革新的な医療技術の実現と普及には企業・大学等との連携が必須なので、産学連携本部では最先端の医療に直結した臨床ニーズと逐次アップデートされる研究成果にもとづく技術シーズをさらに展開し、企業・大学等とのアライアンスを活かしつつ次世代の医療機器、医薬品、ヘルスケア事業の創出へとつなげることを目指している。臨床現場から得られた課題解決策や、研究活動から得られた成果を知的財産として適正に保護・管理するとともに、新しい医療・ヘルスケアとして社会に適切に還元されるよう事業化を促し、循環器病の究明と制圧に資する産学連携を進めている。
7月に産学連携本部の組織改編を行い、知財戦略室、社会実装推進室、連携戦略室の3室体制とした。事業化推進室から改組された連携戦略室では、産学連携を企画・構築し、新たな研究プラットフォームを開拓しつつ事業化を推進することで、研究成果の社会への還元を図っている。また、知財戦略室では、研究成果や技術成果等の知的資産を適正に知的財産権として保護・管理するとともに、効果的・効率的な運用を図っている。具体的には導出戦略を立案し、技術移転の促進、共同研究・ライセンス契約等のアライアンスを実行している。理事長直下に配置されていたかるしお事業推進室から産学連携本部内へと改組された社会実装推進室では、おいしい減塩食“かるしお”の普及・啓発など、循環器病の予防・治療予後のための生活習慣の改善を産業界とともに社会実装する取り組みを進めている。
当研究センターの健都への移転とともに開設されたオープンイノベーションラボ(OIL)では、企業・大学等との一つ屋根の下での共同研究拠点として、多彩なプロジェクトが推進されている。さらに、産学官の交流の場となるサイエンスカフェでは、様々なイベントの企画・開催によりオープンイノベーションの概念に基づき新たな研究の探索・共同研究の推進に注力している。
-産学連携の成果として-
- OILを研究拠点とする企業等は2021年末で18社、OILの占有率は83%となっている。国循の医師・研究者らと密接な連携を伴う研究拠点化の形成が促進されている。
- 当研究センターが代表機関として15参画機関と共同で応募した産学官民連携の大型プロジェクトである、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の「共創の場形成支援プログラム(バイオ分野・本格型)」(10年:総額約31億円)に採択された。本プログラムでは、産学連携本部が支援組織の中心を担う形で国循のある北大阪健康医療都市(健都)エリアを拠点とした産学共創システムを立ち上げる。産官学民の多数の連携からなる研究成果を創出し住民に還元する、未来型総合医療産業都市拠点づくりに向けて稼働し始めた。2021年は、副PLである産学連携本部長の指示の基、プログラムを推進する本部(共創の場支援オフィス)の体制を整え研究開発を支える拠点形成の体制を構築した。また、全国共有施設である共創研究育成センターをセンターに設置しオールスター研究センター・健都イメージングサポート拠点の規程等を定め国循外から利用できるよう運用を開始した。
- 当研究センター内外の優れた技術、研究シーズや現場でのニーズ等をお互いに紹介し合うことで、サイエンスカフェを拠点とした新たな連携や共同研究につながる出逢い、マッチング創出機会を設けることを目的としたイベント「イノベーションカフェ」を開催した。2021年は毎月定期的に計12回開催した。企業27社、当センターの研究者8名がそれぞれニーズ、シーズを発表し、参加者は延べ1356名であった。2021年1年間でサイエンスカフェクラブ登録会員数は300名以上増え、493名となり、交流の輪が拡大している。
- 医薬品医療機器総合機構(PMDA)との連携協定のもと、同機構から講師を招き、企業人材への医療機器の研究開発と承認プロセスに関するセミナーを実施した。これらによりPMDAとの人材交流・人材育成が図られるとともに、医療機器等の薬事に関する規制と産学連携の推進との総合的な連携が図られた。また、2021年度末をもって本協定が終了するため、協定の継続に向けPMDAと協議を重ね次年度以降も協定を延長する方向で合意した。
