小児循環器科
研究活動の概要

研究活動の概要:小児循環器部では、胎児期から成人期までの先天性心疾患を中心とした循環器疾患の診療および研究を取り扱っています。

具体的には、胎児心臓病の診断と薬物治療、新生児期先天性心疾患患者の術前術後管理を中心とした集中治療、小児循環器疾患の心臓カテーテル検査およびカテーテル治療、川崎病遠隔期の諸問題に対する診療と研究、肺動脈性肺高血圧の診断と新しい治療、肥大型および拡張型心筋症の診断と治療、小児期慢性心不全に対する左室補助循環装置と心臓移植、小児期不整脈の診断と治療など、多岐にわたる小児循環器疾患の診療と臨床研究に従事しています。

また医工連携開発研究として、精密心臓レプリカの作成、各種シミュレーターの開発、光音響効果を応用した医療機器の開発等を行っています。

具体的には以下の研究を行っております。

2015年の主な研究成果
  1. 国立研究開発法人日本医療研究開発機構循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策実用化研究事業「先天性心疾患の長期予後の視点に基づいた介入のあり方に関する研究」
    先天性心疾患は出生約100人に1人の割合で発症する。かつては予後不良で小児科に限定された疾患群であったが、近年の医療技術の進歩により患者の約90%以上が小児期に救命されて成人期に到達するようになり、循環器内科においても看過できない診療領域になってきた。成人患者数は全国41万人に上るとされている。多くの患者は遺残症や続発症を抱え成人に達し、また成人期以降は生活習慣病の要素が加わることにより、これまでの医学で経験されなかった複雑な病態を呈するようになる。このような患者を小児期から成人期まで途絶えることなく円滑に診療して、その予後を改善するには、小児科から内科へのシームレスな医療連携の確立ととともに、生涯にわたる診療データベースの確立が不可欠である。これまでの先天性心疾患の患者データベースは、小児科、心臓外科、循環器内科により別なものであり、患者の小児期から成人期までの一貫した診療データベースは存在しなかった。今回の研究では、先天性心疾患に関連する複数の患者データベースをコンピューター内で突合させ、小児期から成人期までの一貫した全国レベルの患者データベースを構築する。具体的には、小児期の診療データである小児慢性特定疾患研究事業、成人期の診療データである成人先天性心疾患ネットワークデータ、DPCおよびレセプトデータなどを、匿名化された状態でprobabilistic matchingを使用した解析システムにより突合させ、患者が一致した症例で先天性心疾患の長期にわたる診療データベースを新たに構築する。

  2. 日本医療研究開発機構医療機器開発推進研究事業「超軟質精密心臓レプリカの作成による心臓外科手術トレーニングと個別化医療の確立に向けた研究」
    先天性心疾患はバリエーションが広く立体構造は複雑であり、その外科治療の成否は心臓の立体構造の正確な診断と、外科医へ的確な情報伝達にかかっている。近年MR、MSCTによる3次元画像診断が発達し、心臓だけでなく様々な医療分野で広く応用されるようになった。しかしモニター上に映し出される画像は見かけの3次元画像に過ぎず、実際の臓器の立体構造を忠実に表現している訳ではない。そのためあらゆる医療現場において、複雑な臓器の内部構造を忠実に再現し、切開縫合による手術シミュレーションが可能な軟質レプリカの開発が望まれてきた。我々は10年前より患者のMSCTから得られる 3次元画像情報をもとに、術前シミュレーター「精密心臓レプリカ」の開発を継続してきた。試作品製作会社とともに、レーザ光線を利用した精密3Dプリンター「光造形法」と、新しく開発された「真空注型法」と組み合わせて、心臓の内部構造を詳細に再現した「超軟質精密心臓レプリカ」を世界に先駆けて作成した。我々の「超軟質精密心臓レプリカ」は、2013年9月、日本政府主催の「第5回ものづくり日本大賞」の「内閣総理大臣賞」を受賞し、社会的にも大きく注目されている。2015年度は、全国の代表的な小児循環器施設との共同研究で、複雑先天性心疾患患者を中心に心臓レプリカを15例作成し、各施設の心臓外科医に術前シミュレーターとしての臨床評価を依頼する。今回の研究は、心臓レプリカが、先天性心疾患の正確な病態把握による診断情報を提供する医療機器に該当するかを判断する臨床試験に先立ち、その実施手順および評価項目が適切かどうかを判定する前段階試験(パイロットスタディ)として実施し、有効性が確認された。

