【世界初の脳動脈瘤治療用カバードステント開発】
当科では、生体医工学部の中山泰秀室長(当時)と当科の佐藤徹医長(当時)が中心になって、治療困難な大型脳動脈瘤の根治を目指した新規脳動脈瘤治療用ステント「多孔化カバードステント(NCVC-CS1)」を開発し、2018年度に医師主導治験を完了した。2020年には厚生労働省の先駆け審査品目に指定され、2021年に検証的治験を開始した。早期上市に向けて治験を進捗させている。
【フローダイバーター留置術におけるTEG6sを用いたプレートレットマッピングの有用性を評価する多施設共同研究(FUTURE study)】
未破裂脳動脈瘤に対するフローダイバーター留置術の周術期における虚血性及び出血性合併症の発生とTEG6sの測定結果との相関を調べ、今後の適切な抗血小板療法の指標とすることを目的に、特定臨床研究を開始した。開始約4ヶ月で目標症例数の約1/4が登録され、2023年中の登録終了および解析開始を目指している。
【脳梗塞急性期血栓回収療法に関する研究】
脳梗塞急性期における脳前方循環主幹動脈急性閉塞(Large vessel occlusion: LVO)に対する機械的血栓回収療法は広く行われているが、新たな機器の開発や脳灌流画像の応用などによりさらに適応が拡大する可能性がある。
当科では脳血管内科、脳神経内科と共同して機械的血栓回収療法を実施しており、各閉塞動脈別の最適な手技および機器選択、CTもしくはMRIで評価した脳灌流画像に基づく適応判断の適正性、それぞれの臨床転帰などについての研究を行っている。最近ではLVOの25-40%を占めると言われているMedium vessel occlusion (MeVO)症例に関する解析を行なっている。MeVOは内頚動脈や中大脳動脈中枢側閉塞などのLVOと比較し閉塞部位が遠位で虚血範囲が広くないがしばしば予後不良であり、MeVOに対する血栓回収療法への期待は世界的に高まっている。同分野に関する学会発表を行なったほか、論文として投稿中である。
【もやもや病の病態と治療に関する研究】
出血型もやもや病の他施設共同研究(JAM Trial)およびその副次研究によって、血行再建術の有効性と脈絡叢型側副血行路が出血の危険因子となる旨が明らかとなった。2021年は血行再建術後の出血性脳卒中発症例について、出血源となりうる側副血行路の解析を行い、新知見を全国学会にて報告した。さらに長期的な予後データ収集のため、もやもや病データベースを作成中である。2022年は出血型もやもや病に関する京都大学および当センターの共通データベースを作成した。術後出血イベント発生に関する解析を行い、論文化を進行中である。
【甲状腺疾患と頭蓋内血管狭窄に関する研究】
2021年のもやもや病診断基準の改訂により、甲状腺疾患の合併があってももやもや病と診断可能となった。当科からは抗甲状腺抗体陽性頭蓋内血管狭窄症について、その特徴と経過中の脳血管イベントリスクについて論文報告している。症例を蓄積しており、もやもや病および自己抗体陽性頭蓋内血管狭窄の病態解明に寄与する知見を得るべく研究進行中である。
【脳神経外科手術におけるハイブリッド手術室の活用に関する研究】
当センターでは2019年の移転にあたり、バイプレーン脳血管撮影装置を備えた脳神経外科専用ハイブリッド手術室を、全国の病院に先駆けて導入・運用しシーメンス社との共同研究を行っている。複雑な脳血管障害に対するハイブリッド手術のみならず、通常の血管内治療や術後CTおよび術中血管撮影を併用する直達手術においても同システムを活用している。また、くも膜下出血などの緊急疾患においても積極的に同室を使用して、治療の効率化を図っている。2022年度はより積極的に活用することで治療件数を増やすとともに、ハイブリッド手術室を使用した手術ついて全国学会にて発表を行い、同内容について論文作成中である。未来の脳外科手術室の発展に貢献すべく、今後も積極的な運用・検証を行っていく。
【脳動脈瘤に関する研究】
