脳血管内科・SCU
研究活動の概要【脳血管内科】

脳血管内科は、脳血管障害を全身血管病として捉え、神経病学・循環器病学・リハビリテーション医学・救急医学・画像診断学・血栓止血学などの多角的な視点から研究活動を進めている。
豊富な入院患者の綿密なデータベースに基づいて、脳血管障害の症候学・病態生理・診断・内科治療法などを解明する多くの研究を、連綿と発表し続けてきた。その活動実績を国内外で評価され、脳血管障害研究の国際的中核機関と位置づけられている。

2022年は古賀が部長として5年目、豊田は部門長かつ副院長として6年目に入った。
横田脳血管リハビリテーション科医長は、リハビリテーションに関する診療・研究の推進に重点を置きながら、引き続き当科業務を兼務した。井上SCU病棟医長(国際戦略室室長との併任)、吉村病棟医長、三輪外来医長、田中医師、高下医師、塩澤医師、福田医師(データサイエンス部との併任)、石上医師(研究医療課長、循環器病対策情報センター事業管理室長兼任)を含めた体制で、科を運営した。
3月末に高木医長が退職し、専門修練医の細木が2年間、レジデントの千葉、木村、山口が3年間の研修を終え、専門修練医の田中聡人、鈴木が所属施設の都合のため1年間、新垣が6ヶ月の研修を終えた。10月から聖マリアンナ医科大学東横病院から吉江医師が新規赴任し、カテーテル治療の内科部門チームに加わった。宮田敏行客員研究員は国際血栓止血学会のEsteemed Career Awardsを受賞し、引き続き血栓止血研究に関連した研究活動を指導した。

診療面では、脳神経内科や脳神経外科と連携して、脳血管部門全体でチーム診療に取り組んだ。
2020年から継続している新型コロナ感染症の影響を受けながらも感染対策下での積極的な脳卒中・神経疾患診療を実践した。国立循環器病研究センターでは、救急外来・画像診断部門・血管造影室・SCU病棟を機能的に集約した1階で急性期脳卒中診療を行い、安定後の脳卒中管理・リハビリテーションを一般病棟と脳リハビリテーション部門のある6階で行っている。
救急隊や地域の医療機関の要請に対して、24時間365日脳卒中患者を断らず受け入れており、2020年から開始された日本脳卒中学会の一次脳卒中センターの認定を受け、2021年から一次脳卒中センターコア施設となり、整備の一環として、急性期治療の提供のみならず、脳卒中患者さんに対して医療及び介護に関する適切な情報提供を行う「脳卒中相談窓口」を設置した。

脳内科と心疾患科の連携が重要な分野において、Brain Heart teamとしての診療に取り組んでいる。
具体的には、心不全科、小児循環器科と連携しての卵円孔閉鎖術適応、不整脈科、心臓外科と連携しての左心耳閉鎖デバイスや左心耳閉鎖術、不整脈科と連携しての失神外来について、定期的にミーティングを行い、診療体制の充実に取り組んだ。
とくにこれまで構築してきた静注血栓溶解療法と急性期血管内治療を組み合わせた脳梗塞急性期再開通治療では、治療開始までの時間短縮に注力し、静注血栓溶解療法施行は100例を超え、急性期血管内治療は初めて100件を超えた。急性期診療の詳細は、SCUの活動概要に詳述した。
引き続き再発予防治療、家庭・社会復帰、無症候性脳血管障害診療などの診療にも力を注いだ。

多施設共同研究は、脳血管内科が長年とくに重視してきた、研究の主軸である。

豊田・井上・古賀・福田は、杏林大学脳卒中医学平野照之教授と共同で急性期脳梗塞に対するテネクテプラーゼの有効性と安全性を調べる医師主導型無作為割付試験T-FLAVORの準備を開始し、AMED委託研究費「新規血栓溶解薬テネクテプラーゼの脳梗塞急性期再開通療法への臨床応用を目指した研究」を獲得し、特定臨床研究法のもと、先進医療Bの承認を受け、鋭意31件の症例登録をしている。

豊田・吉村・福田・古賀・井上・三輪は、NIH助成による国際共同無作為化比較試験FASTEST(脳出血急性期止血薬評価)の国内研究助成としてAMED委託研究費「脳出血超急性期患者への遺伝子組換え活性型第Ⅶ因子投与の有効性と安全性を検証する研究者主導国際臨床試験」により、特定臨床研究承認および先進医療Bの承認を受け、2022年末までに国内37例(世界81例)の症例登録を行っている。

