臨床栄養部は、栄養管理部門とNST活動を統括している。栄養管理部門では、入院患者への美味しい減塩食を提供できるよう、管理栄養士、調理師と一体となり活動を行っている。NST活動においては心移植待機患者をはじめとする心不全によるカヘキシー患者に対する栄養管理を積極的に実施している。
また、2017年6月に発足した「かるしお事業推進室」と密接に連携を保ち、「かるしおレシピ」を始めとする国循食事業「かるしおプロジェクト」の中心的部門として活動を行っている。
病院食の充実に向けた取り組み
臨床栄養部は循環器疾患治療を目的に、塩分制限・脂質組成・エネルギー量等を考慮すると共に、嗜好的にも満足できる患者食への取り組みを行ってきた。減塩食を中心に治療食(特別加算食)の提供は他施設より大幅に高く、食事提供者の81.7%(2020年12月迄の実績)を占めている。低食欲、低栄養患者への取り組みとして、食品・経腸栄養製品・栄養補助食品等も駆使し患者の栄養管理を行っている。また、循環器病の専門病院としてワーファリン服用患者のワーファリンコントロールのための食事の選択のひとつとして低ビタミンK食提供対応も行っている。さらに、脳卒中後の咀嚼・嚥下障害に対応した嚥下訓練食も病状によりステップアップができるよう日本摂食・嚥下リハビリテーション学会の基準に準拠した4段階の易嚥下食を提供している。ペースト食は安全な嚥下食を目指し、簡易粘度測定による再評価を行い患者食への提供を行っている。
移転後の病院食への取り組み
2013年の移転建替基本構想により、新調理システム(クックチル+再加熱カート)の情報収集をし、移転後も安全で精度の高い食事提供が継続できるよう、献立の再編準備を進め、大量調理施設衛生管理マニュアルに準拠した、衛生管理が遵守できるよう、品質管理ポイントに合致した食事管理を部門システムに備えるよう準備を行ってきた結果、移転当日より施設内で調理した食事を患者に提供することができた。その後も従来、おいしい病院食と好評を得ていた状況を保ちつつ、新調理システムに合ったレシピの開発を行ってきた。11月に実施した患者へのアンケートでは、満足とやや満足が55%、普通が28%と肯定的な意見が83%であった。また、移転前後の食事については移転後の食事に対し30%が不満との回答であったため、今後も新調理システムを用いたレシピの開発を続け、より満足の高い食事提供を目指していく。
栄養食事指導への取り組み
栄養食事指導においては、栄養治療の重要性を認識してもらうべく入院・外来患者に個別栄養指導、糖尿病透析予防指導、集団指導として高血圧教室、腎臓病教室、糖尿病教室、心リハ教室を行っている。個人指導では、循環器病の予防と治療を目的とした、効果的かつ継続的な減塩の方法について指導を、一月あたり184件(2020年12月迄の実績)行っている。栄養士の増員がありさらに指導件数の増加を目指していく。生活習慣病部門と連携して行っている、糖尿病透析予防指導管理に関しても、一月当たり、10件の協働介入を行っている。
チーム医療への取り組み
臨床栄養部は、NST(Nutrition Support Team)、褥瘡チーム、嚥下チーム、代謝内科チーム、緩和チームに参画し、各チームの介入患者への栄養学的アプローチに寄与している。中でもNSTにおいては、臨床栄養部が中核を担い能動的な活動を行っている。NST活動は、医師、看護師、管理栄養士、薬剤師を含む多職種共同で栄養状態の把握から適切な栄養投与に関する治療活動を進めている。その一環として、栄養評価を基に中長期腸管不使用による下痢の改善を図るための経口食の内容および投与法の検討、褥瘡者の栄養介入、薬効減弱の影響回避の食事内容の見直しを進めてきた。昨年度より、NSTと歯科医師との連携の強化を行い、口腔機能低下による栄養状態の低下に対するシームレスな対応が可能となった。2018年1月よりNST医師として代謝内科医師(大畑医師)が活動メンバーに加わり、さらにカへキシーや内分泌代謝異常患者への栄養治療に取り組んでいく体制が整えられた。