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東日本大震災被災地における循環器病対策の提言(第2回)

国立循環器病研究センターでは、大震災に被災された地域に対する適正かつ効果的な医療支援を実施するため、平成23年4月19日から22日にかけて宮城県/山形県に調査チームを派遣しました。そして被災地の循環器病を「押さえ込む」という観点から、5月13日に第一回の対策提言を行ったところです。これは「高血圧症対策」と「循環器病診療体制の整備」についてのもので、詳細はHPをご覧下さい。

東日本大震災被災地における循環器病対策の提言(第1回)を参照

 

今回は以下の2項目につき、第二回の対策提言を行います。前回と同じく、すでに実施されているものについては、重複をご容赦ください。ここでの提示は対策の一部にすぎませんが、被災地での医療の一助となれば幸いです。

 

(1)糖尿病対策の推進

(2)保健衛生の観点でのケアについて

 

なお、センターでは、刻々と変化する被災地の医療の状況を把握すべく、新たな調査チームの派遣を計画しています。そして対策の提言を続ける予定です。また提言内容の実施について、循環器病のナショナルセンターとして必要な尽力と協力は惜しみません。

 

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(1)糖尿病対策の推進

【提言】

① 自己管理の推進:災害時の自己管理マニュアルの作成と配布

② ①では対応できない個別の事例に対する相談体制の構築

③ 被災地での糖尿病の診療体制の構築

 

糖尿病は、脳卒中や心筋梗塞など動脈硬化が原因となる循環器病の発症の大きなリスク要因です。また高血糖は免疫機能の低下を招くことから、感染症の危険性が高まります。不適切な管理による高血糖や低血糖は生命の危機にも直結します。このため被災地であっても適切な血糖管理が行われなければなりません。しかしながら、避難所の生活では、心理的・身体的ストレスが多く、これも血糖値の上昇につながります。

⇒ 糖尿病の解説冊子についてはこちらを参照:知っておきたい循環器病あれこれ(48)糖尿病と動脈硬化(前編)、(49)同(後編)

 

また被災地ではインスリンや内服薬が散逸または不足するといった問題にも直面します。実際、かかりつけ医療機関が被災して連絡がとれない、製剤や注射器・注射針の供給不足により在庫がなくなる、医療費の手持ちがなく医療機関にかかりづらいなどの例が、新聞やインターネットを介して多数報告されています。

 

そこで上記のリスクの低減のため、患者さんの避難生活におけるストレス緩和や水分・食事のとり方、運動および薬剤服用の指導、インスリンの使用と管理方法など、通常時とは違った視点での「災害時の糖尿病自己管理マニュアル」の作成と配布を提言します(提言①)。またインシュリンの入手困難など、自己管理のみでは対応できない個別の事例に対する相談体制の構築も必要でしょう(提言②)。このマニュアル作成は糖尿病学会などの学会の主導で、マニュアルの配布や相談体制の構築は行政や地域の主幹大学・中核病院などの主導で行われるべきと考えます。

 

被災地での糖尿病の診療体制について、即製された医療チームの中ではほとんどが糖尿病非専門であり、糖尿病専門医・専門看護師・薬剤師などより編成される「糖尿病巡回診療チーム」を避難所・救護所などへ派遣することも重要です(提言③)。その際、糖尿病の悪化や合併する心筋梗塞や心不全などを早期に発見するため、血液検査や超音波検査などの携帯型機器の持参が必要です。

 

糖尿病のような慢性疾患では被災後長期にわたる支援が必要となり、可能な限り固定したメンバーのグループが継続して診療に当たることが望まれます。これらのチームやグループの編成は学会が主導で行うべきでしょう。そして、その後徐々に、地元医師会中心の横の連携体制へ移行することが望ましいと考えます。

 

なお患者さん側の備えとして、治療内容や検査結果などの診療情報の保存や、(期限に注意しながら)薬剤の予備を分散保管しておくことも勧められます。具体的には、糖尿病連携手帳やお薬手帳(これらがあると派遣チームの診療が格段に容易になる)、インスリン製剤・経口薬(3日間は自力で対処できるように)を特別の袋に保管し、いざという時にすぐ持ち出せるように準備しておくことが必要です。また、緊急時のインスリン入手などの連絡先をあらかじめ知っておくことも重要です。

⇒ インスリン供給や医療に関する現地情報は日本糖尿病学会(http://www.jds.or.jp/)や日本糖尿病協会(http://www.nittokyo.or.jp/)のHPを参照

⇒ インスリン製剤の保管や取扱いに関しての問い合わせは、お手持ちの製剤の製造会社のフリーダイヤルへ

 

 

