ダイバーシティ人材育成支援室
研究活動の概要

 国立循環器病研究センターには、専門医・レジデント・看護師の教育制度、又は外国人研究者の支援における長い歴史がある。ダイバーシティ人材育成支援室 (以下、当室) は、2016年11月、センター職員・研修生や研究者のため、マタニティ支援・育児及び介護支援に関する情報を広めること、また、来日する外国人客員研究員・研修生や派遣研究者のため、働きやすく住みやすい環境に関しての情報を提供することなどを通じて、多様性に富んだ個人の能力を最大限に活かせる職場作りを目的に設立された。
初代室長には腎高血圧内科の中村敏子医長が就任し、病院医師、看護部、研究所に籍を置く4名が室員となった。2017年4月からは、当センター初の外国人部長でもあるPEARSON James部長が室長に就任し現在に至っている。当室では当初から英語での情報提供を重要視しており、日英2ヶ国語表記によるビジョンとミッションを策定し、当センターのホームページにも掲載している。

 当室では、全ての職員が、子育て、介護などのライフイベントに対応しつつ働き続けることができるような支援体制を整え、出来るだけ各人が業務に専念して取り組める環境作りを目指しているが、当面の目標は女性および外国人にとって、国循での業務上における不利となる障壁を無くすこととした。

 当室が設置された最初の年度には、職員に対する病児保育アンケートを実施し、結果を職員に公開するとともに、病児保育サービス業者のヒアリングなどを通じて、病児保育導入のための情報収拾を開始した。

 2017年度には、当センターのホームページに当室のコーナーを新たに設け、当室のビジョンとミッション (日本語・英語)、マタニティ支援の情報提供 (日本語のみ)、外国人研究者の生活支援情報提供 (当センターの英語ホームページ)などを掲載した。

 2018年度には、当センターが文部科学省科学技術人材育成費補助事業「ダイバーシティ研究環境実現イニシアティブ (先端型)」に選定され、

  •  (1) 海外派遣等を通じて女性研究者の研究力を向上させる
  •  (2) ポジティブ・アクションのもと、女性研究者の新規採用、上位職への登用を推進する
  •  (3) 外国人研究者支援、働き方と医療安全のための取り組みを行う

    という目標の下、より広いダイバーシティ研究環境の形成を図ることとなった。
    具体的な施策として、女子研究者を対象とした「新規上位職助成」「長期・短期海外派遣助成」「国際共同研究助成」の3種類の研究助成制度を創設 (図1) し、外部選定委員会を設置した上で、2018年度には計11課題を選定した。また、女性研究者の在職比率と新規採用比率、また上位職への女性の登用を推進し、6年間の事業終了時にはこれらを全て30%とする目標を立てている。2019年8月には、新センターのサイエンスカフェ内セミナー室において、第1回ダイバーシティ研究助成報告会を開催した。
    女性研究者の新規採用・在職者比率は30%前後で推移しているが、平成30年度以降、部長クラスの新規採用はなく、令和4年度は在職者2名 (3.8%) にとどまっている。本事業の長期海外派遣助成にて留学した女性研究者1名が、元々はセンター内室長であったが京都大学准教授に着任した (2023年4月1日~)。

     2020年3月には、ダイバーシティ講演会を開催したが、COVID-2019感染拡大のため、予定していた海外講演者が参加出来なくなり、国内講演者のみの開催となった。また、2020年度に採択された海外派遣者の渡航が延期された。さらに2020年中は主な活動がオンラインになった。

