薬剤部
研究活動の概要
近年の医療において薬物療法の果たす役割は大きく、特に医薬品の適正使用は、治療に影響を与える重要な要因である。このような中、薬剤部では、医薬品の適正使用の推進を目的とし、調剤、製剤、医薬品管理等の基本的な薬剤業務に加え、薬剤管理指導、医薬品情報管理、副作用モニタリング、薬物血中濃度モニタリング等の業務を行ってきた。当センターの基本方針に従い、薬剤部における研究活動は、医薬品の適正使用や薬剤管理指導に加え、循環器用薬等の薬物動態や薬剤疫学に焦点を合わせた研究を中心に行っている。また、最近では、薬物代謝の遺伝子情報に関する研究も行っている。
具体的には以下のテーマに基づいた研究を実施している。
- 抗不整脈薬、免疫抑制剤、抗菌薬の薬物動態に関する研究
- 薬物血中濃度モニタリング(TDM)の臨床的有用性に関する研究
- 循環器用薬に関する薬剤疫学研究
- 副作用や相互作用に関する調査研究
- 薬剤業務に関連する調査研究
2021年の主な研究成果
心臓移植後早期の感染症予防にアゾール系抗真菌薬であるクロトリマゾール(CLZ)を用いることがあるが、CLZはCYP3Aの阻害作用を有するためタクロリムス(TAC)との相互作用が報告されている。
当院ではCLZ中止によるTAC血中濃度の急激な低下に伴う拒絶反応のリスクがあるため、入院下でTAC血中濃度の再調整を行っていた。しかし社会復帰している心臓移植後患者において2週間程度の入院は負担であり、CLZに代えてアムホテリシンB(AMPH-B)含嗽で真菌日和見感染予防を行っている。
AMPH-B含嗽がTAC薬物動態へ及ぼす影響は報告されておらず、心臓移植後AMPH-B含嗽併用前後におけるTAC薬物動態を評価した。AMPH-B含嗽併用下、非併用下で血中トラフ濃度、血中濃度下面積に有意差は認められなかった。抗真菌薬をAMPH-B含嗽に変更し心臓移植後6か月目の心筋生検時に抗真菌薬を中止する際、入院によるTAC血中濃度管理が不要となり拒絶反応のリスクを考慮する必要がないことが明らかになった。
研究業績
- Ikura M, Nakamura T, Uno T, Nakagita K, Takenaka H, Matsuda S, Oda R, Wada K, Hattori Y, Seguchi O, Yanase M, Hayakawa N, Fukushima N. Discontinuation of oral amphotericin B therapy does not influence the pharmacokinetics of tacrolimus in heart transplant patients. International Journal of Clinical Pharmacology and Therapeutics. 59, 566-571, 2021.
- Matsui K, Mukai Y, Sakakura K, Wada K, Nakamura T, Kawabata A, Terakawa N, Hayakawa N, Kusano K, Hosomi K, Yokoyama S, Takada M. Relationship between serum bepridil concentration and corrected QT interval. International Journal of Clinical Pharmacology and Therapeutics. 59, 63-70, 2021.