猪原匡史 医師

国立循環器病研究センター健康サポートセンターでの役割

神経内科専門医,脳卒中専門医,認知症専門医の立場から,「本当は治せる認知症」の秘訣をアドバイスします.食事療法,運動療法,薬物療法などで早期から循環器病の治療を行って,永遠の健康脳を目指します.

猪原匡史医師のプロフィール

1995年京都大学医学部卒業.京大病院,西神戸医療センターで内科研修を行い,京都大学博士(医学)取得後,脳卒中/認知症の研究のために英国ニューカッスル大学に留学.帰国後に京大病院の神経内科病棟医長等を経て2013年より国立循環器病研究センター脳神経内科医長,2016年より同部長.患者さんの生涯健康脳を目指し,「循環器病予防が一番の認知症予防!」を合言葉に日々診療と研究に従事している.長所(兼短所)は,マルチタスク.趣味は我が家の猫と遊ぶこと.

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急増する認知症を循環器病の視点から解き明かす

高齢者の認知症においては,複数の原因が関与することがしばしばです.認知症の筆頭疾患であるアルツハイマー病にも高血圧や糖尿病などの生活習慣病に基づく血管病が深く関与しているということが知られています.そこで,私たちは,脳内の老廃物ともいえるβアミロイドやタウを過剰発現する動物モデルを用いてその病態を検証し,血管病の視点からアルツハイマー病などの認知症治療法を開発する研究を行っています.さらに,その知見を基に,物忘れで受診される患者さんに対して循環器病治療を強化するとともに,血管作動薬を脳梗塞やアルツハイマー病に応用する医師主導治験や数々の臨床研究を展開しています.

経歴

1995年 3月 京都大学医学部卒業
2003年 3月 京都大学博士(医学)
2006年 9月 英国ニューカッスル大学加齢医学研究所脳血管研究部門研究員
2008年 2月 京都大学医学研究科臨床神経学助教
2013年 4月 国立循環器病研究センター脳神経内科医長
2016年 9月 国立循環器病研究センター脳神経内科部長

専門医・認定医

日本神経学会専門医・指導医・代議員
日本内科学会総合内科専門医・指導医
米国内科学会上級会員(FACP)
米国心臓協会フェロー(FAHA)
日本脳卒中学会専門医・代議員
日本神経治療学会・評議員
日本脳循環代謝学会・評議員・幹事
日本認知症学会専門医・指導医・評議員
日本脳血管・認知症学会・評議員・幹事・理事
日本脳ドック学会・評議員
脳卒中治療ガイドライン2015(追補2019対応)作成委員
認知症疾患診療ガイドライン2017作成委員

テレビ、雑誌等で取り上げられた取材内容


サライ

国循直伝の「マインド食+かるしおレシピ」で認知症を予防【名医に聞く健康の秘訣】


日経Gooday

認知症を遠ざける食事の要諦


名医とつながる!たけしの家庭の医学

健康でも3人に1人は小さな脳出血? 脳出血の新しい原因と予防法が判明


TRI website

Repurposed drug could help clear toxic plaques in Alzheimer’s disease
Milk thistle extract could prevent cognitive decline in Alzheimer’s disease patients


コラム1  アルツハイマー病は,脳が感染と闘ったしるし!?

 アルツハイマー病の脳に蓄積する老廃物βアミロイドをご存知でしょうか? βアミロイドは神経細胞が自ら作り出し,脳にたまるとプラーク(老人斑)という「しみ」のような構造物となり,神経の働きを損うと言われています.どうしてそのような不要なタンパク質を神経細胞は自ら作り出してしまうのでしょうか? 記憶の形成に関わるシナプスの働きに必要なタンパク質であるという説もあるのですが,βアミロイドを作れないように遺伝子操作してもマウスはぴんぴんしていて,脳機能には何ら問題がありません.しかしながら,βアミロイドを十分に作り出せないと,致死量の細菌が脳に侵入した際に,細菌を十分に処理できない可能性がマウスや線虫を使った研究で報告されました.つまり,βアミロイドは細菌が侵入した際に脳を守るために仕掛けられた罠(除去装置)として働いていて,そういう非常事態でβアミロイドは必要となる可能性が示されたのです.βアミロイドが十分に作られるマウスでは細菌をプラークの中に封じ込めるようです.ということは,アルツハイマー病の患者さんに見られるプラークは,脳が感染と闘ったしるし,ということになるのかもしれません.
 他の研究では,アルツハイマー病の患者さんの脳にしばしばカビの痕跡が見つかることも報告されていますので,こうした「βアミロイドの感染防御説」は注目に値するでしょう.アルツハイマー病の患者さんが肺炎などの感染症で認知機能が悪化することはしばしば経験します.細菌との闘いには勝てても,その代償としてβアミロイドが増加してしまい認知症も悪化するということが起こっているのかもしれません.認知症に関わる我々も,感染症の予防という基本的な部分を大事にする必要があるという教訓と受け取っています.
 私たちは,このβアミロイドを循環器系の薬であるシロスタゾールを用いて脳から洗い流してしまうという戦略で現在治験を行っています.脳の血管が丈夫だと,細菌やカビが脳に入り込むこともないですし,認知症も予防できるのではないか,と考えて研究開発を進めています.

コラム2 はちみつは百薬の長?

 突然ですが,「はちみつ」の話題です.素朴な疑問として,はちみつはあんなに糖分を含んでいて甘いのに,どうして腐ったりカビが生えたりしないのだろう?
 その素朴な疑問に対する一つの回答は,「はちみつにはプロポリスが含まれているから」となります.プロポリスはラテン語で「都市を守る城壁」という意味で,ミツバチはこのプロポリスの抗菌作用を用いて細菌やカビなどの病原体の増殖を防いでいるのです.このプロポリスの主成分が植物性ポリフェノール:フラボノイドで,はちみつには多種多様なフラボノイドが含まれています.フラボノイドには抗炎症効果や抗酸化効果が知られていますから,脳卒中や認知症にも有効なのではないか,と期待されています.
 我々が研究しているフラボノイドが,はちみつにも含まれているジヒドロケルセチン(タキシフォリン)です.アルツハイマー病のモデルマウスに投与すると,認知機能がほぼ完全に正常化します.これは,我々が試してきたどのような化合物よりも強い効果であったことから,将来の臨床試験に向けて現在準備を進めています.実は身近に認知症予防の方策が潜んでいるのかもしれません! だとしたら,気付かせてくれたミツバチに感謝(!?)ですね.
 ただし,はちみつを摂取しすぎれば,血糖値が高くなって糖尿病になってしまうかもしれません.また,特定の虫歯菌が増殖すると脳出血を発症しやすくなるということも分かってきました.よって,はちみつ摂取はほどほどに,そしてオーラルケアも忘れずに.