教育推進部では、国立循環器病研究センターにおける病院、オープンイノベーションーションセンター(OIC)、研究所の枠を超えた、教育および研究活動を推進する役割を担っている。
主な活動としては、
- 臨床研究セミナー開催による臨床研究教育の推進
- 特定臨床研究課題の管理と病院長への報告
- 看護師による特定行為研修の管理と研修活動の実践
- トレーニングセンターの管理と運営
- 最先端技術を用いた医療機器及び人材育成システム・教育ツールの開発研究
を担当している。
- 「臨床研究中核病院」の認定取得に向けた臨床研究セミナーの開催
- 特定臨床研究課題の管理と病院長への報告
- 看護師による特定行為研修の管理と研修活動の実践
- トレーニングセンターの管理と運営
- 最先端技術を用いた医療機器及び人材育成システム・教育ツールの開発研究
医療法に基づく臨床研究中核病院は、日本発の革新的医薬品や医療機器、医療技術の開発に必要な国際水準の臨床研究や医師主導治験を担う病院として位置づけられており、認定には介入研究を中心とした臨床研究、その論文数、診療科数・病床数・安全管理体制といった施設要件などの厳しい条件がある。国立循環器病研究センターにおいても、認定取得を目指して、職員が一丸となって取り組んできた。
本セミナーは、臨床研究中核病院の認定取得の基礎となるものであり、医師全員、臨床研究に関係する看護師、薬剤師、検査技師、臨床工学士、臨床研究に関わる予定の職員、事務職員を対象として開催している。6ヶ月間に18回の開催を1クールとして、年2クール36回のセミナーを開催している。2021年は、2020年に引き続きCOVID19の影響にて新たなセミナーを開講することはできなかったため、2019年に開催したセミナーのe-learning配信で対処した。今後は、臨床研究を主導する臨床研究者(PI)は、本臨床研究セミナーの修了書が必要となる可能性があるため、全てを受講(もしくはe-learning受講)した職員には、「臨床研究セミナー修了書」を授与している。
新しい臨床研究法(平成29年4月交付)では、1) 薬機法における未承認・適応外の医薬品等の臨床研究、および、2) 製薬企業等から資金提供を受けて実施される当該製薬企業等の医薬品等の臨床研究、は全て特定臨床研究の対象となり、様々な基準遵守義務が定められている。
教育推進部では、特定臨床研究として厚生労働省が認定した「認定倫理審査委員会」において承認が得られた各研究課題を、臨床研究開発部と一緒に内容を確認し、管理するとともに、病院長への報告作業を担っている。 2021年は9課題の新規特定臨床研究を受け付けた。
看護師が行う特定行為とは、一定の高度の研修を受けた看護師が、実践的かつ高度な判断力のもとに、医師に代わって行う診療の補助行為のことを指す。看護師のより高度な臨床実践能力の発揮とともに、効率の良い医療のためのタスクシフトやチーム医療のさらなるレベルアップを目的とし、厚生労働省の主導により、2015年10月に創設された。
国立循環器病研究センターでは、ナショナルセンターでは初めての特定行為研修を開講し、我々の特徴を活かして循環器診療に特化した「重症集中治療コース」を開講した。開講初年度に当たる2019年には5名研修を終え、2年目の2020年度には6名が、3年目の2021年度には3名が研修を受講中である。国立高度医療センターにおいてレベルの高い研修が受講できるとあって、受講希望者は多い。このようなニーズに応えるべく、今後増加が予想される特定行為研修の研修生の人数に対応できるよう、2022年度からは、特定行為研修に係る教育カリキュラムや臨地実習の内容を充実させることにより教育体制を整え、外部からの受講者も一部受け入れる予定である。そして、国立高度医療センターが運営する特定行為研修として、我々が経験した問題点や解決方法および教育内容を、全国に向かって情報発信できるように努力する予定である。
-日本で唯一の循環器医療に特化したトレーニングセンターとして-
近年の医療技術の進歩により、数多くの重症患者を救命できるようになったが、医療技術が進めば進むほど、必要となる知識や技術は増加し高度化する。そのため、基礎的な知識とそれに基づいた訓練の重要性が増す。同時に、高度な医療機器や複雑かつ膨大な情報を使いこなすだけの高いレベルの知識と応用力も必要になる。とりわけ的確な診断と迅速な治療が求められる循環器診療では、これらの基礎と応用のバランスは、より良い医療を実践するための不可欠な両輪となる。国立循環器病研究センターOICトレーニングセンターは、循環器病領域の医療におけるリーダーとして活躍できる人材の育成を支えるトレーニングセンターとなるよう研究開発を進めている。このコンセプトを基に、基礎的な医療行為の修練から、最新の医療機器を使った検査や医療行為のシミュレーションができるよう、様々な機器を取り備えて、多職種にわたる医療従事者のニーズに応える努力を継続して行っている。また各種民間企業の方々にも、有効な医療現場の体験および機器開発のためのシミュレーションが可能なように配慮し、広く門戸を開いている。これらの民間企業への広報活動は、産学連携本部とともに実施している。