  3. 厚生労働科学研究費補助金難治性疾患等政策研究事業「乳児特発性僧帽弁腱索断裂の病態解明と治療法の確立に関する総合的研究」
    乳児特発性僧帽弁腱索断裂とは、生来健全な乳児に突然の僧帽弁腱索断裂による急性呼吸循環不全が発症し、診断と早期の外科治療が遅れると死に至る疾患である。ほとんどが日本人で、生後4-6ヶ月に発症が集中するという特徴を持つ。基礎疾患として川崎病、抗SSA抗体、弁の粘液変成、ウイルス心内膜炎等などが示唆されるが詳細は不明である。乳児特発性僧帽弁腱索断裂の病因および臨床経過および臨床検査所見を詳細に調査し、本疾患の早期診断および的確な内科的および外科的治療法を早急に確立する。2015年は、新たに大阪大学附属微生物病研究所感染症メタゲノム解析研究分野教室において、ウイルスゲノムの検索を行った。現在までに明らかな原因となるウイルスは見いだされていない。

  4. 日本医療研究開発機構臨床研究・治験推進研究事業の医師主導治験に関する研究「治験の実施に関する研究[肺動脈ステント]」
    先天性心疾患のカテーテル治療件数は年間250例におよび国内最多であり、診療とともに新しいカテーテル治療法の開発研究を行っている。本治験は、医師指導治験による肺動脈ステントの導入に向けた研究で、分担研究として実施している。

  5. 小児用補助人工心臓の導入と小児心臓移植医療の確立:
    10歳未満の小児心臓移植が可能な3施設の一つとして、重症慢性心不全の小児を全国から紹介を受け移植登録を行うとともに、小児用補助人工心臓(Berlin Heart Excor)の治験施設として多くの患者を受け入れている。2015年度はBerlin Heartの保険償還に基づき、10歳以下の小児に対し、最も小さな10mlポンプを駆動さることができた。本症例は、2016年に入り日本国内での心臓移植にまでたどり着けた。

  6. 小児期肺動脈性肺高血圧の診療と新薬の治験:
    特発性、遺伝性および先天性心疾患に合併する肺動脈性肺高血圧に、エンドセリン受容体阻害薬、フォスフォジエステラーゼ5阻害薬、プロスタグランディン製剤による新薬のコンビネーション治療を行い、患者の予後改善に良好な結果を得ている。患者の遺伝子検査にも積極的取り組んでいる。

  7. 成人に達した川崎病患者の診療と臨床研究:
    川崎病は年間10,000人発症し、現在までの総患者数は200,000人を越え、その多くが成人に達するようになってきた。冠動脈瘤を遺残した成人患者に突然死や急性冠障害が全国で散見され、その予防と適切な治療について、多くの患者実績に基づいた臨床研究を行っている。

  8. 小児期不整脈の治療と遺伝子診断(厚生労働科学研究分担):
    小児QT延長症候群の遺伝子診断を行い、臨床像との関連を研究するとともに、先天性心疾患に合併する難治性不整脈の薬物治療、カテーテルアブレーション治療、ICD植え込みなど、国内のみならず国際的にも評価される臨床研究を行っている。

  9. 成人先天性心疾患患者の予後改善のための総合的研究:
    国内最多の成人先天性心疾患患者を擁する施設として、患者の予後改善のために、運動耐容能の評価、耐糖能異常の早期発見、妊娠および出産の適応判断、難治性不整脈治療、蛋白漏出性胃腸症の治療法の開発等を行い、世界に先駆けた詳細なデータを国際雑誌に論文として出している。

