心臓再生制御部は、心血管疾患に対する新規再生治療法の開発を目的として、循環器の発生、再生、および病態形成機構の研究を行っている。循環器の発生研究においては、ペリサイトを中心とした臓器特異的血管発達機構の解析を進めている。最近の解析からペリサイトの中枢特異的な発生制御機構を明らかにし、本機構の破綻がヒトで報告されている様々な中枢神経疾患の背景となる可能性を示し、新たな治療標的の提唱を目指している。循環器の再生研究においては、最近明らかになってきた心臓の自己再生機序に着目した研究を進めている。これまで再生不能と考えられてきた哺乳類の心臓も、生後数日の間は再生することがわかっており、この機序介入する新たな再生医療技術の開発を目指している。特に、心臓再生制御部では高い自己再生能を持つゼブラフィッシュを用いて、心筋細胞の脱分化・増殖誘導・抑制機序を研究しており、その機序を成体マウスの心臓において検証することで、再生効果発揮に重要な分子細胞機序の同定を目指している。また、最近では成体においても全身が透明な新規小型魚類ダニオネラの確立に取組んでおり、これまで不可能であった発生期以降の循環器の生体機能イメージング、損傷応答、再生・修復、病態形成・進展過程のイメージングを目指している。
ほ乳類と異なり、ゼブラフィッシュは損傷した心臓をほぼ完全に再生する。この再生機序では、残存心筋細胞が損傷に応答して未分化様に変化する、脱分化を経て、増殖期に再進入することが必須である。
マウスやブタなどのほ乳類も、生後数日の間は同様の機序で心臓を再生することが知られている。当部の最近の研究により、先天性貧血の原因遺伝子として知られていた転写因子Klf1が、これまで全く報告のない心臓再生機能を持ち、心筋細胞の脱分化・増殖誘導機序で必須の機能を果たすことが明らかとなった。令和4年度はこの分子の下流で機能する転写因子を探索した結果、新規脱分化誘導因子の同定に成功し、現在この分子の機能を解析中である。Klf1の発現を誘導できるマウス系統も作成しており、Klf1発現により心臓が肥大することを明らかにし、その分子機構の解析を進めている。また、成体において心臓の再生や循環器の病態形成過程を生きたままイメージングする系を確立するため、一生を通じて全身が透明なダニオネラに着目した。この小型魚類ではウロコがなく、循環器や脳を始め、ほぼ全ての深部臓器をライブイメージングすることができる。令和4年度はこの新規小型魚類のコロニーを確立し、遺伝子ノックアウトやトランスジェニックレポーターの作成が可能であることを実証した。
ペリサイトに着目した循環器の病態研究では、中枢および心臓においてペリサイト選択的な遺伝子として見出してきたKcnj8、およびAbcc9に着目した解析を進めた。両遺伝子は複合体を形成しATP依存性カリウムチャネルとして機能することから、ペリサイトは本チャネルを介して臓器内メタボリックセンサーとして働き、虚血性心疾患や脳梗塞の病態形成や進展制御に関与することを予想した。令和4年度では組織の虚血誘導時にペリサイトが炎症のハブとして機能する可能性が示唆されるとともに、ペリサイトのK-ATPチャネルの作動薬により炎症が抑制されるとともに組織障害が軽減されうることが示唆された。
現在、この詳細な分子制御機構を解析することで、新たな病態形成機構の解明と治療薬の開発を目指している。