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10年戦略の重点分野

1.予防法のさらなる進歩と充実

概要:

循環器病の予防には(1)内臓肥満、糖尿病、高脂血症などの生活習慣病にならないようにする“習慣の是正”(1次予防)(2)生活習慣病になっても 高血圧症や動脈硬化などの循環器病になるのを防ぐ“進行防止”(2次予防)(3)循環器病になっても、再発や重症化(心筋梗塞や脳卒中など)を防ぐ“再発 防止”(3次予防)があり、それぞれの予防の仕方は異なります。

循環器病は、生活習慣が関係する複数の危険な症状である肥満、高血圧、高脂血症、高血糖が重なって発症することが多く、最近ではこれらの重複状態をメタボリックシンドロームと呼び、その危険性が非常に恐れられています。

「健康日本21」ではその危険性を避けるための“習慣の是正”を重視しています。私たちは、地域の伝統を尊びながら、しかも生活習慣の改善を各自が自ら進んで継続することができる具体的な予防法の開発を進めます。

現状:

高血圧、心筋梗塞、脳卒中など循環器病の現在の予防法は、欧米の疫学研究の成果に基づいて組み立てられたものです。危険因子(高血圧、糖尿病、高脂 血、喫煙など)と循環器病の関連は、欧米の成績と一見するとよく似ていますが、細かく比較すると、欧米と日本とでは人種の違いによる著しい差が認められます。

このことは、日本人から得られたエビデンスの蓄積がいかに重要であるかを示していますが、まだそのエビデンスは十分にはとらえられていません。

そのうえ、日本では高血圧患者が非常に多く、軽症の患者も含めると国民の半分近くに達しています。さらに糖尿病と脂質値の高い有病者は増え続けています。喫煙者は減少傾向にあるものの、まだ極めて多い状況です。ですから国民に対して実効性のある対策の開発、その普及と啓発がきわめて重要です。

計画:

年齢、性、地域性、職業などの循環器病の発症に及ぼす影響力について、日本人のエビデンスの質と量を高めるための研究を進めます。従来から知られている循環器病関連遺伝子や、それらと関連した生活習慣危険因子に加えて、新しい概念である「疾病修飾要因」(すでに発症している病気を複雑化させるさまざまな原因)を明らかにします。

そのために、ゲノム要因(単独の遺伝子多型や複雑な遺伝子多型の組み合わせなど)や生活習慣要因と、それぞれの病気の発症との詳細な因果関係の解明、データの詳細な解析をして、未知な発症原因の発見などに組織的に取り組みます。

また、国民を啓発する健康教育の実践と、大規模な予防検診によって、効果的指導法を迅速に開発します。

目標:

「健康フロンティア戦略」が掲げている生活習慣改善事項の目標達成に向けた健康教育・訓練を実施し、それに啓発されてできるだけ多くの国民が、自発的に生活習慣の改善に努力できるような社会をめざします。また、可能な限り、患者ごとに最適なテーラーメイド予防法の実現をめざします。

その結果として、生活習慣病患者が大幅に減り、循環器病の予防が顕著に進み、たとえ循環器病になってもその再発や重症化を防ぎ、予後改善が著しく加速されるような予防法の確立をめざします。

重点分野:予防法のさらなる進歩と充実
テーラーメイド予防法とゲノム情報
テーラーメイド予防法の実現には、個人ごとのゲノム情報が決め手になる
市民公開講演会
2004年11月には市民公開講演会が行われた

2.侵襲の少ない安全安心な革新的診断・治療法の開発

概要:

侵襲が少ないか、あるいはほとんどなく、安心して受けられ安全な診断と治療法の開発が望まれています。

心筋梗塞や脳卒中の診断・治療が遅れると致命的になることが多いのはよく知られています。ですから、その診断には、心臓や脳などの血管や循環や代謝の状態、神経機能の低下やその障害の程度などを、いわば、体内にあるがままの状態で、体外から短時間で迅速に撮れ、精度にも優れた画像(イメージング)として検査・診断できるようにすることが重要です。

また、血液や採取組織なども、迅速で精度に優れた病理検査による診断が不可欠です。内科的治療については、副作用が軽微か無しで有効な医薬品の開発 が欠かせません。外科的治療では、侵襲や後遺症が極力少ない的確な手術法が不可欠です。そのためには、内視鏡手術やロボット手術の技能と信頼性の向上も必 要です。

これらの臨床技術を一日も早く実現するには、基礎医科学での研究の充実とその応用研究が不可欠です。

現状:

ゲノムと病気との関連は、「疾患感受性」(病気の起こりやすさ)、「薬剤反応性」(薬の効きやすさ)、重症化など、さまざまな角度から研究が進んでいます。たんぱく質の分析手法の進歩によってプロテオーム解析が可能になり、さまざまな病気に特有なたんぱく質の解析は世界的な大競争になっています。