研究業績
  1. Fujimoto K, Sugiyama H, Yazaki S. Use of triple ultra-high-pressure balloons for obstructed right ventricular outflow conduits in adults can be safe and effective. Cardiology in the Young. 25, 731-736, 2015.
  2. Hoshino S, Tsuda E, Yamada O. Characteristics and Fate of Systemic Artery Aneurysm after Kawasaki Disease. The Journal of Pediatrics. 167, 108-U475, 2015.
  3. Miyazaki A, Sakaguchi H, Ohuchi H, Yasuda K, Tsujii N, Matsuoka M, Yamamoto T, Yazaki S, Tsuda E, Yamada O. The clinical characteristics of sudden cardiac arrest in asymptomatic patients with congenital heart disease. Heart and Vessels. 30, 70-80, 2015.
  4. Negishi J, Ohuchi H, Yasuda K, Miyazaki A, Norifumi N, Yamada O. Unscheduled Hospitalization in Adults with Congenital Heart Disease. Korean Circulation Journal. 45, 59-66, 2015.
  5. Ohuchi H, Negishi J, Hayama Y, Sasaki O, Taniguchi Y, Noritake K, Miyazaki A, Yamada O. Hyperuricemia reflects global Fontan pathophysiology and associates with morbidity and mortality in patients after the Fontan operation. International Journal of Cardiology. 184, 623-630, 2015.
  6. Ohuchi H, Yasuda K, Miyazaki A, Ono S, Hayama Y, Negishi J, Noritake K, Mizuno M, Yamada O. Prevalence and predictors of haemostatic complications in 412 Fontan patients: their relation to anticoagulation and haemodynamics. European Journal of Cardio-Thoracic Surgery. 47, 511-519, 2015.
  7. Tamaki W, Tsuda E, Takehiro I, Tanaka N, Fujieda M. Importance of evaluation of the right coronary artery by two-dimensional echocardiography in patients after Kawasaki disease: a right parasternal approach. Heart and Vessels. 30, 178-185, 2015.
  8. Toyota N, Miyazaki A, Sakaguchi H, Shimizu W, Ohuchi H. A high-risk patient with long-QT syndrome with no response to cardioselective beta-blockers. Heart and Vessels. 30, 687-691, 2015.
  9. Kitano M, Yazaki S, Kagisaki K. Ductal stenting using side-branch cell dilation for aortic coarctation in high-risk patients with hypoplastic left heart syndrome. Catheterization and Cardiovascular Interventions. Epub, , 2015.
  10. Sugiyama H, Tsuda E, Ohuchi H, Yamada O, Shiraishi I. Chronological changes in stenosis of translocated coronary arteries on angiography after the arterial switch operation in children with transposition of the great arteries: comparison of myocardial scintigraphy and angiographic findings. Cardiology in the young. Epub, , 2015.
  11. Hoshino S, Kitano M, Abe T, Yazaki S, Kagisaki K. Efficacy and safety of percutaneous transluminal balloon dilation to prevent progression of banding site stenosis after bilateral pulmonary artery banding. Catheterization and Cardiovascular Interventions. 85, E197-E202, 2015.
  12. Ide T, Miyoshi T, Kitano M, Kurosaki K, Yoshimatsu J. Fetal critical aortic stenosis with natural improvement of hydrops fetalis due to spontaneous relief of severe restrictive atrial communication. The journal of obstetrics and gynaecology research. 41, 1137-1140, 2015.
  13. Misumi Y, Hoashi T, Kagisaki K, Yazaki S, Kitano M, Kurosaki K, Shiraishi I,. The importance of hybrid stage I palliation for neonates with critical aortic stenosis and reduced left ventricular function. Pediatric cardiology. 36, 726-731, 2015.
  14. 白石 公. 成人先天性心疾患患者をどう管理するか . 臨床雑誌内科. 116, 1025-1026, 2015.
  15. 白石 公, 黒嵜 健一, 神崎 歩, 市川 肇. 心臓レプリカの医療への応用. 循環器病研究の進歩. 36, 57-64, 2015.
  16. 白石 公. 3Dプリンタの医療応用最前線 利活用法から作製法まで  II Clinical Application -目的別3Dプリンタの利活用法 6.循環器領域:小児心臓 . Innervision. 30, 57-59, 2015.
  17. 白石 公. 気づかないと致死的な乳児特発性僧帽弁腱索断裂. 小児内科. 47, 283-285, 2015.
  18. 白石 公. 先天性心疾患の発生 ①心臓発生と先天性心疾患、左右軸の決定と心房内臓錯位症候群. Fetal & Neonatal Medicine. 7, 5-6, 2015.
  19. 白石 公. 先天性心疾患の発生 ②心臓の発生、遺伝子の構造と異常. Fetal & Neonatal Medicine. 7, 95-96, 2015.
  20. 白石 公. 成人先天性心疾患の診療体制と今後. 成人先天性心疾患パーフェクトガイド. , 262-268, 2015.
  21. 白石 公. 循環器疾患の移行期医療. 今日の小児治療指針第16版, 14循環器疾患. , 545-546, 2015.
  22. 大内 秀雄. 知っておくべき手術-血行動態、画像診断、遠隔期問題、そして対策 -Fontan手術後 a.肝臓病変・代謝異常. 成人先天性心疾患パーフェクトガイド. , 62-68, 2015.
  23. 津田 悦子. 冠動脈バイパス術の長期予後. 小児科臨床ピクシス 川崎病のすべて. , 186-187, 2015.
  24. 津田 悦子. 川崎病既往患者の妊娠•分娩に関する諸問題. 小児科臨床ピクシス 川崎病のすべて. , 194-195, 2015.
  25. 三宅 啓. チアノーゼ. 小児科レジデントマニュアル第3版. , 28-32, 2015.
  26. 三宅 啓. 心臓超音波検査. 小児科レジデントマニュアル第3版. , 575-583, 2015.
  27. 白石 公. 軟質精密心臓レプリカの医療への応用. 人工臓器. 44, 49-52, 2015.
  28. 白石 公. 心臓発生の総論 –刺激伝導系を中心に. 心電図. 35, 53-60, 2015.