分子薬理部
研究活動の概要

 分子薬理部で新谷を中心に取り組んでいるのは、①ミトコンドリア呼吸鎖の活性調節機構の解明と創薬研究、および②心疾患の病態形成に関与する新規分子標的の探索、機能解析である。本年度は、①チトクロムCオキシダーゼ(CcO)の酵素活性のアロステリック活性化あるいは阻害剤を独自に見出し、構造解析・計算化学を組み合わせ、活性調節機構の解明と創薬展開を進めた。阻害剤について、結晶構造解析とクライオ電顕による構造解析、ラマン分光法、計算化学を組み合わせ、活性調節機構の解明に成功し、病原菌のオキシダーゼ特異的な阻害剤を合理的に創出し、薬剤耐性淋菌に対する有望な抗菌剤の開発に成功した。さらに、②当研究室で同定したメカノシグナルに関与する介在板タンパク質が遺伝性心筋症の病態修飾因子であり、有望な創薬標的であることを明らかにした。

 青木Gでは、③くも膜下出血の原因疾患である脳動脈瘤を対象疾患としたトランスレーショナルリサーチを実践し、脳動脈瘤病態制御機構の解明とそれに基づく新規薬物治療法・新規診断法の開発に取り組んでいる。その中で、脳動脈瘤の発生・増大・破裂という病態の各段階を再現可能な複数のモデル動物の整備が完了しており、これらを使用し本年度の検討を進めた。結果、破裂を制御する特異的機構の解明、増大を制御する特異的マクロファージサブセット候補の同定、いくつかの新規創薬標的の同定、治療薬候補薬剤の同定等を行った。さらに、他の頭頚部血管疾患の検討への展開を開始した。

2022年の主な研究成果

ミトコンドリア呼吸鎖の活性調節機構の解明と創薬研究
 CcOの活性をアロステリックに調節する内因性のタンパク質Higd1aの発見に基づき、低分子化合物によるCcO活性化による創薬研究を進めている。阻害剤を独自に見出し、構造解析・計算化学を組み合わせ、活性調節機構の解明と創薬展開を進めた。阻害剤について、結晶構造解析とクライオ電顕による構造解析、ラマン分光法、計算化学を組み合わせ、活性調節機構の解明に成功し、病原菌のオキシダーゼ特異的な阻害剤を合理的に創出し、薬剤耐性淋菌に対する有望な抗菌剤の開発に成功した(Nishida Y, et al. Nat Commun. 2022;13(1):7591)。

心疾患の病態形成に関与する新規分子標的の探索、機能解析
 当研究室で独自に同定したメカノシグナルに関与する、介在板に存在する膜タンパク質が遺伝性心筋症の病態修飾因子であり、有望な創薬標的であることを明らかにした。

脳動脈瘤病態制御機構の解明とそれに基づく新規薬物治療法・新規診断法の開発

  • 脳動脈瘤の破裂機構として、炎症下での血管壁の低酸素状態の増悪に起因した脳表からの新生血管の誘導という組織構築の変容が重要であるとの知見を得た。
  • 脳動脈瘤の増大を規定する特異的マクロファージサブユニットの候補を同定し、その特徴を解析した。
  • ヒト症例の横断的観察研究およびメタ解析を実施しスタチン製剤の破裂予防薬としての可能性を確認した。
  • 脳動脈瘤の新規の病態制御因子かつ創薬標的を複数同定した。一部の因子につき、遺伝子欠損ラット系統を樹立し病態への寄与を確認するとともに、当該因子の阻害薬による病態抑制効果を確認した。
  • 頭頚部血管疾患へ検討を拡張するために、必要な手続きを終了し病変部試料の集積を開始した。
    さらに一部疾患については、遺伝子変異解析等の解析も実施した。
  • くも膜下出血発症後急性期の二次脳損傷を予防可能な薬物の候補を同定した。