臨床栄養部は、栄養管理部門とNST活動を統括している。栄養管理部門では、入院患者への美味しい減塩食を提供できるよう、管理栄養士、調理師と一体となり活動を行っている。NST活動においては心移植待機患者をはじめとする心不全によるカヘキシー患者に対する栄養管理を積極的に実施している。
また、2017年6月に発足した「かるしお事業推進室」と密接に連携を保ち、「かるしおレシピ」を始めとする国循食事業「かるしおプロジェクト」の中心的部門として活動を行っている。
病院食の充実に向けた取り組み
臨床栄養部は循環器疾患治療を目的に、塩分制限・脂質組成・エネルギー量等を考慮すると共に、嗜好的にも満足できる患者食に取り組みを行ってきた。減塩食を中心に治療食の提供数は増加傾向であり、食事提供者の81.5%(平成29年度1月実績までの累計)を占めている。低食欲、低栄養患者への取り組みとして、食品・経腸栄養製品・栄養補助食品等も駆使し患者の栄養管理を行っている。また、循環器病の専門病院としてワーファリン服用患者のワーファリンコントロールのための食事の選択のひとつとして低ビタミンK食提供対応も行っている。さらに、脳卒中後の咀嚼・嚥下障害に対応した嚥下訓練食も病状によりステップアップができるよう摂食リハビリテーション学会の基準に準拠した4段階の易嚥下食を提供している。ペースト食は安全な嚥下食を目指し、簡易粘度測定による再評価を行い患者食への提供を行っている。
栄養食事指導への取り組み
栄養食事指導においては、栄養治療の重要性を認識してもらうべく入院・外来患者に個別栄養指導、糖尿病透析予防指導、集団指導として高血圧教室、腎臓病教室、糖尿病教室、心リハ教室を行っている。個人指導件数は、214.0件/月となり、(2015年度205.3件/月、2016年度213.1件/月)年々漸増傾向となっている。循環器病の予防と治療を目的とした、効果的かつ継続的な減塩の方法について指導を行っている。また、代謝内科部と連携して行っている、糖尿病透析予防指導管理に関しても協働介入を行い、11.9件/月(2015年度0.9件/月、2016年度7.3件/月)と増加している。
チーム医療への取り組み
臨床栄養部は、NST(Nutrition Support Team)、褥瘡チーム、嚥下チーム、代謝内科チーム、緩和チームに参画し、各チームの介入患者への栄養学的アプローチに寄与している。中でもNSTにおいては、臨床栄養部が中核を担い能動的な活動を行っている。NST活動は、医師、看護師、管理栄養士、薬剤師を含む多職種共同で栄養状態の把握から適切な栄養投与に関する治療活動を進めている。その一環として、栄養評価を基に中長期腸管不使用による下痢の改善を図るための経口食の内容および投与法の検討、褥瘡者の栄養介入、薬効減弱の影響回避の食事内容の見直しを進めてきた。昨年度より、NSTと歯科医師との連携の強化を行い、口腔機能低下による栄養状態の低下に対するシームレスな対応が可能となった。2018年1月よりNST医師として代謝内科医師(大畑医師)が活動メンバーに加わり、さらにカへキシーや内分泌代謝異常患者への栄養治療に取り組んでいく体制が整えられた。今後、患者への栄養治療の充実だけでなく、加算算定件数の増加に繋げていく予定である。2017年度にNSTで対応を行った件数は202.9件/月、(2015年度155.9件/月、2016年度188.9件/月)、うちNST加算件数189.9件/月(2015年度150.2件/月、2016年度181.0件/月)、2018年10月より算定開始した、歯科医師連携加算も190.6件/月(2017年度178.5件/月)と増加した。新規依頼数についても47.9件/月(2015年度42.8件/月、2016年度43.9件/月)で漸増している。
調理講習会の実施
外来患者や家族を対象にした調理講習会を定期的に開催している。2017年度は、5月と11月に千里金襴大学と共催開催を行い、病院で提供しているメニューを家庭で実践できるよう、わかりやすく調理師より紹介した。また、市町村で開催される減塩イベントにおいても、減塩レシピの紹介する活動を行っている。
かるしおレシピの普及推進
栄養管理の重要性は、生活習慣が要因として起こる循環器病疾患の治療・予防策として広く認められているところである。当部は循環器病の専門病院の治療食の中心を担う責任部門として、研究・教育活動を進めている。これまで塩分やカロリーにも配慮した美味しい病院食を目指して作成してきた各種の治療食に関するコンテンツを、知的資産部と協力し国循の知的資産としての活用化に取組んでいる。その中で、病院食のコンセプトに基づく宅配弁当(国循弁当)へのレシピ化事業を進めてきた。また、患者をはじめ多方面から要望のあった国循の食事をレシピ本にまとめた「国循の美味しいかるしおレシピ」シリーズも以下の実績を上げている。2017年3月には、従来のかるしおレシピのコンセプトに、認知症予防に効果が期待される栄養素を含む食材使った料理を紹介する、「続々国循の美味しい!かるしおレシピ」を出版した。
- かるしおレシピシリーズ累計発行部数:377,200部
- 各シリーズ(計4冊):
- 2012/12/19 「国循の美味しい!かるしおレシピ」
- 2013/12/18 「続 国循の美味しい!かるしおレシピ」
- 2014/04/10 「saita mook美味しい!かるしおレシピ春」
- 2015/02/26 「1日1品から始める 国循のかるしおレシピ練習帖」
- 2015/10/10 「国循のかるしお手帳」
- 2017/03/01 「続々国循の美味しい!かるしおレシピ」
かるしお認定
循環器疾患の究明と克服に向け、「一人ひとりが健康でいられる社会をつくる」という願いを込めて、塩分やカロリーにも配慮し循環器疾患・予防への対応を考えた美味しい食事「かるしお」生活をひろげていくための新たな取り組みとして知的資産部と共同し「かるしお認定」を開始した。2017年4月から2018年2月までに14社24商品の認定を行い、累計で115件の認定を実施した。2018年3月に幕張メッセで行われたFoodex Japan (4日間述べ72,428名の来場)へ、かるしお推進室と協働し出展を行った。食品開発、食品販売担当者からもビジネスモデルとして注目を集め、国循が目指すおいしい減塩食の普及とかるしお認定事業を広くアピールすることに繋がった。
移転後の調理システムの検討
2013年の移転建替基本構想によると、移転後の国循における食事提供サービスは、新調理システム(クックチル+再加熱カート)に対応し、効率的な調理方法とする方針となっている。新調理システムの情報収集をし、移転後も安全で精度の高い食事提供が継続できるよう、献立の再編準備を進めている。
日露予防医療プロジェクトへの参加
日露両国の二国間交流として進められている「8項目の協力プラン」の1つ目に位置付けられている健康づくり・予防医療の推進を日露双方にて進められている。2018年1月のロシア視察団の来日の際に、国循にて日本の和食文化への理解を目的とし、かるしおレシピのノウハウを用いたヘルシーメニューの試食を提供し、視察団より非常に高評価を得ることができた。今後、同プロジェクトの一環とし、日本・ロシアともに受け入れられるレシピ開発に向けた活動を行っていく。