宮本恵宏 医師

国立循環器病研究センター健康サポートセンターでの役割

 糖尿病や肥満症の治療経験とエビデンスに基づき、個人の特性に合った生活習慣指導を行います。また、動脈硬化性疾患の予防に適切なアドバイスをいたします。

宮本恵宏医師のプロフィール

 2000年に国循の動脈硬化・代謝内科(当時)のスタッフとして勤務して以来、心臓外科、血管外科の周術期の患者の血糖管理から糖尿病患者の運動療法を担当し、2010年から現在まで日本を代表する住民コホート研究である吹田研究の研究責任者として循環器疾患の予防の臨床及び研究を率いてきたのが宮本恵宏医師です。1989年京都大学医学部を卒業、静岡県立総合病院での臨床研修を経て、1993年から京都大学大学院にて動脈硬化に関するホルモンやたんぱく質の分子生物学研究を行った後、2000年に国立循環器病センターに勤務しました。2010年から予防健診部長、予防医学・疫学情報部長、2014年循環器病統合情報センター長、2019年から理事長特任補佐に就任。エビデンスに基づく予防法を患者さんにわかりやすく理解してもらうこと、楽しく良い生活習慣が遅れるアドバイスをすることをモットーにしています。病気を予防する心得は、「敵を知り己を知れば百戦危うからず」です。

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急増する認知症を循環器病の視点から解き明かす

高齢者の認知症においては、複数の原因が関与することがしばしばです。認知症の筆頭疾患であるアルツハイマー病にも高血圧や糖尿病などの生活習慣病に基づく血管病が深く関与しているということが知られています。そこで、私たちは、脳内の老廃物ともいえるβアミロイドやタウを過剰発現する動物モデルを用いてその病態を検証し、血管病の視点からアルツハイマー病などの認知症治療法を開発する研究を行っています。さらに、その知見を基に、物忘れで受診される患者さんに対して循環器病治療を強化するとともに、血管作動薬を脳梗塞やアルツハイマー病に応用する医師主導治験や数々の臨床研究を展開しています。

経歴

1989年 京都大学医学部医学科卒業
1990年 静岡県立総合病院内科研修
1997年 京都大学大学院医学研究科博士課程修了
1998年 京都専売病院 内科医員
2000年 国立循環器病センター 動脈硬化代謝内科医員
2005年 同 動脈硬化代謝内科医長
    同 臨床研究開発部医長
2010年 国立循環器病研究センター 予防健診部長
2012年 同 バイオバンク副バンク長(併任)
2014年 同 循環器統合情報センター長(併任)
2017年 同 ゲノム医療支援部長(併任)
2019年 同 理事長特任補佐
2020年 同 オープンイノベーションセンター長

専門医・認定医

肥満学会専門医
社会医学系専門医・指導医
日本疫学会認定上級疫学専門家

コラム 循環器病あれこれ 糖尿病は怖い?― 循環器病とのかかわり ―


糖尿病は「祟り」なのか

日本人で最も古い糖尿病患者さんとして記録に残っているのは、誰だかご存知ですか?〈図1〉の切手をご覧ください。1997年に神戸で開催された第15回国際糖尿病会議の記念切手です。六角形は血液中の糖分のコントロールに欠かせないホルモンであるインスリンの結晶を表し、その左上に描かれた人物は平安時代の摂政、藤原道長の肖像画です。
道長は、源氏物語の主人公・光源氏のモデルともいわれ、関白太政大臣として栄華を極めたとされていますが、実は糖尿病を患っており、狭心症も合併していたようです。


図1

同じ時代の人の日記には、道長の病状について「のどが乾いて、水を多量に飲んだ」とか「体が痩(や)せて、体力がなくなった」「背中には腫れ物ができた」「目が見えなくなった」などと書かれています。
これらは「多飲、多尿、多食、体重減少(三多一少)」〈図1〉といわれる糖尿病の特徴的な症状や、糖尿病性網膜症、さらに感染症(または、がん)などの合併症を表していると考えられます。道長自身の日記にも、胸痛に襲われたことが繰り返し記されており、狭心症という心臓の病気も合併していたようです。
現在のような医学知識がなかった当時のことですから、これらの症状は「祟(たた)り」によるものだと信じられていました。