- 2021年には、新たに大阪商工会議所をはじめ9機関との連携協定書の締結をはじめとして、ビジネスマッチングによる共同研究の推進、研究成果の事業化に向けた経営支援を通じ、医療や健康づくりに関わる研究、人材育成、地域連携等を進めている。
- 発明ヒアリング、発明評価、出願対応、中間対応、国際出願戦略、期限管理、導出活動までの全てを産学連携本部が効果的かつ効率的にシームレスに担う体制を構築した。発明者の一存によることなく発明を客観的な視点より評価し、導出活動・出口を見据えた知財出願戦略を構築する体制を整えた。特許出願を行うだけでなく、活用・実用化を見据えて、マッチング・共同研究立案・研究費申請を企画するに至っている。整備した体制を活用し、2年間停滞していた特許契約案件について折衝し、契約締結に至った。この結果、当研究センターに1億以上の収益をもたらすことに成功した。
- 発明評価において、専門的視点から特許性及び事業性を評価する評価ワーキング制度を導入し、適正かつ効率的に発明評価を行う体制を整備し、運用を開始した。さらに、2022年度は本格的に委員会運営を改め、関連委員会の統合を行うとともに審査体制の見直しを行う。この抜本的な委員会改革によって、当研究センターの経営視点から知的財産権による保護の投資判断を行う体制に移行する。
- 医療従事者のアイデアを特許として保護したうえで開発着手から半年という短期間で製品化が見込まれる高機能マスク、意匠を確保したうえで治験の必要症例数を含めたガイドライン策定など総合的な製品化が推進され医師主導治験でも高評が得られているBridge to Decisionの超小型補助循環デバイス・ポータブルECMOなどの開発に至った。すなわち、知財戦略室と事業化推進室とが連動して機能することで、研究開発の現場と密接に連携しながら知財保護を行うことができ、効果的な知的財産の活用に寄与している。また、両室に跨って活動できる人材を本部長直下に配置することで、上記の機能を高めた。
- 医療研究連携推進本部の知財・法務課とも連携し、6NCの知財・法務の実務担当者と定期的に意見交換できる運用体制を構築した。これまで他NCとで知財等に関する情報交換や知見の共有が少なかったが、医療研究連携推進本部の設置に伴う他NCとの連携により今後の知財等の活用強化が期待できる。
- これまでに出版したかるしおレシピ本シリーズ4冊から100レシピを厳選した「国循の厳選おいしい‼かるしおレシピ 今日から始める減塩メニュー100」(NHK出版)を2021年6月に発刊し、生活習慣病対策、認知症予防への啓発を進めた。
- 2021年の1年間に、かるしお認定件数(リニューアル・サイズ違いを除く)は47社144件から52社166件へと企業数・認定件数ともに増加し、おいしい減塩食品の食品市場への展開がさらに進んだ。また、かるしお認定商品を消費者が体感できる認定商品のモニター評価とアンケート調査を実施し(応募総数4,525名,当選者200名うち有効回答者122名)、その結果をかるしおHPにて公開することで同制度のプロモーションを進めた。
- 循環器病の予防と治療の予後につながるおいしい減塩食づくりのレシピコンテストとして、「みんなが作りたくなるような見た目も楽しめるおいしい減塩のお弁当」をテーマに、医薬基盤・健康・栄養研究所との共催により第5回S-1g(エス・ワン・グランプリ)大会を開催した。全国から、一般部門25件、学生部門15件、災害栄養部門27件にのぼる応募があり、12月18日の最終選考にて各部門金・銀・銅賞を決定し、おいしい減塩食を考え・つくり・周知する機会を提供した。
- 日露経済協力に基づき、ロシア連邦栄養・バイオテクノロジー研究センター付属病院と連携し、「かるしおレシピ」をアレンジしたレシピについて同病院食への試験導入を実施するなど海外展開も進めた。
- かるしおに関する様々な情報発信により多方面から取材の要請があり、減塩食品モニター(読売新聞2021/01/20掲載)など1年間で計83件の新聞などメディアに掲載され、周知が図られた。