2020年度12月迄にNSTで対応を行った件数は220.9件/月、うちNST加算件数211.4件/月、歯科医師連携加算も同数の加算算定が出来た。新規依頼件数についても75.2件/月で、全てにおいて増加傾向となっている。また、非経口摂取患者口腔粘膜処置の算定支援を行い4.5件/月から44.0件/月と増加している。今年度から新たに早期栄養介入管理加算取得に向けて専任栄養士を3名増員し、ICU、CCUでの活動を開始した。CCUは2020年度1月より算定を開始し、ICUは2月からの算定を予定している。早期離床、在宅復帰を推進する栄養治療の充実だけでなく、算定件数の増加に繋げていく予定である。
かるしおレシピの普及推進
栄養管理の重要性は、生活習慣が要因として起こる循環器病疾患の治療・予防策として広く認められているところである。当部は循環器病の専門病院の治療食の中心を担う責任部門として、研究・教育活動を進めている。これまで塩分やその他の栄養素にも配慮した美味しい病院食を目指して作成してきた各種の治療食に関するコンテンツを、知的資産部と協力し国循の知的資産としての活用化に取組んでいる。その中で、病院食のコンセプトに基づく宅配弁当(国循弁当)へのレシピ化事業を進めてきた。また、患者をはじめ多方面から要望のあった国循の食事をレシピ本にまとめた「国循の美味しいかるしおレシピ」シリーズも以下の実績を上げている。2017年3月には、従来のかるしおレシピのコンセプトに、認知症予防に効果が期待される栄養素を含む食材を使った料理を紹介する、「続々国循の美味しい!かるしおレシピ」を出版した。しかし、出版社の事業縮小により、8月より書店での販売が終了したため、新たな出版会社と協議を行い、2021年度前半にこれまでのレシピ本から選りすぐり編集を加えた新しいレシピ本の出版を目指している。
- かるしおレシピシリーズ累計発行部数:約40万部
- 各シリーズ(計4冊):
- 2012/12/19 「国循の美味しい!かるしおレシピ」
- 2013/12/18 「続 国循の美味しい!かるしおレシピ」
- 2014/04/10 「saita mook美味しい!かるしおレシピ春」
- 2015/02/26 「1日1品から始める 国循のかるしおレシピ練習帖」
- 2015/10/10 「国循のかるしお手帳」
- 2017/03/01 「続々国循の美味しい!かるしおレシピ」
かるしお認定
循環器疾患の究明と克服に向け、「一人ひとりが健康でいられる社会をつくる」という願いを込めて、塩分などに配慮し循環器疾患・予防への対応を考えた美味しい食事「かるしお」生活をひろげていくための新たな取り組みとして知的資産部と共同し「かるしお認定」を開始した。2020年の1年間にかるしお認定件数は41社125件から47社144件と増加した。
日露予防医療プロジェクトへの参加
日露両国の二国間交流として進められている「8項目の協力プラン」の1つ目に位置付けられている健康づくり・予防医療の推進が日露双方にて進められている。
2018年1月のロシア視察団の来日の際に、国循にて日本の和食文化への理解を目的とし、かるしおレシピのノウハウを用いたヘルシーメニューの試食を提供し、視察団より非常に高評価を得ることができた。
さらに、2018年6月および10月に、ロシア・モスクワにおいて、NRCPM(ロシア国立予防医療科学センター)の栄養部門スタッフによるかるしおメニューの試食会を行い、高い評価を受け、ロシア向けのレシピ集の編纂を行った。2019年2月には、農林水産省の依頼により、ロシア栄養研究所において日本におけるおいしい病院食の提供に関する講演と、かるしおのノウハウに基づく3レシピを当該研究所附属病院で調理師、関係者に対する試食会を実施し、好評を得ることができた。
また、2020年10月には新たに5品のレシピを開発し、テスト導入のためにオンライン調理を実施した。その後テスト導入につながり患者からの高評価を得た。
今後、同プロジェクトの一環とし、日本・ロシアともに受け入れられるレシピ開発に向けた活動を継続していく。