     2021年4月には、循環器病研究開発費・若手研究助成への応募時の年齢制限を変更した。今までの一律40歳未満から、女性の場合は満43歳未満、また産前・産後休業又は育児休業をとった者はその日数を加算することができるように変更した (2021年4月1日)。
    2020年度まで文部科学省の補助事業として実施してきたダイバーシティ研究環境実現イニシアティブ (先端型) の計画を継続するため、センター内循環器病研究開発費「国立循環器病研究センターにおけるダイバーシティ環境確立のための研究」(主任研究者:室長Pearson James、分担研究者:室員大野聖子) が採択され、当センター内での資金調達が可能となった (2021年7月1日)。
    ダイバーシティ室会議にて、ダイバーシティ研究環境実現イニシアティブ (先端型) で行った取組がどのような結果をもたらしたか調査することが決定した (2021年9月1日)。
    また、外国人研究者もより働きやすい環境を作るため、研究所内の規定やガイドライン・マニュアルについて、英文様式を作成している。新理事長就任に伴い、2021年10月1日より新メンバーとして5名を増員した。

     本年度、当センターの研究者および国内外の研究機関で、バイオバンクに保管されている患者の生体試料、診療情報やゲノム情報などの利用を希望されている方は、バイオバンク規定、利用条件や申請方法について理解しておく必要がある。その目的として次の書類の英文翻訳を外部委託し、英文化を進めた。
    また、働き方改革推進プロジェクトチームにより、医師の働き方改革に関する講義のライブ配信およびe-ラーニングを実施した。「働き方改革に備えて病院が何を準備すべきか」(2022年7月13日)、「急性期総合病院におけるA水準を目指した働き方改革の取り組み」(2022年12月15日)。パワーハラスメント実態調査の匿名アンケート、出産・育児等に伴う休暇・休業の拡充として、就業規則等の改正を実施した。
    循環器病研究開発費・若手研究助成へ支援として、応募時の年齢を女性の場合、優遇および産前・産後休業又は育児休業の考慮と共に、継続的な若手女性研究者の研究助成採択に向けた支援を行っている (2023年4月1日~)。

    図1

  • 今後の展望

     「ダイバーシティ研究環境実現イニシアティブ (先端型)」の6年間の事業期間中に、女性研究者の国際的研究力強化を図りつつ、当センターが海外研究者にとっても魅力的かつ働きやすい職場になるよう、職場環境の整備を継続する。事業終了時には、女性研究者の在職比率と新規採用比率、また上位職の女性比率が全て30%となるように、活動を継続する。
    また、一般事業主行動計画に定めている「男性の育児休暇取得」や「平均勤続年数の男女差の縮減」の実現にも取り組んでいく。当室のビジョンである「性別、国籍その他の多様性に裏付けられた個人の能力を最大限に生かして働くことのできる魅力のある職場」は、当センターの目的である「循環器疾患の究明と制圧」の実現に不可欠な多様な才能の集積と相互協力を強力に推進する原動力になると考える。

    主要な業績一覧

    学会発表

    • 2023年3月、「Diversity in Cardiovascular Disease」第87回日本循環器学会学術集会 AHA-JCS Joint Symposium 福岡2023 (産婦人科部 神谷)
    • 2023年2月、全国ダイバーシティネットワーク組織―第2近畿地方ブロック会議にオンライン参加 (産婦人科部 神谷)
    • 2022年2月、全国ダイバーシティネットワーク組織―第2近畿地方ブロック会議にオンライン参加 (副看護部長 西田)
    • 2021年6月、長期海外派遣助成を行った女性研究者の論文が、日本心臓病学会の学会賞を受賞した (2021年6月3日)。国際共同研究助成を行った女性研究者の論文の国際雑誌への掲載が決定した (2021年6月15日)。
    • 2020年度全国ダイバーシティネットワーク組織―近畿地方ブロック参画機関の登録
    • 2020年3月、NCVCダイバーシティニュース01を電子掲示板に発行、3月ダイバーシティ講演会、研究助成報告会などの内容を公開
    • 2018年度~2023年度、文部科学省科学技術人材育成費補助事業「ダイバーシティ研究環境実現イニシアティブ (先端型)」に選定
    • 子育て支援パンフレットを作成し、当室のホームページへ公開。全新規採用職員に配布中であり、新規採用者全員に配布した (2021年4月1日~)。
      http://www.ncvc.go.jp/education/diversity/childcare.html