生体医工学部
研究活動の概要
生体医工学部には、材料工学・機械工学・細胞生物学を専門とする工学系研究者、形成外科・心臓血管外科・歯科などの臨床医、そして工学系・医系・臨床工学技士系の国内外の学生が所属し、循環器疾患に対する新たな医療機器・創薬システム・再生医療等製品の研究開発を進めている。医療機器開発においては、小動物による前臨床試験が困難な場合が多く、大動物での有効性試験のために場所・機器・人など総合的な環境の構築が必要である。基礎的研究の成果をBiomaterials誌などへ論文報告するに止まることなく、医療機器メーカーと協力したプロトタイプ作製、生物学的安全性試験、PMDA等との薬事戦略、そして治験に至るまで総合的な研究開発を進めることに主眼を置いている。
生体医工学部が有するこれらの組織が効率的に稼働しているのは国内では極めて希少であり、人工血管や人工弁等の埋入型医療デバイスに加えて、体外で使用する超高圧腫瘍殺滅医療機器を企業と協力して臨床応用した。また、部長の山岡は、現日本バイオマテリアル学会会長であり、アジアバイオマテリアル学会連盟プレジデント、世界バイオマテリアル学会連合日本代表、日本学術会議特任連携会員を歴任し、日本の医療機器産業界の改革に努めるのみならず、世界における我が国のバイオマテリアル研究のプレゼンスの向上に努めている。人工血管、人工弁、ペースメーカーなどハイリスク循環器系医療機器の多くが欧米の製品に頼る我が国の現状を打破し、国立循環器病研究センターが世界をリードする医療機器の研究開発拠点となるべく部を挙げて精進している。
2022年の主な研究成果
- 10年あまりの開発期間をかけて、世界最小口径の異種脱細胞化血管の非臨床開存化に成功し、臨床化のために必要な諸項目を完了し、また、生物学的安全性重要項目をGLP準拠で遂行しPMDA対面助言から得た追加試験を完了、年度内のフォローアップ面談に臨む。我が国では、生体由来材料に対する生物学的安全性試験などの標準化が十分でないために、経産省と厚労省が進める「次世代医療機器・再生医療等製品評価指標作成事業:脱細胞化組織利用機器審査ワーキンググループ」に参画し、世界初で本邦発の異種脱細胞化小口径血管の実現にむけて、医師主導治験に向けた準備を進めた。
- 超高静水圧印加によるがん治療戦略を設計し、術場で利用可能な組織加圧装置(医療機器)を開発し、巨大色素性母斑を第一の対象疾患として企業治験を完了した。また、転移性骨腫瘍への応用を目指した治験申請の準備に入った。
- 新たな高分子化MRI造影剤により直径45μmの微小血管のMRI撮像を可能にするとともに、体内からの速やかな排泄も実現することに成功した(国内特許成立)。
- 組織表面に接触することで、溶液からゲル皮膜に相転位する新たな素材を開発し(国内特許成立)海外医療器メーカーとの共同研究のスタートと、新たな癒着防止材としての開発研究をスタートした。