2020年度11月より国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)との契約にて研究プロジェクト”脳動脈瘤ビッグデータとAIを用いた増大破裂関連因子抽出と予測システムの構築”を行っている。本研究では脳動脈瘤患者背景データベースを構築し、AI技術を用いて、”脳動脈瘤自動診断技術”と”脳動脈瘤増大破裂予測システム”を開発することを目的としている。2022年度は、脳動脈瘤最大径自動診断技術に加え、患者背景因子を使用した脳動脈瘤増大破裂予測システムを開発終了し、頭部MRI画像を使用した脳動脈瘤増大破裂予測システム開発を進めた。今後は両者のアルゴリズムを組み合わせた統合予測システムを作成し、今後の臨床研究につなげていく。最終的には世界初の精度の高い脳動脈瘤増大破裂予測システムを完成させ、医療機器申請と臨床応用を目指していく。
【脳動静脈奇形の病態と治療に関する研究】
当センターは直達手術、血管内治療、定位放射線治療(ガンマナイフ)を高水準に同一施設内で行うことが可能で、治療件数は全国トップクラスであり、多数の紹介を受けている。今後も専門外来を継続することで、さらなる症例集約と手術実績・成績維持に努める。当センターでの治療成績については、学会発表および論文報告を行い、症例蓄積を継続している。2019年に最新型ガンマナイフICONに更新し、より精度の高いプランニングソフトLightningも導入し、さらなる低侵襲治療が可能となった。ICONを用いて、これまで治療困難とされている大型脳動静脈奇形に対する治療方法の確立を目指した臨床研究を推進していく。
【頚動脈プラークのリスク層別化に関する研究】
当センターでは頚動脈狭窄症に対する治療方針は内科との合同カンファレンスで決定している。近年は症候性低狭窄度プラークにおける最適な治療はトピックとなっている。症候性低狭窄度プラークのゴールデンスタンダードの治療は現在も内科治療であるが、内科治療抵抗性となり再発をきたすことが少なくないという報告が散見される。当院のデータでも再発率は43%にものぼり、特に潰瘍病変に関しては、有意に再発する傾向を認めた。このように低狭窄度病変でも潰瘍を有する場合は外科的治療が示唆される可能性がある。今後も更なる解析検討を行い、学会発表、論文報告をしていく予定である。
- 大型脳動脈瘤の新規治療デバイスである多孔化カバードステント(NCVC-CS1)に対する検証的治験を遂行している。
- 未破裂脳動脈瘤に対するフローダイバーター留置術における、抗血小板療法の新規指標としてTEG6sを使用した特定臨床研究を開始し、症例登録が順調に進んでいる。
- 機械的血栓回収療法における最適な手技および機器選択、脳灌流画像に基づく適応判断の適正性、臨床転帰などについての研究を脳内科と合同で行っている。最近では、Medium vessel occlusion (MeVO)症例を中心に解析しており学会発表する。
- 出血型もやもや病に関して京都大学と新たに合同データベースを作成した。術後出血イベント発生に関する解析を行い、現在論文化している。
- 甲状腺疾患合併もやもや病症例を蓄積しており、もやもや病および自己抗体陽性頭蓋内血管狭窄の病態解明を目指し解析している。
- ハイブリッド室での治療件数を増やし、有用性についての論文を作成中である。
- 脳動脈瘤自動診断技術として部位診断に加え最大径診断が可能となった。患者背景因子を使用した増大予測システムを開発終了し、頭部MRI画像を使用した増大予測システム開発を進めている。今後は両者を組み合わせた統合予測システムを作成し、検証していく。
- ガンマナイフ導入以来の当センターの脳動静脈奇形の治療戦略と治療成績につき、全国学会にて発表を行った。大型脳動静脈奇形に対する治療方法の確立を目指した臨床研究を推進している。
- 頚動脈狭窄症データベースを用いた解析により、症候性低狭窄度プラークのうち潰瘍病変を伴う症例では有意に脳梗塞を再発する傾向があることが分かり、外科的治療の必要性が示唆された。この成果について論文投稿中である。