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10年戦略はなぜ必要なのか

1.循環器病の克服

「循環器病」という名称は、ひとつの病気(疾患)を指しているのではありません。

心臓病、脳卒中、高血圧症など、生涯を通して休むことなく体内を通ってめぐり続ける血液の流れ(循環)を維持している心臓や血管(合わせて循環器)が異常になる病気をひとまとめにした総称です(脚注「循環器病に含まれる疾患」参照)。

循環器病は、個々の病名ごとに説明されると、お互いに関係がないように思われがちですが、生きてゆくには絶対に必要な「血液循環」に関する病気だとわかると、互いに共通性がある病気だということがよく理解できます。

厚生労働省の統計調査によると、心筋梗塞、心不全などの心臓病(心疾患)によるわが国の1年間の死亡数は約16万人。脳梗塞や、脳出血などの脳卒中(脳血管疾患)による年間の死亡数は、約13万人です。これらを含むすべての「循環器病」による年間死亡数は、約30万人にものぼり、年間総死亡者約100万人の3人に1人を占めています<図1>。この数値は、肺がん、胃がんなど、すべてのがんによる年間死亡数の約32万人(同じく年間総死亡者数の約3人に1人)とほぼ同数です。

循環器病にかかっている1日当たり平均患者数は、入院31万人、通院90万人です<図2、3>。がん患者は入院17万人、通院18万人ですから、循環器病患者はがん患者に比べ、入院で2倍弱、通院では実に5倍にもなります。

そのうえ、退院までの入院期間は、がんの平均35日に比べ、循環器病は58日と長く、中でも脳卒中では約100日と3倍も長くなっています。

国民医療費で見ても、循環器病は、がんの2倍近くかかっています<図4>。また、寝たきり介護を受けている人は40万人もいますが、その45%が循環器病患者で、うち9割が脳卒中患者です<図5>。

このように循環器病をひとまとめにしてながめると、死亡数や患者数が多い心臓病、脳卒中、高血圧症などを別々に見る以上に、それらの予防や対策の重要性が浮かび上がってきます。

わが国の高齢者人口は世界第1位の速さで増加し、同時に高齢の生活習慣病患者も急速に増えています。最近の調査報告によると、わが国の総人口の1/4強(3400万人)を占める60歳代以上の3人に2人が高血圧、3人に1人が高脂血、4人に1人が肥満、7人に1人が糖尿病で、その深刻さは明らかです。

循環器病に含まれる疾患

  • 図1

    死因別死亡数 死亡数ではがんが1位。2位は心臓病、3位が脳卒中。2位、3位を合わせた循環器病による死亡数はがんとほぼ同じ(厚生労働省人口動態統計より)
  • 図2

    入院患者数 循環器病の入院患者数は約31万人(うち脳卒中患者23万人、心臓病患者6万人、高血圧患者1万3千人)で、がんの約2倍(厚生労働省患者調査より)
  • 図3

    通院患者数 循環器病の通院患者数は約90万人(うち高血圧患者60万人、心臓病患者14万人、脳卒中患者12万人)(厚生労働省患者調査より)
  • 図4

    国民医療費 循環器病の医療費が1位で、5兆3千億円(うち高血圧1兆9千億円、脳卒中1兆7千億円、心臓病7千億円)。2位のがんの2兆7千億円の約2倍(厚生労働省国民医療費より)
  • 図5

    介護を必要とするほぼ2人に1人は循環器病患者。その7~8割は脳卒中患者(厚生労働省国民生活調査より)
  •  

    急患の搬送に欠かせない救急車
  • 集中治療室へ搬入される患者
  • 集中治療室入院中の患者に多職種の連携による管理が行われている
  • 循環器病を予防するには、糖尿病、高血圧症、高脂血症などの危険因子の管理が大切。そのための入院患者教育にも力を注いでいる
  • 予防検診部では一般市民を対象とした健康診断と予後追跡を通じて、循環器病の重要な危険因子を明らかにするとともに、禁煙、生活習慣改善などを指導している

しかも、高カロリー食品や糖質摂取の増加など食習慣の欧米化や、マイカーの普及に伴う運動不足が、今後ますます強まっていくことを考えると、循環器病と、その予備群である生活習慣病の克服に向けた賢い戦略の展開が、緊急の課題となるのは当然でしょう。幸い、国は生活習慣病が重複したメタボリックシンドロームに的を絞り、予防対策を本格的に始めると表明しています。