これらの進歩を受けて、検査用に採取された細胞、組織を対象とするだけでなく、体内のあるがままの臓器や組織を、分子イメージングや機能画像としてとらえるため、動物実験が進められています。残念ながらこれらの成果が循環器病に応用されるには、もう少し進んだ開発研究が必要です。

ロボット手術など治療法の革新は、欧米で活発に進められていますが、わが国ではそれらの機器が開発されておらず、高額の機器を輸入して使うしかない現状です。

計画:

循環器病の正確な診断や有効な治療を確立するために、病気の原因や経過と密接な関係のあるゲノムやプロテオームのさらなる研究、侵襲の少ない分子イメージング診断法の開発、コンピュータを用いた自動診断法の開発、難病の革新的な治療法の開発などを行います。

その研究領域は、遺伝子診断の具体化と実用化、安全な遺伝子治療の確立、ゲノム創薬、再生医療、人工臓器開発、バイオニック(超小型体内埋め込み治療)機器開発など豊富な研究テーマに満ちています。これらの開発研究には先進医工連携研究などの活発化が不可欠です。

さらに、新しい技術や産物を実用化するために臨床研究センターをわが国でも設立・充実させ、専門医・治験コーディネーター・生物統計家を育成することも必要です。

目標:

世界をリードするような革新的で信頼性の高い「低侵襲診断・治療法」を開発し、最大限の努力によって安全安心な循環器病医療の実現をめざします。それらの新規性の高い診断・治療法の信頼性を確保するために、必要かつ適切な前臨床試験を行って安全性を高め、続いて慎重に臨床試験をしたうえで、極力早期の臨床応用開始をめざします。

さらに、それら成果を評価するために、臨床データベースの作成と、エビデンスの蓄積・更新が継続的にできる体制整備をめざします。

その結果として、戦略目標である循環器病の予防・診断・治療・予後改善のための安全安心の医療の実現をめざします。

重点分野:侵襲の少ない安全安心な革新的診断・治療法の開発

多列CT

3.最先端研究成果の標準医療への効果的応用

概要:

21世紀はヒトゲノムの解読で幕を開けました。その後も医学生物学、生命科学(ライフサイエンス)などの学問的発展は、止まるところを知りません。循環器病克服には、これら最先端の研究成果を、効率よく、安全に、しかも迅速に、標準医療に持ち込むことが必要です。

循環器病の解決すべき課題を正確に学際分野の研究者に理解していただくことも欠かせません。そのためには、基礎生命学、理学、工学、医学、薬学、医療(看護学などを含む)との緊密な横断的な連携と、それら協同作業が円滑に行える環境の整備や、国民参加型の実用化促進のための産学官連携体制の確立など、重要な課題を患者の視点に立って解決していく必要があります。

現状:

ゲノム、プロテオーム、再生医学、バイオニック、ナノテクノロジー、ナノメディシンなどの国策的な大型研究から得られた基礎・基盤研究成果のいくつかは、すでに実用化研究に移っています。臨床研究の段階に入ったものの中には、有効な成果が得られているものもありますが、残念ながら実用化に至らず”死の谷”とも言われる中断に陥ってしまっているものもあります。

今後さらなら実用化研究が進み、臨床研究を経て、標準医療として確立することが期待されています。臨床研究を迅速に行う体制や、保険診療として評価する過程は、成果の実用化スピードを決める重要なプロセスです。しかし、専任研究者の不足、医療での試験施設の未整備などが大きな障害になっています。

計画:

基盤研究から臨床応用までの間に必要なトランスレーショナル研究は、ややもすると体制的にも経済的にも中断に陥りやすいので、それを避けるような基盤整備が必要です。

そのために、まず循環器病の予防・診断・治療に役立つと評価される革新的基礎基盤研究成果を的確に拾い上げる産学官連携体制を確立します。次いで、実用化研究と臨床試験施設の一体運用が可能な施設整備と人材養成をします。同時にバイオ(細胞や組織など)資源運用施設の整備や、関連情報のデータベース 化も進めます。

目標:

産学官連携体制を確立し、実用化研究と臨床試験施設の一体運用が可能な施設整備と人材養成をめざします。そのうえで、安全性、倫理性を評価する第三者機関を設立し、個人の尊厳に立脚した透明性、公開性、記録性、展開性のある研究プロセスとその成果のデータベース化をめざします。

