬による静脈炎予防対策として早期から経口の降圧薬の導入を推奨しており、静脈炎の発生率を減少させている。

また、2022年4月から新規に始まった重症患者初期支援充実加算として、毎朝SCU師長・SCU責任リーダー・SCU医長らで、加算要件を満たすよう回診を行っている。同時に毎朝SCU責任リーダー・SCU医長で抑制解除ラウンドを行い、適切な抑制解除を協議している。急性期入院症例を複数の臨床研究や治験に多く登録した。

指導医師1-2名と専門修練医もしくはレジデント2-3名の計3-4名からなる診療チームが入院時から診療を担当し、全例の診療内容を毎日確認し治療方針を検討した。日勤帯の緊急入院では担当になる診療チームが可能な限り初期からの対応に加わることで、緊急当番医の次の緊急対応を容易にしている。
さらに、毎朝の全員SCUカンファレンス、木曜午後の脳血管内科回診と脳神経内科回診で、個々の症例の診断や治療方針、問題点などをディスカッションし、診療レベルの維持・向上に努めた。このシステムは、脳血管障害を診療する医師を育成するための教育に役立っている。

コロナ禍の影響で極力オンラインでのカンファレンスを多用したが、感染対策に留意し、SCU病棟の回診を再開した。看護師、リハビリテーション科スタッフ、放射線科、検査科、栄養科などと協力して多職種による脳卒中診療を行っており、脳卒中患者が入院した場合には入院日にリハビリテーションをオーダーし、入院当日もしくは翌日からリハビリテーションを受ける体制をとった。

また、脳卒中に関連するてんかん診療にも力を入れている。2011年から開始しているSCU入院例を中心とした脳血管内科、脳神経内科の脳卒中合同データベース (NCVC Stroke Registry) を維持・継続して運用しており登録症例数が11000例を超えた。このデータベースが多くの研究や試験の基盤となっている。

2023年の主な研究成果
  • 脳卒中部門として救急応需率の維持
  • 脳血管部門としての脳梗塞急性期再開通治療実績を過去最高更新
  • 脳卒中データバンク事業の管理運営
  • 国内脳卒中臨床試験研究者ネットワークNeCSTの運営
  • 国内ガイドライン・推奨作成への貢献
  • 研究者主導国内多施設共同第Ⅱ相試験T-FLAVOR試験の運営
  • 国際共同試験研究者主導第Ⅲ相試験FASTESTの運営
  • 国際共同試験研究者主導介入試験ELANのNew Engl J Med掲載
  • 国内多施設共同によるSAFE-ICH研究症例登録および30日データ固定
  • BioBank Japan、九州大学FUKUOKA STROKE REGISTRYと共同での脳出血ゲノム研究
  • 国際共同研究の推進および運用
  • 急性期患者連続登録NCVC Stroke Registryを用いた単施設研究の推進