再生医療部
研究活動の概要

再生医療部は、心血管疾患に対する新規再生治療法の開発を目的として、心血管病態および心臓再生機序の基礎研究を行っている。病態研究では、マウス、ラット、ハムスターなど様々なモデル動物を用いて、胎児心筋症の発症機序の解明に取り組んできた。また、生理活性ペプチドの腎不全への関与、腎臓組織再生機能に着目し、その治療応用を目指した基礎研究も進めている。心臓再生機序の基礎研究では、最近明らかになってきた心臓の自己再生機序に着目した研究を進めている。これまで再生不能と考えられてきた哺乳類の心臓も、生後数日の間は再生することがわかっている。この再生機序は魚類や両生類に見られる様な自己再生を介することが明らかとなっており、この機序介入する新たな再生医療技術の開発を目指している。特に、再生医療部では高い自己再生能を持つゼブラフィッシュを用いて、心筋細胞の脱分化・増殖誘導・抑制機序を研究しており、その機序を成体マウスの心臓において検証することで、再生効果発揮に重要な分子細胞機序の同定を目指している。

2020年の主な研究成果
  1. 胎児心不全の病態解明
    胎児心不全の診断法は未確立であり、胎児・新生児医療において障害となっている。胎児心不全の病態を解明することにより、胎児心不全の診断法確立が進むと考えられる。本研究では、先天性心形態異常や胎児不整脈に起因した胎児心不全症例に着目し、臨床研究を実施した結果、胎児心不全により胎盤の構造及び機能変化に関する新知見を得た。特に、母体血を用いた胎児心不全の病態診断及び予測マーカーの候補分子を同定した。

  2. 造影剤腎症の新たな診断及び治療法の開発
    急性腎障害(acute kidney injury、AKI)は腎間質虚血および薬剤性尿細管障害を病態の基盤とする、生命予後、腎予後に重大な影響を与える疾患である。その一つが造影剤腎症であり、循環器診療では稀ではない合併症と知られている。しかし、その早期診断や機能回復を可能とする医療技術の開発は進んでいない。本研究では、生理活性物質アドレノメデュリンがAKI早期に尿中で検出されることに着目し、早期診断法への応用と造影剤腎症に対するアドレノメデュリン療法の開発に取り組んでいる。

  3. 周産期心筋症の病態解明
    周産期心筋症は原因不明かつ治療法が未確立な妊産婦間接死亡原因の上位疾患である。本研究では、新たな周産期心筋症モデルマウスを確立し、心臓で産生・分泌される心房性・脳性ナトリウム利尿ペプチドが、周産期心筋症の病態形成に関与することを見出した (Otani K, et al. Circulation 2020)。この結果は、ANP・BNPシグナル経路が周産期心筋症の治療標的になり得る可能性を示唆するものである。

研究業績
  1. Otani K, Tokudome T, Kamiya CA, Mao Y, Nishimura H, Hasegawa T, Arai Y, Kaneko M, Shioi G, Ishida J, Fukamizu A, Osaki T, Nagai-Okatani C, Minamino N, Ensho T, Hino J, Murata S, Takegami M, Nishimura K, Kishimoto I, Miyazato M, Harada-Shiba M, Yoshimatsu J, Nakao K, Ikeda T, Kangawa K. Deficiency of Cardiac Natriuretic Peptide Signaling Promotes Peripartum Cardiomyopathy-Like Remodeling in the Mouse Heart. Circulation. 141, 571-588, 2020.
  2. Miyoshi T, Hisamitsu T, Ishibashi-Ueda H, Ikemura K, Ikeda T, Miyazato M, Kangawa K, Watanabe Y, Nakagawa O, Hosoda H. Maternal administration of tadalafil improves fetal ventricular systolic function in a Hey2 knockout mouse model of fetal heart failure. International Journal of Cardiology. 302, 110-116, 2020.
  3. Cultrone D, Zammit NW, Self E, Postert B, Han JZR, Bailey J, Warren J, Croucher DR, Kikuchi K, Bogdanovic O, Chtanova T, Hesselson D, Grey ST. A zebrafish functional genomics model to investigate the role of human A20 variants in vivo. Scientific Reports. 10, 19085, 2020.
  4. Wong ES, Zheng D, Tan SZ, Bower NI, Garside V, Vanwalleghem G, Gaiti F, Scott E, Hogan BM, Kikuchi K, McGlinn E, Francois M, Degnan BM. Deep conservation of the enhancer regulatory code in animals. Science. 370, eaax8137, 2020.
  5. Cochrane CR, Vaghjiani V, Szczepny A, Jayasekara WSN, Gonzalez-Rajal A, Kikuchi K, McCaughan GW, Burgess A, Gough DJ, Watkins DN, Cain JE. Trp53 and Rb1 Regulate Autophagy and Ligand-Dependent Hedgehog Signaling. The Journal of Clinical Investigation. 130, 4006-4018, 2020.
  6. Kikuchi K. New function of zebrafish regulatory T cells in organ regeneration. Current Opinion in Immunology. 63, 7-13, 2020.