心不全科
研究活動の概要

心不全・移植部門心不全科では、毎年1200名程度の入院症例の診療にあたっています。弁膜症、心筋症、またはそれらを基礎疾患とした心不全入院が入院症例のほとんどを占めており、より良い診療につなげていけるようにと、それらの疾患に関する研究を進めています。自施設での研究のみでなく、多施設研究の主幹施設として、より大規模な研究にも取り組んでいます。

  1. 心筋症関連の研究
    心筋症に関しては、国内で最も患者数が多く、拡張型心筋症、肥大型心筋症に加え、心サルコイドーシス、ファブリ病や心アミロイドーシスなどの二次性心筋症の症例も豊富で、これらに関わる研究を進めています。ファブリ病やATTRアミロイドーシスの最先端の治療も可能であること、心臓MRIなど画像診断のデータが豊富であることも特徴です。

  2. (1) 肥大型心筋症の多施設研究
    2021-2023年度AMED課題として採択され、日本における多施設レジストリーで現在3800例の登録を完了しました。それによる突然死および拡張相への移行の予測プログラム作成に関する研究を進めています。

    (2) 心臓サルコイドーシスの多施設研究
    JROADデータを用いて、多施設後向きレジストリー研究を開始しました。現在、全国127施設から後向き登録を行っています。2000例を超す症例数のレジストリを構築し、日本における心臓サルコイドーシス診療の実態を明らかにするとともに、再燃例の治療に関する特定臨床研究を開始する予定です。

    (3) 腫瘍循環器に関する研究
    国立がんセンターと協力し、542,489例の担がん患者の循環器診療実態に関する研究を進めています。

    (4) 糖尿病性心筋症に関する研究
    糖尿病患者における心不全発症および重症化を予測するバイオマーカーに関する研究を行っています。バイオバンクを活用し、複数のバイオマーカーの測定により早期診断キットの開発を目指しています。

    (5) その他の心筋症関連の研究
    心アミロイドーシス、ファブリ病の予後や画像診断に関する自施設データをまとめるとともに、新たな治療薬の治験にも多く参加しています。

  3. 弁膜症・SHD関連の研究
    高齢化社会において特に問題となる、大動脈弁狭窄症や僧帽弁閉鎖不全症、三尖弁閉鎖不全症を中心に、その診断や予後に関わる研究を行っています。また弁膜症のカテーテル治療に関しては、経カテーテル大動脈弁留置術、経カテーテル僧帽弁修復術、Valve in Valveなど国内で最先端の治療ができ、さらに、まだ承認されていないカテーテル治療の治験にも参加しています。三尖弁閉鎖不全症に関する後向きおよび前向き研究を行い、後ろ向きデータに関しては1005例の重症三尖弁閉鎖不全症患者データから、その分類や予後規定因子を解析したものを論文発表しました。また弁膜症患者における運動負荷心エコー図検査の有用性についての研究も行い、その有用性に関して論文発表を行いました。
    現在生体弁置換術後早期患者に対するDOACの有用性に関する医師主導型治験を開始し、約100例の症例を登録しています。

  4. 心不全患者レジストリーおよび心不全予後予測プログラムの作成
    情報統括部と連携して、心不全入院連続例を登録しデータベースを作成し、現在約2000例の登録を完了しています。このデータベースには、合併症などの臨床データや採血データのみならず、心エコー図検査、心臓MRIなどの画像検査のデータも取り込んでおり、今後、これらの経時的な変化を一元的に管理可能なシステムを構築できるよう、準備を進めています。過去のデータベースやこれらのデータベースをもとに、機械学習により予後予測を行う、予後予測プログラム作成の共同研究を予防医学・疫学情報部およびフィリップスと行い、論文化しました。

  5. 循環器緩和ケアに関する研究
    平成25年に国内初の多職種恊働循環器緩和ケアチームを立ち上げて以来、終末期心不全患者のQOL改善に向けた取り組みとプロトコールの確立を目指しており、これらの循環器緩和ケアに関する啓蒙や、その意義に関する研究、終末期の鎮静に関する研究なども行っています。2019-2020年度AMEDで緩和ケアに関する介入研究を行い、現在データ解析中です。

  6. 心エコーを中心とした画像診断に関する研究
    当科では弁膜症と心筋症の診療を行っているため、心エコー図検査を中心とした画像診断と密接に関わっています。そのため、心臓血管領域における新規血流イメージング法に関する臨床応用に関する研究など心エコー機器メーカーと協力し、最新の心エコー技術の活用、さらには開発に関わる研究も行っています。また、弁膜症評価に不可欠な運動負荷心エコー図検査を多数例に行っており、得られたデータをまとめ、臨床上の有用性に関する検討を行っています。

  7. 研究所との共同研究
    心不全患者の腸内細菌叢および自律神経との関わりについての研究を、研究所と共同で行っています。
2022年の主な研究成果

  • 心不全患者におけるBNPの意義に関する研究を報告した(Kimura A, Takahama H, et al ESC Heart Fail 2022:8:5617-5621, Okamoto C, Izumi C, et al ESC Heart Fail 2022:9:636-647)
  • 心臓サルコイドーシスのデータを報告した。(Kaneta K, Takahama H, Izumi C, et al. Am J Cardiol 2022:188:24-29, Kitai T, Izumi C, et al. Heart 2022;108:1887-1894, Nabeta T, Kitai T, et al Eur Heart J 2022;43:3450-3459)
  • 生体弁置換術後心房細動例における抗凝固療法に関する多施設前向き研究について報告した(Amano M, et al. Circ J 2022;86:415-424, Izumi C, et al Circ J 2022;86:440-448, Miyake M, Izumi C, et al Circ J 2022;86:1699-1707, Obayashi Y, Izumi C, et al. J Cardiol 2022;9:636-647)
  • 弁膜症/心不全患者における運動負荷心エコーの有用性に関して報告した。(Amano M, et al Scientific Report 2022;12:15977-36155621)
  • 三尖弁閉鎖不全症の予後予測因子について報告した(Nakagawa S, Izumi C, et al. J Cardiol 2022 Online ahead of print)
  • 新規心エコー手法に関するデータを発表した。(2022年日本循環器学会、2022年日本超音波検査学会)
  • ファブリ病やトランスサイレチン型心アミロイドーシスに関するデータを発表した(2022年日本循環器学会)
  • 僧帽弁逆流、大動脈弁逆流などの予後に関するデータを発表した。(2022年日本循環器学会、2022年心エコー図学会)