再生医療部
研究活動の概要

再生医療部は、心血管疾患に対する新規再生治療法の開発を目的として、心血管病態および心臓再生機序の基礎研究を行っており、これまで胎児心筋症の発症機序の解明、生理活性ペプチドの腎不全・腎臓再生機能などの研究を進めてきた。また、心臓再生機序の研究では、最近明らかになってきた心臓の自己再生機序に着目した研究を進めている。これまで再生不能と考えられてきた哺乳類の心臓も、生後数日の間は再生することがわかっており、この機序介入する新たな再生医療技術の開発を目指している。特に、再生医療部では高い自己再生能を持つゼブラフィッシュを用いて、心筋細胞の脱分化・増殖誘導・抑制機序を研究しており、その機序を成体マウスの心臓において検証することで、再生効果発揮に重要な分子細胞機序の同定を目指している。

2021年の主な研究成果
  1. 心筋細胞の自己増殖機序の解明
    ほ乳類と異なり、ゼブラフィッシュは損傷した心臓をほぼ完全に再生する。この再生機序では、残存心筋細胞が損傷に応答して未分化様に変化する、いわば「若返り」を経て、増殖期に再進入することが必須である。マウスやブタなどのほ乳類も、生後数日の間は同様の機序で心臓を再生することが知られている。本報告では、先天性貧血の原因遺伝子として知られていた転写因子Klf1が、これまで全く報告のない心臓再生機能を持ち、心筋細胞の若返りと増殖誘導機序の中心的な転写制御因子であることを解明した。ゼブラフィッシュの心臓において、Klf1は損傷により心筋特異的に発現し、ゲノム編集による発現抑制は、未分化マーカー発現と増殖レベルを減じ、再生不全を引き起こした。逆に、非損傷心臓におけるKlf1の強制発現は、広範に未分化様変化を誘導し、心筋細胞数を顕著に増加させる。この分子機序として、Klf1は心筋特異的転写因子ネットワークを抑制し、直接未分化様変化を誘導すること、細胞周期・代謝制御遺伝子の発現を調節することが解っている。本研究結果から心筋再生機序のさらなる解明と新たな心臓再生医療の開発が進むと期待される。

  2. 胎児心不全の病態解明
    胎児心不全の診断法は未確立であり、胎児・新生児医療において障害となっている。胎児心不全の病態を解明することにより、胎児心不全の診断法確立が進むと考えられる。本研究では、先天性心形態異常や胎児不整脈に起因した胎児心不全症例に着目し、臨床研究を実施した結果、胎児心不全により胎盤の構造及び機能変化に関する新知見を得た。特に、母体血を用いた胎児心不全の病態診断及び予測マーカーの候補分子を同定した。

  3. 造影剤腎症の新たな診断及び治療法の開発
    急性腎障害(acute kidney injury、AKI)は腎間質虚血および薬剤性尿細管障害を病態の基盤とする、生命予後、腎予後に重大な影響を与える疾患である。その一つが造影剤腎症であり、循環器診療では稀ではない合併症と知られている。しかし、その早期診断や機能回復を可能とする医療技術の開発は進んでいない。本研究では、生理活性物質アドレノメデュリンがAKI早期に尿中で検出されることに着目し、早期診断法への応用と造影剤腎症に対するアドレノメデュリン療法の開発に取り組んでいる。

研究業績
  1. D'Gama PP, Qiu T, Cosacak MI, Rayamajhi D, Konac A, Hansen JN, Ringers C, Acuna-Hinrichsen F, Hui SP, Olstad EW, Chong YL, Lim CKA, Gupta A, Ng CP, Nilges BS, Kashikar ND, Wachten D, Liebl D, Kikuchi K, Kizil C, Yaksi E, Roy S, Jurisch-Yaksi N. Diversity and function of motile ciliated cell types within ependymal lineages of the zebrafish brain. Cell Reports. 37, 109775, 2021.
  2. Ogawa M, Geng FS, Humphreys DT, Kristianto E, Sheng DZ, Hui SP, Zhang YX, Sugimoto K, Nakayama M, Zheng DW, Hesselson D, Hodson MP, Bogdanovic O, Kikuchi K. Krüppel-like factor 1 is a core cardiomyogenic trigger in zebrafish. Science. 372, 201-205, 2021.
  3. Thavapalachandran S, Le TYL, Romanazzo S, Rashid FN, Ogawa M, Kilian KA, Brown P, Pouliopoulos J, Barry AM, Fahmy P, Kelly K, Kizana E, Chong JJH. Pluripotent stem cell-derived mesenchymal stromal cells improve cardiac function and vascularity after myocardial infarction. Cytotherapy. 23, 1074-1084, 2021.
  4. Rashid FN, Clayton ZE, Ogawa M, Perdomo J, Hume RD, Kizana E, Chong JJH. Platelet derived growth factor-A (Pdgf-a) gene transfer modulates scar composition and improves left ventricular function after myocardial infarction. International Journal of Cardiology. 341, 24-30, 2021.
  5. An JS, Tsuji K, Onuma H, Araya N, Isono M, Hoshino T, Inomata K, Hino J, Miyazato M, Hosoda H, Kangawa K, Nakagawa Y, Katagiri H, Miyatake K, Sekiya I, Muneta T, Koga H. Inhibition of fibrotic changes in infrapatellar fat pad alleviates persistent pain and articular cartilage degeneration in monoiodoacetic acid-induced rat arthritis model. Osteoarthritis and Cartilage. 29, 380-388, 2021.
  6. Zenitani M, Hosoda H, Nose S, Kangawa K, Kawahara H, Oue Y. Importance of plasma ghrelin levels with special reference to nutritional metabolism and energy expenditure in pediatric patients with severe motor and intellectual disabilities. Clinical Nutrition ESPEN. 42, 180-187, 2021.
  7. Miyoshi T, Hosoda H, Kurosaki KI, Shiraishi I, Nakai M, Nishimura K, Miyazato M, Kangawa K, Yoshimatsu J, Minamino N. Plasma natriuretic peptide levels reflect the status of the heart failure in fetuses with arrhythmia. The Journal of Maternal-Fetal & Neonatal Medicine. 34, 1883-1889, 2021.
  8. 大谷 健太郎, 神谷 千津子, 徳留 健. 妊娠中および産褥期における心臓ナトリウム利尿ペプチドの生理的意義の解明. 循環器内科. 89, 386-394, 2021.
  9. 徳留 健, 大谷 健太郎. ANPによる血圧調節の分子メカニズム. 血管. 44, 9-18, 2021.