さらには、OICの一員として、医療機器や人材育成システム・医学教育ツールの開発にも取り組んでいる。COVID-19感染拡大を機会に、従来の「現地体験型のトレーニング方式」から、「VR・AR・MR技術を導入した循環器デジタルシミュレーション・トレーニングセンターの確立」及び「遠隔相互シミュレーション方式」への方向転換を目指し、院内の研究開発費の支援を得て大きく変革する計画を行なっている。また、医療従事者の人手不足、業務の多忙化という病院の状況を踏まえ、教育の効果や効率を向上させるための研究にも着手している。
具体的には、既存のOICトレーニングセンターを、実体験型と仮想現実型トレーニングをハイブリッドさせたシミュレーションセンターとして大きく進化させるため、VR・AR・MR技術やトラッキング技術を導入した人材育成システムの構築することを目標としている。具体的には、仮想現実型シミュレーションの基礎を築くため、超高画質映像の撮影機器VR・AR・MR機器、トラッキング機器を用いた教材を開発し、その教育効果や効率を多角的に調査評価している。さらに遠隔双方向シミュレーションの開発にも着手しており、日本で唯一の循環器デジタルシミュレーション・トレーニングセンターとして全国展開できるよう準備を進めている。
①MSCT画像データをもとにした精密心臓レプリカ(医師主導治験):
患者個人のMSCT3次元画像診断データから光造形法と真空注型法を応用して精密心臓レプリカ作成を民間企業との合同で開発している。2019年には、一般的名称「立体臓器模型」として、クラスⅠの医療機器として承認された。2020年には、AMED研究費(2017-2019)により保険収載に向けての医師主導治験を実施し、2021年12月には1年後の観察研究までを終了した。2022年にはこの結果を持って保険償還に向けた申請を行う。同時に民間企業3社との共同で、親水性のアクリル樹脂を用い、軟質臓器レプリカに特化した新しい「紫外線硬化式インクジェットプリンター」を開発し、より実臓器に近い性状の心臓レプリカを迅速かつ低価格で供給できる目処を立てた。
②複雑先天性心疾患の血流動態コンピューター上でシミュレーションを行うped UT-Heartの開発研究:
東京大学のグループが開発したマルチスケール・マルチフィジックス心臓シミュレーターであるUT-Heartシステムを、小児の複雑先天性心疾患の血行動態シミュレーションに対応できるシステムに改良する開発研究を開始した。AMED研究費(2020-2022)を得て、現在までに小児の先天性心疾患のシミュレーションに適した計算プログラムの開発を終えた。2022年以降は、出来上がった手術シミュレーションを検証する前向き臨床試験を実施する。新しく開発する“ped UT-Heart”を用いると、種々のパラメーターに基づいて手術術式の決定を客観的に判断でき、患者に最適な手術術式の選択と治療方針を提示できる。その結果、心臓レプリカとともに使用することで、手術をより確実で安全なものにすることができ、手術後の遺残症や続発症を最小限に抑え、患者の生命予後長期にわたるQOLの改善を実現できる。
③マルチアングル映像の撮影機材・専用ビューアを開発:
2021年より、医療サービス会社であるエアウォーターバイオデザイン社が共同研究に参加し、開発を進めている。現在、360度動画の教育利用が注目されており、AMED医療研究開発革新基盤創成事業としての取り組みもある。学習方法や利用メディアは、学習目的・学習目標によって異なり、メディアのメリット・デメリットを踏まえたうえで選択されるべきである。そこで360度動画を含め、様々なメディア教材の学習効果の比較・検証を行い、2D映像教材でも十分な学習効果が得られることを確認した。一方で、処置技術や患者への視診や状態観察・評価に関する技能学習に対しては、患者を中心としたマルチアングル映像の有用性を確認されたため、マルチアングル映像の撮影機器ならびにWeb上で再生・アングル変更操作が可能な専用ビューアを開発した。
2023年度は病院職員と連携しコンテンツを増やし、院内での技能学習に活用してもらうともに、開発した撮影機器・Webアプリケーションの他施設での利用、当センターが監修したコンテンツの配信を模索していく。
④マルチアングル映像に対するアイトラッキング・システムを開発:
技能教育の効果や効率の向上には、熟達者のパフォーマンスの可視化、学習者に熟達者とのパフォーマンスギャップを即時フィードバックすることが欠かせない。そのためまずは、医療者の視診・状態観察を行う際の視線情報の蓄積・分析に着目し、マルチアングル映像に対して視線情報の取得が可能なアイトラッキング・システムを開発した。2022年度内にパイロットスタディも終了しており、今後は様々な場面での視線情報の取得・分析を行い、教育の効果・効率の向上につなげられるよう実証研究・システム改修を行っていく予定である。
今後は、ハンドトラッキングやモーションキャプチャの技術の教育利用も検討していく。将来的には、蓄積する視線データに加え、医療現場に介在する診療記録、生体情報などの様々な情報に対して機械学習を行い、必要な行為をAR(拡張現実)グラスに投影するといった業務支援ツールの開発にもつなげる。
- 政岡祐輝, 大神和也, 菊池仁孝, 長野美紀, 辻岡良輔, 増田貴生, 白石公. 2D 映像教材と 360 度映像教材の学習効果の比較-救急初療における看護実践を対象として-. 第47回教育システム情報学会全国大会 2022;21-22
- 政岡祐輝,長野美紀,白石公. 看護師育成におけるアイトラッキングデータ活用にむけたパイロットスタディ. 日本教育工学会 2023年春季全国大会