国立循環器病研究センター

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脳梗塞再発予防抗血小板薬併用療法の適切な切替時期を提案:国内多施設共同 CSPS.com試験サブ解析

国立循環器病研究センター(大阪府吹田市、理事長:大津欣也、略称:国循)の山口武典名誉総長を研究代表者とする国内多施設共同研究グループによる無作為化比較試験Cilostazol Stroke Prevention Study for Antiplatelet Combination (CSPS.com)のサブ解析として、豊田一則副院長らがシロスタゾールを含めた抗血小板薬併用療法の至適開始時期を検討しました。この研究成果は、American Academy of Neurology機関誌「Neurology」オンライン版に、令和4年1月24日に掲載されました。

 

CSPS.comとは
非心原性脳梗塞の再発予防には抗血小板薬が不可欠ですが、出血性合併症が悩みの種です。国産薬であるシロスタゾールは、その多面的作用で「出血を起こしにくい抗血小板薬」として知られ、国内で行われたCSPS試験(J Stroke Cerebrovasc Dis, 2000年)、CSPS2試験(Lancet Neurology, 2010年)によって、高い脳梗塞再発予防効果と安全性が示されました。
CSPS.com試験は、シロスタゾールを含めた血小板薬併用療法の効果を検討した無作為化非盲検並行群間比較試験です。発症後8~180 日の非心原性脳梗塞で、頚部または頭蓋内の動脈に50%以上の狭窄を認めるか、2つ以上の動脈硬化危険因子を有するかの条件を満たす1879例を、アスピリンあるいはクロピドグレルを用いた抗血小板薬単剤服用群と、この2剤のどちらかにシロスタゾールを併用する群に無作為に割り振りました。脳梗塞再発は併用群で発現率が約半分に有意に抑えられ、全ての脳卒中なども同様に併用群が有意に発現を抑えました。出血性合併症については、2群間で有意差を認めませんでした。本試験によって、ハイリスク非心原性脳梗塞患者にアスピリンまたはクロピドグレルに加えてシロスタゾールを長期併用することで、単剤治療に比べて脳梗塞再発予防効果が向上し、かつ安全性についても差がないことが示されました。この主解析結果は、2019年にLancet Neurology誌に掲載されました。

 

【サブ研究の概要】
今回のサブ研究では、シロスタゾールを含めた併用療法を、いつから始めるのが適切かを、検討しました。CSPS.com登録患者を、発症後8~14日まで(498例)、15~28日まで(467例)、29~180日まで(914例)に登録した3群に分けて、併用群と単剤群の効果を比べました。15~28日群(調整ハザード比 0.34, 95%信頼区間 0.12-0.95) と29~180日群(0.27, 0.12-0.63)で併用群が有意に主要評価項目である脳梗塞再発を抑止しているのに対して、8~14日群では併用群と単剤群とで有意差を認めませんでした(1.02, 0.51-2.04、図1)。安全性評価項目である大出血発現率は、発症日毎の3群のいずれも併用群と単剤群との有意差を認めませんでした。脳梗塞を発症して3週目以降にシロスタゾールを含めた併用療法を始めることの治療効果が示されました。

 

本研究の意義
非心原性脳梗塞の発症後早期から亜急性期(おおむね1か月以内)にかけては、主にアスピリンとクロピドグレルを用いた2剤併用が勧められています。しかし長期の抗血小板薬併用は、CSPS.comが発表されるまで、有効な治療が示されていませんでした。今回のサブ研究結果から、脳梗塞発症後早期にアスピリンとクロピドグレルの併用で治療を始め、3~4週目にシロスタゾールを含めた併用に切り替えることで、脳梗塞急性期から慢性期の切れ目ない抗血小板薬併用療法を続けることが出来ることが、示唆されました(図2)。
CSPS.comからは、他にもシロスタゾール・クロピドグレル併用に着目したサブ解析(東京都済生会中央病院 星野晴彦副院長ら、Stroke 2021;52:3430-9)や頭蓋内動脈狭窄患者におけるサブ解析(国際医療福祉大学 内山真一郎教授ら、J Am Heart Assoc. 2021;10:e022575)などの発表が相次ぎ、日本人や東アジア人に適した脳梗塞再発予防効果の新知見を多く発信しています。

 

■謝辞
今回の研究は、公益財団法人循環器病研究振興財団の助成を受けて行われました。

 

■発表論文情報
著者: Kazunori Toyoda、Katsuhiro Omae、Haruhiko Hoshino(東京都済生会中央病院)、Shinichiro Uchiyama(国際医療福祉大学)、Kazumi Kimura(日本医科大学)、Kaori Miwa、他、CSPS.com Trial Investigators
論文名: Association of timing for starting dual antiplatelet treatment with cilostazol and recurrent stroke: A CSPS.com trial post-hoc analysis
掲載誌: Neurology®, the medical journal of the American Academy of Neurology
(published online on January 24, 2022)

 

(図1) 脳梗塞再発の生存時間解析(イベント発現までの時間の解析)


(図2) 急性期抗血小板薬併用療法から慢性期抗血小板薬併用療法への至適切り替え時期の提案

最終更新日:2022年01月27日

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