薬剤部
研究活動の概要

 近年の医療において、薬物療法の果たす役割は大きく、特に医薬品の適正使用は、治療に影響を与える重要な要因である。このような中、薬剤部では医薬品の適正使用の推進を目的とし、調剤、製剤、医薬品管理等の基本的な薬剤業務に加え、薬剤管理指導、医薬品情報管理、副作用モニタリング、薬物血中濃度モニタリング等の業務を行ってきた。
 当センターの基本方針に従い、薬剤部における研究活動は、医薬品の適正使用や薬剤管理指導に加え、循環器用薬等の薬物動態や薬剤疫学に焦点を合わせた研究を中心に行っている。
また、最近では、薬物代謝の遺伝子情報に関する研究も行っている。

 具体的には以下のテーマに基づいた研究を実施している。

  1. 抗不整脈薬、免疫抑制剤、抗菌薬の薬物動態に関する研究
  2. 薬物血中濃度モニタリング(TDM)の臨床的有用性に関する研究
  3. 循環器用薬に関する薬剤疫学研究
  4. 副作用や相互作用に関する調査研究
  5. 薬剤業務に関連する調査研究

2019年の主な研究成果

 米国Food and Drug Administration(FDA)の有害事象自発報告データベースであるFDA Adverse Event Reporting System(FAERS)を用いて、タクロリムスとアゾール系抗真菌薬の薬物相互作用が移植拒絶反応に与える影響を調査した。

 さらに、この結果を臨床で確認するため、当センターの心臓移植患者を対象に、アゾール系抗真菌薬がタクロリムスの薬物動態に与える影響を調査した。
FAERSを用いた解析の結果、アゾール系抗真菌薬の内クロトリマゾールのみ、タクロリムスの移植拒絶反応と関連することが示唆された。
 また、薬物動態解析の結果、クロトリマゾールの中止後翌日に、タクロリムスの血中濃度は急激に低下することが明らかとなった。この急激なタクロリムスの血中濃度の低下は、移植拒絶反応のリスクとなる可能性があるため、クロトリマゾールの中止後は、綿密なタクロリムスの血中濃度モニタリングが必要であると考えられた。

 直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)が2012年に使用開始されて以降、血液検査の結果による用量調節が不要との簡便さから、心房細動患者においてもワルファリンに変わって広く使用されるようになっている。一方で、出血リスクを避けるために減量基準を満たさない減量(under use)で処方されることも稀ではなく、実際に脳梗塞を引き起こしてしまうなどの問題が起こっている。
DOACはワルファリンと異なり、血液検査による薬効評価が行えず、DOAC登場以降、薬効評価方法の確立は実臨床で強く求められている。そんな中でDOAC の血中濃度を測定する意義について言及されるようになっており、当センターでもDOACの血中濃度に関する評価・検討を行っている。

 アピキサバンについて、実臨床にて投与量別に血中濃度を比較した。全体的な患者背景では、5mg/day服用患者では10mg/day服用患者よりも高齢、低体重であった。
分布容積や代謝・排泄能などを反映する血中濃度用量比(C/D)を比較しても差は認めず、血中濃度は5mg/day服用患者では10mg/dayよりも血中濃度は低かった。 薬物動態の差はなく、血中濃度が低下していたのは、投与量の差に由来すると考えられた。
5mg/day服用患者のうち、添付文書記載の減量基準を満たしていない患者(under use)のみ抽出した場合、通常用量の10mg/day服用患者との患者背景に差は認めず、血中濃度の有意な低下を認め、C/Dの差は認めなかった。

 薬物の代謝排泄能が低下していないような患者への不必要なunder useは血中濃度の低下をさせ、薬効を減弱させるおそれがある。 血中濃度の観点からも、不必要な減量投与は推奨できないと考えている。

研究業績
  1. Hamatani Y, Nakamura E, Miyata M, Kawano Y, Takada Y, Anchi Y, Funabashi S, Hirayama A, Kuroda K, Amano M, Sugano Y, Anzai T, Izumi C. Survey of Palliative Sedation at End of Life in Terminally Ill Heart Failure Patients - A Single-Center Experience of 5-Year Follow-up -. Circulation Journal. 83, 1607-1611, 2019.
  2. Uno T, Wada K, Matsuda S, Terada Y, Terakawa N, Oita A, Yokoyama S, Kawase A, Hosomi K, Takada M. Effects of clotrimazole on tacrolimus pharmacokinetics in patients with heart transplants with different CYP3A5 genotypes. European Journal of Clinical Pharmacology. 75, 67-75, 2019.
  3. Kawauchi S, Wada K, Oita A. Changes in blood concentration of mycophenolic acid and FK506 in a heart- transplant patient treated with plasmapheresis. International Journal of Clinical Pharmacology and Therapeutics. 57, 32-36, 2019.
  4. Uno T, Wada K, Matsuda S, Terada Y, Oita A, Takada M, Yanase M, Fukushima N. Comparison of CYP3A5*3 genotyping assays for personalizing immunosuppressive therapy in heart transplant patients. International Journal of Clinical Pharmacology and Therapeutics. 57, 315-322, 2019.
  5. Kimura Y, Yanase M, Mochizuki H, Iwasaki K, Toda K, Matsuda S, Takenaka H, Kumai Y, Kuroda K, Nakajima S, Watanabe T, Ikura MM, Wada K, Matsumoto Y, Seguchi O, Fukushima S, Fujita T, Kobayashi J, Fukushima N. De novo malignancy in heart transplant recipients: A single center experience in Japan. Journal of Cardiology. 73, 255-261, 2019.
  6. Matsui K, Tsubota M, Fukushi S, Koike N, Masuda H, Kasanami Y, Miyazaki T, Sekiguchi F, Ohkubo T, Yoshida S, Mukai Y, Oita A, Takada M, Kawabata A. Genetic deletion of Cav3.2 T-type calcium channels abolishes H2S-dependent somatic and visceral pain signaling in C57BL/6 mice. Journal of Pharmacological Sciences. 140, 310-312, 2019.