産学連携本部
研究活動の概要

 革新的な医療技術の実現と普及には、企業・大学等の他機関との連携が不可欠である。産学連携本部では最先端の医療に直結した臨床ニーズと逐次アップデートされる研究成果に基づく技術シーズをさらに展開し、企業・大学等とのアライアンスを活かしつつ、次世代の医療機器、医薬品、ヘルスケア事業の創出へとつなげることを目指している。臨床現場から得られた課題解決策や研究活動から得られた成果を知的財産として適正に保護・管理すると共に、新しい医療・ヘルスケアとして社会に適切に還元されるよう事業化を促し、循環器病の究明と制圧に資する産学連携を進めている。

 連携戦略室では、産学連携を企画・構築し、新たな研究プラットフォームを開拓しつつ事業化を推進することで、研究成果の社会への還元を図っている。また、知財戦略室では、研究成果や技術成果等の知的資産を適正に知的財産権として保護・管理するとともに、効果的・効率的な運用を図っている。具体的には導出戦略を立案し、技術移転の促進、共同研究・ライセンス契約等のアライアンスを実行している。理事長直下に配置されていた「かるしお事業推進室」から2021年に産学連携本部内組織へと改組された「社会実装推進室」では、おいしい減塩食“かるしお”の普及・啓発など、循環器病の予防・治療予後のための生活習慣の改善を産業界とともに社会実装する取り組みを進めている。

 当研究センターの「健都」への移転と共に開設された「オープンイノベーションラボ(OIL)」では、企業・大学等との“一つ屋根の下”での共同研究拠点として、多彩なプロジェクトが推進されている。さらに、産学官の交流の場となる「サイエンスカフェ」では、様々なユニークなイベントの企画・開催によりオープンイノベーションの概念に基づき新たな研究の探索・共同研究の推進に注力している。

2022年の主な研究成果

-産学連携の成果として-

  1. OILを研究拠点とする企業等は2022年末で16社、OILの占有率は70%となっている。当研究センターの医師・研究者らと密接な連携を伴う研究拠点化の形成が促進されている。

  2. 当研究センターが代表機関として15参画機関と共同で応募した産学官民連携の大型プロジェクトである、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の「共創の場形成支援プログラム(バイオ分野・本格型)」(10年:総額約31億円)に採択された。本プログラムでは、産学連携本部が支援組織の中心を担う形で、当研究センターが位置する「北大阪健康医療都市(健都)」エリアを拠点とした新たな産学共創システムの立ち上げを目指すものである。産官学民の多数の連携からなる研究成果を創出し住民に還元する、“未来型総合医療産業都市拠点”づくりに向けて稼働し始めた。2021年は、副PLである産学連携本部長のリードの基、プログラムを推進する本部「共創の場支援オフィス」の体制を整え研究開発を支える拠点形成の体制を構築した。また、全国共有施設である「共創研究育成センター」をセンターに設置し、「オールスター研究センター」や「健都イメージングサポート拠点」の規程等を定め当研究センター内外からも共通利用できるよう運用を開始した。

  3. 「サイエンスカフェ」を交流拠点とし、当研究センター内外の優れた技術、研究シーズや現場でのニーズ等をお互いに紹介し合うことで、新たな連携や共同研究につながる出逢い、マッチング創出機会を設けることを目的としたイベント「イノベーションカフェ」を企画し、2022年は定期的に計9回開催した。企業27社、当センターの研究者5名、外部講師2名がそれぞれ医療現場ならではのニーズ、当センターにて創出された研究シーズ等を発表し、参加者は延べ691名であった。2022年1年間でサイエンスカフェクラブ登録会員数は200名増え、計693名となり、交流の輪が拡大している。

  4. 2022年の新たな試みとして、2日間にわたって人数限定のWebワークショップ「医工連携をクリエイティビティに思考するワークショップ」を開催し、22名の参加があった。また、同じく2日間にわたりデザイン思考による医療機器開発を学ぶ「オープンイノベーション講座」を開催し、定員を上回る23名が受講した。

  5. 医薬品医療機器総合機構(PMDA)との連携協定のもと、同機構から講師を招き、企業人材への医療機器の研究開発と承認プロセスに関するセミナーを実施した。これらによりPMDAとの人材交流・人材育成が図られるとともに、医療機器等の薬事に関する規制と産学連携の推進との総合的な連携が図られた。また、2021年度末をもって本協定が終了するため、協定の継続に向けPMDAと協議を重ね次年度以降も協定を延長する方向で合意した。

  6. 2022年には、積水ハウス社等、新たに3機関との包括連携協定書の締結をはじめとして、ビジネスマッチングによる共同研究の推進、研究成果の事業化に向けた経営支援を通じ、医療や健康づくりに関わる研究、人材育成、地域連携等を進めている。

