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グレリン(Ghrelin)の発見とその新しい機能の解明
寒川 賢治 

研究所生化学部では1999年12月に新しい成長ホルモン分泌促進ペプチド、グレリンを発見、構造決定に成功した。また、2001年1月にグレリンが中枢性に強力に摂食を促進するという新しい機能を明らかにした。一方、グレリンは循環調節系にも機能し、最近臨床応用に向けての研究が開始されているので、これらの研究の概要を紹介したい。

●グレリンの発見(Nature 1999, 402: 656-660)
成長ホルモン(GH)の分泌は、これまで視床下部ホルモンであるGHRH(促進)とソマトスタチン(抑制)によって制御されていると考えられていた。一方、GHS受容体(GHS-R)と呼ばれるオーファン受容体を介した機序も存在することが示され、その内因性リガンドの探索が世界中の多くのグループにより永年行われていたが、これまで成功していなかった。

生化学部ではGHS-Rの安定発現細胞系を用い、細胞内Caイオン濃度の上昇活性を指標として、GHS-Rに特異的な内在性リガンドを胃組織から精製、構造決定することに成功した。この新規リガンドはアミノ酸28個からなり、3番目のセリン残基が脂肪酸(n-オクタン酸)でアシル化修飾された特徴的な構造のペプチドである。この新規ペプチドは強力なGH分泌促進活性を有し、3番セリンの脂肪酸修飾はその活性発現に必須である。我々はこのGH分泌促進ペプチドを“グレリン(ghrelin)”と名づけた(ghre は grow(成長)の印欧基語であること及び、GH-releasing peptideに因み)。GHの分泌は主に脳の視床下部により調節されていると考えられていたが、消化管である胃からのグレリンの発見により、新たな分泌調節系の存在が明らかになった。また、胃から分泌されたグレリンは、血中ホルモンとしてGH分泌の調節に機能することが解明された。

●グレリンは強力な摂食促進作用を持つペプチドである(Nature 2001, 409: 194-198)
一方ごく最近、グレリンが強力な摂食促進作用を持つことが明らかになった。グレリンは脳内の視床下部弓状核のニューロンでも産生され、またグレリン受容体は脳のさまざまな部位で発現しているので、GHの分泌刺激のほかにも種々の中枢生理機能にかかわっていると考えられていた。グレリンをラットの脳室内に投与すると、摂食が促進されて体重増加をもたらし、この効果は、遺伝的にGHを欠くラットにも見られる。逆にグレリン抗体を投与すると、摂食が強く抑制される。グレリンの脳室内投与後に、ニューロン活性化の指標となるFosタンパク質の発現が、神経ペプチドY(NPY)産生ニューロンやアグーチ関連タンパク質(AGRP)産生ニューロンを含む摂食制御に重要な複数の脳領域で起こる。NPYやAGRPに対する抗体を投与すると、グレリン誘発性の摂食行動は消失する。グレリンはNPY遺伝子の発現を増強し、レプチンで誘発される摂食低下を抑えることから、グレリンとレプチンは摂食行動に関して拮抗的に作用するといえる。このように、グレリンは摂食行動の生理的信号物質であり、成長ホルモンの分泌と摂食を増進して成長を制御する機能をもつと考えられる。グレリンの機能をさらに調べることにより、摂食の生理的機構の解明や摂食障害の治療へと結びつくであろう。

●グレリンは循環器系でも機能する
グレリンは循環器系にも作用することが最近明らかになっている。グレリンを心不全モデルラットに2週間投与を続けると、体重の増加や心機能の改善が認められる。また、グレリンの健常者への経静脈的投与は、血中GH濃度の上昇と共に血圧の低下(約10 mmHg)を生じ、さらに心拍数を変化させずに心係数、拍出量の増大が認められる。生体内分子であるグレリンがこのような生理作用を有することから、当センターの高度先駆的医療・研究専門委員会及び倫理委員会の承認のもとに、「グレリン投与による心機能不全改善及び、エネルギー代謝是正効果の臨床評価」の研究が心臓血管内科において最近開始されている。

    この話題についての問い合わせ先:
     研究所副所長 寒川 賢治 kangawa@ri.ncvc.go.jp

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