(2)保健衛生の観点でのケアについて

【提言】

① 保健衛生体制の整備と連携ラインの構築

② 循環器病抑制のためのヘルスケアの推進:運動の奨励、体重管理、禁煙、心のケア対策の推進

 

心のケアを含めて、保健衛生上の問題が避難所での循環器病の発症と悪化に繋がると考えられています。また、インフラが改善され自宅に戻った方は情報提供のルートや支援の輪から外れることがあり、在宅避難者の健康管理対策も必要です。このため保健衛生環境の改善が、被災地での循環器病を含む疾病の抑制には不可欠です。そこでまずそれを行う体制の整備と連携ラインの構築を提案します(提言①)。

 

東日本の被災地は元来脳卒中等の循環器病の発症率が高く、保健所や地域の医療機関による予防健診事業が重要な役割をはたしてきました。そこで、これらの予防健診に携わってきた体制~ラインと全国規模の団体(結核予防会など)の連携が1つの方法と考えます。

 

循環器病の抑制の観点からは、生活習慣病と呼ばれる高血圧、糖尿病、肥満、脂質異常症などの病気やそれらの複合であるメタボリックシンドロームの発生や悪化を抑えるようなヘルスケアが重要です(提言②)。また禁煙していた方が喫煙を再開したりすることがあります。ここでは運動の推奨と体重管理、禁煙指導、心のケア対策の推進について提言します。

⇒ 上記の解説冊子についてはこちらを参照:知っておきたい循環器病あれこれ(58)メタボリックシンドロームって何?、(39)いまなぜ肥満が問題なのか、(85)「脂質異常症」と言われたら

 

避難所生活が長くなり、環境の変化があると、体を動かすことが少なくなりがちです。適度の運動が糖尿病の治療に繋がることはよく知られていますが、高血圧症の発症や悪化の予防にも結び付くことは第一回提言でもお示ししました。国立循環器病研究センターの心臓リハビリテーション部門で循環器の予防のために用いている運動のガイドはこちらをご活用ください。柔軟体操(ストレッチ)、室内でできる運動、筋肉強化トレーニング(自加重(自分の体重)を利用した運動、セラバンド(運動用のラバーバンド)を用いた運動)からなっており、ご自分の体力や環境に合わせて利用していただけます。

 

少し意外な印象を受けられるかもしれませんが、被災地では不規則な食事やその内容の偏り、運動不足などで肥満が生じやすいことも知られています。この体重増加は、高血圧症や糖尿病の悪化に関係するだけでなく、深部静脈血栓症から肺動脈血栓塞栓症(いわゆるエコノミークラス症候群)に至る重篤な循環器病の原因にもなります。柔軟体操を毎日行なう、可能な時は少しでも余分に歩く、食事は腹八分目にする、体重を定期的に測るなど自己管理を行うことが奨められます。

⇒ 食事や嗜好品の解説冊子についてはこちらを参照:知っておきたい循環器病あれこれ(79)循環器病と気になる嗜好品、(82)循環器病の食事療法

⇒ 肺動脈血栓塞栓症についてはこちらを参照:知っておきたい循環器病あれこれ(46)急性肺血栓塞栓症の話、(78)肺塞栓症-その予防と治療

 

喫煙は心筋梗塞や肺がんを増やすことが知られています。震災のストレスが原因でせっかく禁煙をしていた方が喫煙を再開することが危惧されます。たばこやライター等の喫煙具を身の回りにおかない、たばこを吸う人のそばに近づかない等、喫煙のきっかけとなる環境を改善すること、自分は煙草をやめることを周囲の方に告げることなどが禁煙の助けとなります。

⇒ 禁煙の解説冊子についてはこちらを参照:知っておきたい循環器病あれこれ(18)たばこのやめ方、(65)まだ たばこを吸っているあなたへ

 

被災した方は様々な不安やストレスを抱えておられます。医療者は被災した方の不満や不安を少しでも時間をかけて聞くことが求められています。また心のケアの専門家との連携も図らなければなりません。電話相談などの相談窓口の活用も有効です。

⇒ 厚生労働省ホームページ(http://kokoro.mhlw.go.jp/etc/info0322.html)に東日本大震災心の相談電話 0120-111-916(フリーダイヤル)(日本精神衛生学会、日本臨床心理士会、東京臨床心理士会、日本電話相談学会)などの相談窓口案内あり

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(付記1)「循環器病あれこれ」の冊子の入手を希望される場合は財団法人 循環器病研究振興財団まで

 

(付記2)第一回提言で高血圧対策として挙げられた「減塩食」について

⇒ 「おいしい!」と評判の国立循環器病研究センター病院の減塩食の情報はこちら

最終更新日 2013年03月06日

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