  7. 「サイエンスカフェ」にて、当研究センターの研究者と企業との共同研究や共同開発にて実用化された製品及びかるしお認定事業において認定された商品を展示した。また、当研究センター、健都並びに研究内容等を紹介するパネル、動画を紹介する大型モニターを設置し、国内外問わず見学者及び来訪者向けに広く認識いただく場を設けた。

  8. 発明ヒアリング、発明評価、出願対応、中間対応、国際出願戦略、期限管理、導出活動までの全てを産学連携本部が効果的かつ効率的にシームレスに担う体制を構築した。発明者の一存によることなく発明を客観的な視点より評価し、導出活動・出口を見据えた知財出願戦略を構築する体制を整えた。特許出願を行うだけでなく、活用・実用化を見据えて、マッチング・共同研究立案・研究費申請を企画するに至っている。整備した体制を活用し、大型特許契約案件を折衝し、契約締結に至った。この結果、当研究センターに1億以上の収益をもたらすことに成功した。

  9. 発明評価について、特許性及び事業性の観点から評価を行う「評価ワーキング」を新規に立ち上げ、体系的な評価システムを確立した。事業経験が豊富な有識者をワーキングメンバーに加え、有用な発明をビジネスセンスで目利きし、峻別する体制を強化した。さらに、独法化後初の抜本的な職務発明規程改正を行うとともに、既存の関連委員会を統合した。この体制変更により職務発明の評価・審査体制を改め真に有用な発明を経営的視点から承継判断する体制に移行した。

  10. 医療従事者のアイデアを知的財産権として保護したうえで企業に導出し、社会実装に繋げる“知の循環”サイクルを実現した。開発着手から半年という短期間で製品化を実現した高機能マスク、医師主導治験でも高評価が得られているBridge to Decisionの超小型補助循環デバイス・ポータブルECMOなどの販売に至った。

  11. 『BioJapan 2022』(10/12-14、横浜)にて、当研究センターは大阪府及び「共創の場」と合同でブース出展し、「研究開発シーズ集」を用い当研究センターの主な研究テーマと共にオープンイノベーション活動の取り組み等について広く発信を行った。会期中、503名(前年度344名)が共同ブースに来訪した。21社と個別面談を行った後、うち1社はOIL入居に向け再面談を実施。更に、6社とは共同研究に向けて協議中である。

  12. これまでに出版したかるしおレシピ本シリーズ4冊から100レシピを厳選した「国循の厳選おいしい‼かるしおレシピ 今日から始める減塩メニュー100」(NHK出版)を2021年6月に発刊し、生活習慣病対策、認知症予防への啓発を引き続き進めた。また、第5回S-1g(エス・ワン・グランプリ)大会に入賞したレシピをまとめ、レシピ集として発行し、おいしい減塩食を考え・つくり・周知する機会を提供した。

  13. 2022年の1年間に、かるしお認定件数(リニューアル・サイズ違いを除く)は52社166件から54社171件へと企業数・認定件数ともに増加し、おいしい減塩食品の食品市場への展開がさらに進んだ。これらの販売実績をホームページ上で公開した。

  14. 「かるしおサミット」を2022年8月に初開催した。これはかるしお認定企業をはじめ、流通企業、自治体等が一同に会して交流を行うイベントである。かるしおの考え方を日本全国にさらに広げていくため、今後も継続的に行う予定である。

  15. 公益社団法人日本ストリートダンススタジオ協会(NSSA)との連携協定に基づき、運動や食などの生活習慣を学ぶ学校向けの授業プログラム「足はやチャレンジ」を吹田市・摂津市内の小学校で実施した。NSSAが「足が速くなるダンス」を教え、当研究センターが食事指導をし、子どもたちが健康的なからだづくりを学び、実践した。

  16. 「学校給食を活用した子供の適切な食塩摂取に向けた食育」に関する研究を吹田市と共同で開始した。子供を対象とした食育を実施するとともに、家庭での理解と実践につながる啓発を実施し、食生活改善を促す新たな食育プログラムの形成を図ることを目的としている。共同でレシピを開発した「かるしおアレンジメニュー」が2023年1月より吹田市内の小学校で導入される。

  17. かるしおプロジェクトのホームページ上で、動画、レシピの公開や、各種イベント報告等を行った。また、「かるしお通信」を年2回発行し、かるしおに関する活動を紙面にて広報した。これらかるしおに関する様々な情報発信により多方面から取材の要請があり、1年間で計41件の新聞などメディアに掲載され、周知が図られた。