トランスレーショナル研究に国民の理解が得られるよう、関連学会との連携のもとで、絶えず意見交換と成績の開示ができるような機関の設立をめざします。

その結果として、戦略目標である循環器病の予防・診断・治療・予後の大幅改善をめざします。

重点分野:最先端研究成果の標準医療への効果的応用

補助人工心臓1補助人工心臓2

進化する補助人工心臓
体外設置型の国立循環器病センターの「国循型」は制御が簡単で信頼性の高い空気圧駆動方式。血液ポンプ、制御駆動装置とも体外に設置するが、小型化され移動も簡単。

4.腕の良いハイレベル専門医療スタッフの養成

概要:

循環器病には、分秒を争って診断・治療をしなければ突然死にもつながる心筋梗塞、脳卒中、心室細動(不整脈の一種)、心不全などのような突発的に発症する病気の患者が多くいます。この点が、がんやその他の多くの病気(アレルギー疾患、膠原病、感染症など)とは大きく異なるところです。そのために循環器病、特に心臓病や脳血管病に特化した革新的な診断・治療法が開発されてきましたし、今後も急速に開発が進むと考えられます。

そのようにして開発されてくる革新的な診断・治療法が、迅速に医療現場で活用されるようにするには、レベルの高い卒後教育・研修・訓練を受けた医療スタッフ(医師、看護師、薬剤師、検査技師など)の充実と、適正な配置が必要です。そのための教育、研修、訓練などの体制整備も必要です。

現状:

循環器病だけでなく多くの病気に関して、わが国の専門医療職の育成は、大学やナショナルセンターとその関連医療機関で行われていますが、国際的な評価に耐える系統的なカリキュラムは存在していません。日本の医療水準は国際的に高いレベルにありながら、問題点も指摘されています。

患者対応の医療の水準を規程する最低限の要因は、医療者の経験量と、その過程での適切かつ厳しい教育・研修の存在です。循環器病克服の戦略を効果的に展開するために、いかにしてハイレベルの専門医療スタッフを養成するかという問題を早急に解決しなければなりません。

計画:

患者の視点に立った卒前・卒後教育システムの見直しと、実行可能なカリキュラムの標準化を、医療系大学・大学院および関連学会と連携して行います。

さらに、適切な医療行為を保証する臨床経験量の算出と、それを満たす医療修練病院を設定して、厳しい鍛錬の場を設けます。

そのもとで適切な評価体系を確立して、高度の専門医療の実現と、次に続く医療人を教育できる熟達した医療人を育成します。

目標:

患者満足度の高い医療を実現できる医療人の養成、国際的に普遍的な共感を得られる高度の医療教育施設の実現をめざします。

これが安全安心な医療の全国への展開につながり、戦略目標である循環器病による死亡率の減少と、予後改善が加速されることをめざします。

重点分野:腕の良いハイレベル専門医療スタッフの養成

5.必要な医療情報を得やすいインフラの整備

概要:

医療関係者も一般の国民も、必要に応じて、信頼でき、わかりやすい医療情報が、容易に得られるIT(情報技術:information technology)システムの実現を願っています。

それには、循環器病に関して信頼性の高い疫学や臨床情報を専門家間で十分に評価しながら蓄積し、循環器病の予防・診断・治療・リハビリなどの信頼できる情報や研究成果の総合データベースとして構築する必要があります。一般向けの情報は、わかりやすい表現での記載が不可欠です。

現状:

インターネット上でさまざまな医療情報がはんらんしており、それらの内容の信頼性が、欧米では非常に問題視されています。わが国でも学会を中心に医 療情報の信頼性が議論されるようになりました。医療機関のランキングや、名医に関する情報は、毎日のようにマスメディアで取り上げられています。

それらの情報の正確さ、信頼性はほとんど検討されてきませんでした。これからは、エビデンスに基づいた情報を提供することがますます重要になります。

例えば、病気の罹患率や、重症度の全国あるいは地域の統計などは、医療従事者にとって基礎になる情報です。こうした基礎情報を得るため、地域レベルで中小規模の疫学研究や発症登録が実施されるようになってきました。全国規模の調査としては「がん登録事業」が有名ですが、「循環器病登録」は長寿社会に欠かせない情報源なのに、残念ながらわが国ではまったく着手されていません。

計画:

国民が知りたいと思う医療情報の質と量を高めるために、関連学会、大学、医師会、国立高度専門医療センター(循環器病では、大阪府吹田市にある国立循環器病センター)が共同の作業班を作り、理念から詳細情報に至るまでの考え方をきちんと整理する必要があります。

情報の質と最新性を確保するための機構・施設の設置や人材の養成を行います。エビデンスの集積を、必要な時期に迅速、かつ網羅的に行うために、国際的に公認される調査、登録事業として計画を立案し、その全国的な普及、啓発を図って実施し、その結果の客観的な解析と報告ができる体制の整備を進めます。