私たちは平成16年に厚生労働省の循環器病研究委託費「循環器病克服10ヵ年戦略」による研究班を発足させ、循環器病克服の有効な方策をさまざまな角度から検討してきました。循環器病関係の医学・医療の現状も、班員、研究協力者、国立循環器病センターの病院・研究所スタッフの協力を得て綿密に調査しました。

その結果、循環器病に関する基礎・基盤・医療応用研究、疾病の発症と転帰(病気の最終結果)に関する調査、情報発信、人材育成、体制整備などについて、長期の展望に立って解決すべき課題が多々存在することを痛切に知ることができました。

そこで、私たちは“生き生き健康長寿”を現実のものとするため「循環器病克服への10年戦略」にまとめました。わが国の将来の健康政策や医療問題に関係する方々、こうした問題に関心をお持ちの方々に読んでいただき、がん克服だけではなく、それと同等か、もしくはそれ以上に重要性のある循環器病の克服に、ご理解、ご協力をいただきたいと願っています。

  • 服薬指導 服薬指導は患者ごとに丁寧に行われる
  • 検討会 安全な医療のための検討会は組織横断的にたびたび開かれる

2.長期展望に立った戦略

生活習慣病、さらには循環器病の予防・診断・治療法は、近年の医学や理工学の研究成果によって大幅に進歩してきました。

しかし、現在、生活習慣病や循環器病のすべてが予防できる状況ではなく、またその診断・治療も必ずしも安全・安心ではなく、その有効性も完全ではありません。ですから、急性や慢性の循環器病にかかって、仕方なく緊急あるいは継続的な治療を受けたり、暗い気持ちで長期間、入院したり、不自由な寝たきり介護を受けたりしている人が非常に多いのが現状です。

循環器病による外来・入院患者数、寝たきりで介護を受けている人数や、その治療のための医療費は、現在、がんに比べて2倍から数倍も多いのですが、幸いなことに死亡数はがんに比べてやや少なくなっています。

その背景には、循環器病の原因や病的な状態に関する基礎と臨床医学の研究、特に、地域の住民を対象とした数十年にわたる地道な疫学研究(米国フラミンガム研究が世界的に有名、わが国では久山町研究、吹田研究など)、科学的に普遍性を持つことが確認された大規模臨床介入試験などの成果があります。

ただし、生活習慣病や薬剤の効果に関する研究の大半は欧米で行われたものであり、その結果が、生活環境や遺伝的な素因が異なる日本人にそのまま当てはまるのかという心配があります。

幸いなことに、欧米での成果は、わが国でもそのまま当てはまる場合が少なくありませんでした。その代表例が、急性期の循環器医療です。例えば、20年前に治療が困難とされた急性心筋梗塞や脳卒中の救命率と予後は、画像診断や臨床検査の進歩、薬剤や新しい治療技術の開発によって飛躍的に改善しました。

また、糖尿病、高血圧、高脂血症といった生活習慣病に有効な予防法や治療に使われる医薬品の開発が、大きな成功を収めてきたことも幸いでした。

こうした科学的研究の成果を踏まえ、近年、わが国では「健康日本21」「健康増進法」「健康フロンティア戦略」が次々と提案され、「循環器病の死亡数、患者数、要介護者数の2~3割減」が目標として掲げられています。

しかし、最近の報告によると、残念ながら達成目標項目のうち約3割の項目では、計画時より測定値が悪化していました。特に生活習慣病に関連する肥満、日常生活での歩数、飲酒などは、目標値から遠のいていることがわかりました。そこで、目標の達成に、具体的な長期戦略の策定が必要になっています。

すでに欧米の先進諸国は、医学・医療の標的を循環器病と、その予備群である生活習慣病の克服に向けて、国家的研究戦略を充実しつつあります。私たちは、循環器病の専門医、医療職員(看護師、薬剤師など)、あるいは研究者として国民の健康長寿を確かなものとするため、具体的で有効な方策を提唱する責務があると考え、今回、以下に述べるような「循環器病克服への10年戦略」を提案いたします。

生き生き健康長寿をめざそう!

リハビリに励む心臓病患者
リハビリに励む心臓病患者

主治医の依頼でリハビリ部門の担当医と理学療法士が運動を指導する

最終更新日 2011年03月28日

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