創薬基盤研究室では、脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血を予防するための新規の診断法・治療法の創出を目標として主にモデル動物を使用した検討を継続している。本年度は、脳動脈瘤破裂機構を解明するためのくも膜下出血モデルラットの確立と病変の解析、破裂誘導機構として外膜の構造的変化の同定、病変形成を担う力学因子としての伸展刺激の同定、モデル動物に誘発した病変を使用した網羅的遺伝子発現解析結果等から新規の創薬標的候補因子の抽出、病変局所の炎症状態を可視化するためのマクロファージイメージング用の新規のMRI造影剤の候補粒子の選別を行った。
脳動脈瘤の自然破裂によるくも膜下出血モデルを樹立した。本モデルを使用し破裂と相関する病理組織学的特徴の解析を進め、破裂を制御する機構の候補として外膜でのvasa vasorumといった基質的変化を見出した。また、脳動脈瘤形成に対しては従来認識されていた高いずり応力に加えて病変形成部位である脳血管分岐部で生じる外膜の伸展反応が寄与することを見出した。すなわち、従来の概念を越えて脳動脈瘤発生が異なる二種の力学的刺激により制御されているという概念を提唱した。さらに、新規の脳動脈瘤治療のための創薬標的同定のために既取得のヒト病変の網羅的遺伝子発現解析結果と新たに確立したくも膜下出血発症モデルの病変部を使用した網羅貴的遺伝子発現解析の結果からいくつかの標的候補因子を抽出し、モデルラットを使用した発現解析を行った。また、脳動脈瘤を対象とした新規の診断法として病変部のマクロファージをMRIで可視化し病勢を判断するためのマクロファージイメージング手法の開発を行っており、そこで使用するモデル動物の動脈瘤に浸潤するマクロファージをイメージング可能な新規のナノ粒子造影剤の候補となる粒子を複数作出し、その中から最終開発候補粒子を選別した。
- 青木 友浩. 脳血管の慢性炎症性疾患としての脳動脈瘤の理解と薬物治療法開発への展望. 循環器病研究の進歩. XXXIX, 66-74, 2018.
- 青木 友浩. 脳動脈瘤に対する新規薬物治療法・診断法開発の可能性と近未来展望. 脳神経外科ジャーナル. 27, 882-888, 2018.
- 青木 友浩, 小関 宏和, 宮田 悠, 安部倉 友, 清水 寛平. 炎症を通し脳動脈瘤を理解する. 脳神経外科. 46, 275-294, 2018.
- 小関 宏和, 宮田 悠, 青木 友浩. 脳動脈瘤新生モデル(橋本モデル). 完全版 脳血管内治療学. 305-307, 2018.