また、第5次まで進められてきた循環器疾患基礎調査結果などを、患者ごとに最適なテーラーメイド予防法に生かすため、今後は生活習慣要因だけでなく、そのゲノム情報との因果関係を明らかにできるよう、さらにレベルの高い循環器疾患基礎調査を提案し、実行に結びつけます。

目標:

国際的な評価に耐える医療情報の提供体制の構築をめざします。その土台として科学的評価に耐えうる調査、疫学研究、臨床研究の普及をめざします。

この過程で、欧米人とアジアあるいは日本人特有の循環器病との関連を明らかにし、患者個人の特性に合った予防・診断・治療法からなるテーラーメイド医療の実現をめざします。

その結果として、医療関係者も国民もそれぞれが求める最新の医療情報を容易に入手でき、戦略目標である循環器病の予防・診断・治療・予後改善の加速をめざします。

重点分野:必要な医療情報を得やすいインフラの整備

6.切れ目のない長期的な病気管理体制

概要:

高血圧・糖尿病など慢性の生活習慣病の増加と、さまざまな病気にかかっている高齢者の増加を避けることはできません。ですから、最終目標として「循環器病患者数、死亡率の25%減少」と並んで、「病気を持ちながら身体活動度やQOLを良好に維持する」という長期的な病気管理(長期的疾病管理)の視点が重要です。

そのために、生活習慣病や循環器病の予防だけでなく、すでに循環器病になってしまった患者に対して、切れ目なく長期的に循環器病を管理することで、再発や重症化を予防し、人生の最後まで良好な身体活動度やQOLを維持して、寝たきりになるのを防ぐ医療体制が求められています。

これらと並行して医療に対する国民の信頼を高めることが、今後の医療に不可欠です。それには、

  1. 安全で安心が確保された医療システムが実現する
  2. 必要な時に的確な診療が行われる仕組み
  3. 提供される医療と患者の負担に合理性と透明性がある
  4. 最先端医療が国民に等しく開かれている
  5. 世界をリードする医療
  6. 健診、予防、救急医療、エビデンスを蓄積、分析し、リハビリテーション、療養、 介護が切れ目なく提供される
  7. あらゆる局面で個人の尊厳と個人情報の保護が合理的に行われている

などが必須の要件と考えます。

現状:

先進医療機関における急性期医療が強調されるあまり、生活習慣病から始まった慢性的な循環器病への対応は、再発や重症化の予防や、重症化後の介護の面に終始してきました。ですから、大多数の慢性循環器病患者の“生活の質”“健康度の増進”について正面切って取り組む体制がありませんでした。

また、循環器医学研究・医療の施設・地域間格差の大きいことが、メディアでも指摘されています。救急医療体制、高齢者医療、看護技術、心臓・脳卒中リハビリテーション、性差医療など診療面では切れ目のない医療の対応が必要です。合理的で、患者にとって利便性の高い医療が望まれます。

医療の安全・安心の確保は、国民の医療に対する信頼と密接に関係しますので、抜本的な改善策が望まれています。

計画:

慢性循環器病対策の充実として、最初に病気にかかった後の患者教育システム、地域における再発予防健診システム、地域連携心臓リハビリテーションシステム、心不全や高齢患者の在宅管理システム、循環器専門看護師による訪問管理システムなどの長期的疾病管理体制の整備を行います。

さらに、臨床研究の成果に身体活動度やQOLの向上を組み込み、研究の指標としての認識を深めます。また長期的循環器病管理に精通した医療者の養成を系統的に行います。さらに安全で安心な切れ目のない医療が効率よく実現できるよう研究組織を整備します。

これらの計画は、循環器医療が高齢化・慢性化していく中で早急に医療施設間の連携強化を進め、実現させます。

目標:

10年後の望ましい姿である「生き生きした健康長寿」とするため、現在の循環器病医療が抱えるさまざまな問題点を総合的に検討、分析し、それぞれをバランスよく解決します。これにより、生涯を通して切れ目のない、安全安心で、真に効率のよい循環器医療の実現をめざします。

それにより、転勤転職しても、どの医療機関にかかっても、自分の過去の健康状態や病気の経過などが、担当医に直ちにわかるような医療体制をめざします。

その結果として、戦略目標である循環器病の予防・診断・治療・予後改善が加速されることをめざします。

これら6重点分野のそれぞれの計画を並行して継続的に進め、それぞれの目標を同時に実現するよう努力し、循環器病克服10年戦略の最終目標である循環器病による死亡数、患者数、医療費、要介護者数の大幅削減の実現をめざします。これが、生き生き健康長寿社会の実現につながります。

重点分野:切れ目のない長期的な病気管理体制

最終更新日 2011年03月28日

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