循環器病あれこれ「メタボリックシンドローム その対処法」

 不健康な生活習慣への警告
「メタボ」という用語は、現代人の健康を考えるうえで、キーワードになってきました。「メタボ」を早期発見する特定健診(メタボ健診)・特定保健指導も4年前から始まって、一層、身近な用語になっています。 「メタボ」は「メタボリックシンドローム」(内臓脂肪症候群)の略称です。メタボと肥満症は同じと思っている方も少なくないようですが、必ずしもそうではありません。
メタボリックシンドロームは、食べ過ぎや運動不足など不健康な生活習慣が原因となり、健康状態の悪化を警告している状態なのです。
では、何を知らせているかというと、脳梗塞や心筋梗塞などの心臓や血管の病気や糖尿病の発症の危険性が高まっていますよ、という警告なのです。その道筋を〈図1〉にまとめました。
脳梗塞や心筋梗塞が発症すると、生命の危険をもたらす可能性が高まります。また、脳梗塞や心筋梗塞の後遺症や糖尿病の治療は、生活の質(QOL、クオリティ・オブ・ライフ)を低下させます。
メタボリックシンドロームの考え方は、糖尿病や脂質異常症、高血圧 を個別にとらえて治療するのではなく、生活習慣を改善することで、これらを一度に予防できるという立場から提唱されました。
日本内科学会など関連8学会が2005年にメタボリックシンドロームの診断基準を発表しました。それによると、腹囲(ウエスト)が基準以上であることを必須とし、さらに高血糖、脂質異常症、高血圧のうち、二つ以上ある場合が該当します。


循環器病あれこれ 〝攻めの予防〟─循環器ドックの話

心筋梗塞や脳卒中は、健康にみえる人を突然、襲い、命にかかわる状況が発生します。この生命の危機を逃れてもしばしば後遺障害が残り、ご本人だけでなく、ご家族にも大きな負担をかけることになります。これが循環器病の怖いところです。

循環器病をなくす―。そんな夢のようなことができるのでしょうか? 実はできるかもしれないのです。キーワードは「予防」、そして「ドック」です。「ドック」については後で詳しく説明します。
この冊子は、循環器病制圧をめざし、予防の視点を重視して進められている最近の動きを取り上げます。


検診と健診は違うの?

今回のテーマは「循環器ドック」ですが、その前に「検診」と「健診」の違いを説明します。
 「検診」は結核検診や肺がん検診、胃がん検診といったように、特定の病気があるかどうかを調べることをいいます。つまり「病気がある方」を見つけて、できるだけ早く治療をするために「検診」を行います。早期発見と早期治療が目的となります。
それに対し「健診」は病気になるのを予防する目的で、健康状態を調べることをいいます。つまり、血圧や血液中のコレステロール測定、腹囲の計測などをおこない、病気そのものというより、病気にかかる危険 性、つまりリスクの状態を調べます。
吹田スコアをご存じですか?
さて、皆さんは、ご自分が心筋梗塞を発症する危険性はどのくらいだと思いますか? 国立循環器病研究センターが続けている吹田研究(大阪府吹田市の住民を対象とした、循環器病の発症率やリスク因子を調査 する研究)から、最近、心筋梗塞などの冠動脈疾患の今後10年間の発症の危険度を予測するリスクスコア「吹田スコア」が開発されました。〈表2〉をご覧ください。
リスクスコアとは、糖尿病、高血圧、脂質異常症などのリスク因子の程度を点数化することで、病気を発症する確率を計算するものです。
リスクスコアとして有名なものに、米マサチューセッツ州フラミンガムで行われている住民健康調査にもとづいた「フラミンガムスコア」があります。これは10年間の心筋梗塞の発症を予測するスコアで、欧米でよく使われています。
しかし、日本人が心筋梗塞を発症する危険度は欧米人に比べて極めて低いため、日本人にはうまくあてはまらないものでした。また、最近、腎臓の働きが悪くなると心筋梗塞が起こりやすくなることが、わかって きました。
こうした点を踏まえて開発したのが今回の「吹田スコア」で、リスク因子を組み合わせて心筋梗塞などの冠動脈疾患の10年間の発症危険度を予測する、日本人向けのリスクスコアです。
各リスク因子に割り当てられた点数を足し合わせることで、10年間の冠動脈疾患発症確率を簡単に予測できるようになっています。〈表2〉にあるように、年齢、性別、喫煙、糖尿病、血圧、LDLコレステロール、HDLコレステロール、eGFRなど、健診や人間ドックでの検査結果から簡単にわかる項目のスコアを合計すれば、確率を予測することができます。

検査項目の中でeGFRは、なじみのない方が多いと思いますが、これは腎臓の機能を表す指標です。すでに説明しましたように、腎臓の働きが悪くなると心筋梗塞や脳卒中をおこす確率が高くなることがわかっています。そこで、吹田スコアではeGFRを組み入れて確率を予測できるようにしています。
eGFRは、性別、年齢、血清クレアチニン値で計算できるので、健診やドックの結果に含まれていることがありますが、もし、わからない場合はeGFRのスコアを0点として計算してください。


表2