国内で行ったSAMURAI-NVAF研究から国際共同研究に発展するかたちで、欧州と共同でEarly versus Late initiation of direct oral Anticoagulants in post-ischaemic stroke patients with atrial fibrillatioN (ELAN)試験(古賀日本代表)への症例登録を開始し、2022年11月までに101例を登録した。このELAN試験により早期直接経口抗凝固薬開始の安全性と有効性を明らかにする。

豊田が、運営委員長を務める脳卒中データバンク事業(事務局 古賀・吉村)の推進を行うとともに現在の医療事情に合致した新しい全国版データベースで登録を推進するとともに、登録施設に対してquality indicator(脳卒中医療の質を評価する指標)の施行率のフィードバックを行った。このフィードバックにより全国平均との比較が可能となり、ガイドラインやエビデンスを遵守した脳卒中医療の普及が期待される。

頭蓋内出血を発症した心房細動患者を対象とした早期抗凝固療法に関する安全性および有効性を検証する多施設共同観察研究(SAFE-ICH研究)(古賀研究責任者、三輪・田中事務局)は、2022年12月までに132例を登録し、症例登録を継続している。

バイオジェン株式会社の資金提供を受けて、広範脳梗塞に対する脳保護療法に関する国際多施設共同ランダム化比較試験 (CHARM)(豊田国際中核メンバー、古賀主任研究者、井上事務局) に日本最多の5例を登録した。

国内での医療政策に関わる活動として、脳血管内科医師の多くが委員、実務を担当して来年発刊予定の「脳卒中治療ガイドライン改訂2023」の編集作業を行った。豊田は、PMDA専門委員として新規薬剤・医療機器承認に関わった。

国際学会の運営としては、豊田が大会長として第10回韓日合同脳卒中カンファレンスを大阪で開催した。COVID感染状況を鑑みWeb開催としたが、世界より278名の参加、129演題の投稿があった。

単施設研究の充実にも努めた。若手医師が脳神経内科と合同で運営している急性期患者連続登録NCVC Stroke Registryのデータベースを用いた研究に取り組んでいる。
他にも、心臓内科、心臓血管外科、移植部や放射線部など院内他科、研究所の病態ゲノム医学部と連携した研究も行われた。

潜因性脳梗塞患者への潜在性心房細動検出に関するReveal LINQ Registryの国内調整委員を豊田が務めている。古賀を中心に国際頭蓋内動脈解離研究 (I-IDIS)(スイス、イタリア、フランス、スウェーデンなど) に症例登録を行っている。

COVID-19の影響で脳卒中に関連する多くの国際学会、国内学会が現地開催/WEB開催のハイブリッド形式で行われた。International Stroke Conference 2022、European Stroke Organization Conference 2022、World Stroke Congress 2022、Asia Pacific Stroke Conference 2022を始め、多くの国際学会、国内学会に、当科メンバーが運営委員ないし発表者として参加した。

研究成果の速やかな英語論文化を全員に課し、多くの英語論文が、peer reviewを受けてThe New England Journal of Medicine、Lancet Neurology、JAMA Neurology、Annals of Neurology、Stroke、Neurologyをはじめとする英文誌に採択された。豊田がStroke、PLoS One等、古賀がCerebrovasc Dis、J Atheroscler Thromb、脳卒中、臨床神経学等のeditorial board memberを務め、多くの当科メンバーが英語論文査読業務に携わった。

研究活動の概要【脳卒中集中治療室 SCU】

井上がSCU医長4年目を、小濱師長も4年目を迎えた。SCU病棟は、18床での運用を行い、主に内科系の脳卒中診療を行う脳血管内科と脳神経内科の医師、専門修練医、レジデント約40人(ローテーションや異動による変動あり)が、緊急で入院する脳血管障害患者の急性期治療および管理を行う病棟として機能を果たした。

通年のコロナ禍に対応すべく、オープンスペースだった病床の一部をビニールカーテンで個室化するなどして、個室7床・ビニール対応個室3床の合計10床で感染対策に尽力している。またICUコロナ病棟へSCU看護スタッフが出向したため、15床で運用する時期もあった。

