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先端医療技術開発部

Ⅰ. 概要

先端医療技術開発部は2020年に創立された比較的新しい部で、主に先端的な生体イメージング機器を駆使した循環器の基礎研究、及び前臨床研究を行っている。山岡哲二が併任部長を務め、2020年4月から室長として超高磁場MRIを担当する齋藤と、2021年5月に室長として多光子顕微鏡を使った細胞の分子活性測定を担当する佐藤の2名が所属している。極めて動的な生体器官である循環器について、その機能や病態を深く理解するためには、生体の循環器を高い時間分解能で、できる限り高い空間解像度で観察できることが望ましい。また、刻々と変化する状況に対応して生じる細胞内の分子活性変化を描出することも、病態分子機構の理解に有益である。当研究部では実験動物に対して、超高磁場7T-MRIを用いた病態モデル解析と多光子顕微鏡を用いた単一細胞解像度の分子活性ライブイメージングを行っている。イメージングを用いた脳血管疾患および循環器疾患の病態解明を目指して研究を行っている。

Ⅱ. 業績内容

研究業績

  1. 超高磁場7T-MRIを用いた先端画像技術の開発(齋藤室長)
    我々は30cmボアを有する超高磁場7T-MRIを前臨床・基礎研究に利用し、疾患モデル動物の病態解明を進めている(図1)。本装置はマウスから小型の霊長類までの測定が可能で、撮影技術開発を通じて基礎と臨床をつなぐ橋渡し研究を推し進めている。
    図1 7T-MRI
    図1 7T-MRI
    1. 脳疾患モデルへの先端画像技術の開発とその適用
      脳疾患には脳梗塞や脳出血などの脳血管障害(図2)、パーキンソン病、アルツハイマー病などの神経変性疾患、多発性硬化症などの脱髄疾患、神経膠芽腫などの脳腫瘍などがある。現在、MRIはこれらの脳疾患に対して、最も有効な画像診断技術となっており、既存の解剖学的な評価法に加え、水分子拡散イメージング(DTI、NODDI)、脳代謝物イメージング(MRS、CEST)、脳血管や脳血流イメージング(MRA、 ASL)などの多面的なイメージング技術を積極的に応用し、より詳細に病態診断や治療効果判定を可能とする新たな画像バイオマーカーの探索を目指している。
      図2 胎児期低酸素脳症のMRI
      図2 胎児期低酸素脳症のMRI
    2. 心疾患モデルへの先端画像技術の適用
      臨床で用いられている心臓の画像診断技術は心臓の拡張や収縮に伴う容積や形態的な変化を捉えることで心機能や心筋の病態を評価している。そのため心臓の形態変化が起きる前の早期病変や形態変化を伴わない疾患の評価は困難である。超高磁場7T-MRIを用いて齧歯類の心臓に対して、100μm以下の高分解能で心機能イメージングや心筋組織性状イメージング法の開発を行い、心疾患モデルの発達に伴う心臓の形態変化(図3)、心疾患病態の早期検出、形態変化を伴わない心筋組織変性の検出を目指している。現在までに、マウスの心筋壁厚マッピングの開発(MRI 2017)、拡張型心筋症モデルにおける心機能低下の早期検出(Sci Rep 2017)、心臓内の線維芽細胞が心臓の線維化・硬化をもたらす筋線維芽細胞に変化する過程を明らかにしました(Circulation research 2019)。
      図3 新生仔マウスの心発達過程のMRI画像
      図3 新生仔マウスの心発達過程のMRI画像
  2. 多光子顕微鏡を用いた一細胞レベル解像度での分子活性ライブイメージング(佐藤室長)
    細胞の中では様々なタンパク質分子が情報伝達ネットワークを形成し、細胞外からの刺激入力に応じてCa2+や環状AMPに代表される二次メッセンジャーの濃度を変化させたり、各タンパク質のリン酸化状態を変えたりすることで、出力となる細胞活動を調節している。このような情報伝達の仕組みは旧来、検出感度の制約上、膨大な数の細胞から調製した懸濁液を用いて、多数の細胞の平均値として分析されてきた(例:ウエスタンブロッティング)。あるいは、固定した組織を染色することで分析されてきた(例:免疫組織染色)。しかし、これらのアプローチは個々の細胞間で差のある現象や、時間的な揺らぎを伴う現象を見逃してしまう可能性が高い。
    この問題を打開した技術の一つが、GFPに代表される蛍光タンパク質を応用したタンパク質蛍光プローブ、FRETバイオセンサーであった。FRETバイオセンサーは細胞内にある特定のタンパク質の働きを蛍光の色変化に変換するセンサーで、遺伝子組換え技術によって培養細胞や動物体内に発現させることができる。したがって、発現した細胞や組織を蛍光顕微鏡で経時的に観察することで、目的タンパク質の働きを単一細胞の解像度で撮影することが可能となった。さらに多光子顕微鏡と呼ばれる、生体透過性が高い赤外線レーザーを蛍光励起に用いる特殊顕微鏡を使用することで、対象組織の表面だけではなく、内部も含めた三次元的な観察が可能となった。
    同技術を用いて、佐藤らは前所属の京都大学において、網膜の最深部に位置する桿体視細胞と錐体視細胞の間で、環状AMP依存性キナーゼ(PKA)活性調節が異なることを明らかにした。2021年からは、新たに導入される正立・倒立型多光子顕微鏡システムを用いて、国循内の蛍光生体イメージングの技術支援を担当する。
    図 多光子顕微鏡を用いた研究事例 光刺激に応答した網膜PKA活性変化を可視化
    図 多光子顕微鏡を用いた研究事例 光刺激に応答した網膜PKA活性変化を可視化

Ⅲ.今後の展望

MRIを用いる研究では齧歯類から中大動物への展開を目指し、臨床への橋渡し研究を加速する。多光子顕微鏡を用いる研究では、通常の蛍光顕微鏡や共焦点蛍光顕微鏡では見ることのできない組織深部の分子活性イメージングや、透明化技術を使った解剖学的な研究を予定している。これらの研究を通じて、循環器病態の理解の時空間的解像度を高めていく研究を目指す。

最終更新日:2021年10月01日

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