SCU病棟は、看護師は日勤帯約15人、夜勤帯6人が勤務した。医師と看護師を中心に放射線科や検査科と協力して多くの緊急入院受け入れを行い、適応例に対しては積極的に血栓溶解療法および血管内治療などの最先端の急性期治療を行った。日勤帯、夜間帯、土日祝日を問わず24時間体制で2-3名(スタッフ医師または専門修練医とレジデント)の緊急当番医や当直医が救急隊や近隣の医療施設と直接通話が出来るホットラインを使用して断らない脳卒中急性期医療を実践した。
塩澤・古賀が、心臓内科田原医長、脳神経外科片岡部長らと協力して当院への患者搬送を促進するため救急隊へのオンラインを併用しながら啓発活動を行っている。

脳部門では脳神経外科と緊密に連携し、適切な血管内治療や開頭手術を行った。2022年は約1753例の緊急入院を受け入れ、時間外緊急入院(土日祝日もしくは平日夜間の入院)が半数以上であった。
そのうち急性期脳梗塞 706例、急性期脳出血 190例であった。アルテプラーゼによる静注血栓溶解療法は116例(前年92例)、緊急血管内治療は106例(前年60例)に行った。特に血管内治療に関しては医療コミュニケーションツールであるJOINを使用した連絡体制を密に取り、画像診断としてRAPIDシステムを使用することで発症24時間までの症例にも積極的に治療介入を行った。

急性期脳出血では診断後の可及的早期からニカルジピン静注薬を使用して収縮期血圧140mmHg前後を目標に厳格な血圧管理を行った。10月より5倍希釈による投与を行いニカルジピン静注薬による静脈炎予防対策として静脈炎発生率を検討している。

また、2022年4月から新規に始まった重症患者初期支援充実加算として毎朝SCU師長・SCU責任リーダー・SCU医長・入院時重症患者対応メディエーター(徳永心理士)を入れての回診を行なっている。同時に毎朝SCU責任リーダー・SCU医長で抑制解除ラウンドを行い、抑制の解除のタイミングを協議している。急性期入院症例を複数の臨床研究や治験に多く登録した。

指導医師1-2名と専門修練医もしくはレジデント2-3名の計3-4名からなる診療チームが入院時から診療を担当し、全例の診療内容を毎日確認し治療方針を検討した。日勤帯の緊急入院では担当になる診療チームが可能な限り初期からの対応に加わることで、緊急当番医の次の緊急対応を容易にしている。
さらに、毎朝の全員SCUカンファレンス、木曜午後の脳血管内科回診と脳神経内科回診で、個々の症例の診断や治療方針、問題点などをディスカッションし、診療レベルの維持・向上に努めた。このシステムは、脳血管障害を診療する医師を育成するための教育に役立っている。

コロナ禍の影響で極力オンラインでのカンファレンスを多用したが、感染対策に留意し、SCU病棟の回診を再開した。看護師、リハビリテーション科スタッフ、放射線科、検査科、栄養科などと協力して多職種による脳卒中診療を行っており、脳卒中患者が入院した場合には入院日にリハビリテーションをオーダーし、入院当日もしくは翌日からリハビリテーションを受ける体制をとった。

また、脳卒中に関連するてんかん診療にも力をいれている。2011年から開始しているSCU入院例を中心とした脳血管内科、脳神経内科の脳卒中合同データベース(NCVC Stroke Registry)を維持・継続して運用しており登録症例数が24000例を超えた。このデータベースが多くの研究や試験の基盤となっている。

2022年の主な研究成果
  • 脳卒中部門として救急応需率の維持
  • 脳血管部門としての脳梗塞急性期再開通治療実績を過去最高更新
  • 脳卒中データバンク事業の管理運営
  • 国内脳卒中臨床試験研究者ネットワークNeCSTの運営
  • 国内ガイドライン・推奨作成への貢献
  • 研究者主導国内多施設共同第Ⅱ相試験T-FLAVOR試験の運営
  • 国際共同試験研究者主導第Ⅲ相試験FASTESTの運営
  • 国際共同試験研究者主導介入試験ELANへの日本からの最多登録と試験運営
  • 脳卒中ゲノムデータの利活用を促進する基盤構築Open Genesの運営
  • 国際共同研究の推進および運用
  • 義務教育年代への効果的な脳卒中啓発法の確立に関する研究
  • 急性期患者連続登録NCVC Stroke Registryを用いた単施設研究の推進