再生医療部
研究活動の概要

再生医療部は、間葉系幹細胞や骨髄・臍帯血幹細胞等の細胞移植による再生療法の開発、生理活性ペプチドのもつ心血管組織保護作用、脳循環障害による疾患(新生児脳症、脳梗塞、血管性認知症)に対する基礎および臨床試験実施を中心とした研究を行っている。細胞移植療法においては、間葉系幹細胞が胎児付属物である卵膜に多数存在することを証明し、各種難治性疾患に対する卵膜由来間葉系幹細胞による組織再生保護効果を元にした細胞治療開発に力を入れている。骨髄単核球においては、心原性脳梗塞患者に対する自己骨髄単核球細胞を用いた臨床試験の一般普及を目指した医療機器開発を行っている。また、ANP、アドレノメデュリン、グレリンなどの生理活性ペプチドを用いた組織保護・再生作用に関しては、新たな生理作用の発見や新規治療法の開発から、各種難治性疾患における臨床研究を行っている。さらに、オリゴ医薬品として注目されるsiRNAを用いた血管新生療法の開発、超音波技術を応用した新たな検査・治療法の開発等の研究も行っている。また、新生児脳症、脳梗塞、血管性認知症に対しては、細胞治療(臍帯血幹細胞)と既存薬リポジショニングを含めた基礎研究および臨床試験実施準備を行っている。

2014年の主な研究成果
  1. 胎児付属物由来間葉系幹細胞による組織再生保護作用評価とその臨床応用研究
  2. 出産後に通常廃棄される羊膜・絨毛膜・臍帯などの胎児付属物は間葉系幹細胞に富み、新しい再生医療材料として有用であると考えられる。我々は臨床検体から得られた羊膜から間葉系幹細胞の分離および培養法を確立し、当センターセルプロセシングセンターにおいてその細胞製剤化を進めた。同時に、共同研究をおこなっている大学病院において、急性GVHDおよびクローン病に対する医師主導治験の準備を行った。また、同種細胞移植において、羊膜由来間葉系幹細胞に組織再生保護効果があることを、下肢虚血・急性GVHDの各種難治性疾患モデル動物で確認した。

  3. 単核球分離デバイスの開発
  4. 細胞治療で多く用いられている骨髄単核球は、その分離にセルプロセシングセンターを有する限られた施設において調整されており、一般的な医療としては普及していないのが現状である。このような問題点を解消するため、安全かつ確実な、特殊な手技や知識を必要としない完全閉鎖系の幹細胞分離デバイスの開発を共同研究企業と進め、医療機器承認を目指し、医薬品医療機器総合機構の薬事戦略相談対面助言を受けた。

  5. アドレノメデュリンを用いた血管再生治療の臨床研究
  6. 内因性循環調節ペプチドのアドレノメデュリンは、血管拡張作用や血管新生作用、NO産生作用、血管内皮細胞や血管内皮前駆細胞のアポトーシス抑制作用を有する。重症下肢動脈閉塞症に対するアドレノメデュリン単独局所投与(総量0.02 µg/kg/min)による治療効果を検討するため、臨床研究「内科治療困難な下肢末梢動脈閉塞症例に対するアドレノメデュリンによる臨床症状改善効果の臨床評価」を当センター倫理委員会の承認を受け、実施中である。

  7. 新生児脳症に対する臍帯血幹細胞療法の前臨床試験と臨床試験
  8. 新生児脳梗塞マウスモデルにおいてヒト臍帯血CD34陽性細胞(造血幹細胞)静脈内投与が脳障害軽減効果を示すことを明らかにした(Tsuji et al., Neuroscience 2014)。さらに、静脈内投与された細胞の体内分布を明らかにし、安全性をモデルマウスと霊長類において確認した(Ohshima et al., Brain Dev in press)。
    新生児医療を専門とする国内の主要な施設と共同で、同症に対する自己臍帯血幹細胞療法の臨床試験を計画し、厚生労働省「ヒト幹細胞を用いる臨床研究に関する指針」に基づく審査を経て実施承認を得た。臨床試験を開始し、現在患者エントリー中である(NIH ClinicalTrials.gov:NCT02256618)。

  9. MCIに対するシロスタゾールの効果を調べる医師主導治験COMCID研究
  10. シロスタゾールがアミロイドβタンパク質高発現マウスにおいてアミロイドβの排泄を促進することを明らかにし(Maki T, et al. Ann Clin Trans Neurol 2014)、さらにシロスタゾールが軽症認知症患者の認知機能障害の進展を遅延させることを明らかにしたことから(Ihara M, et al. PLOS ONE 2014)、PMDAの対面助言を経て、医師主導治験を開始することとなった。現在センター内に治験調整事務局が発足し、センター内IRBにて継続審査中であり、平成27年6月の開始を見込んでいる。

  11. 新規血管性認知症モデルマウスの開発
  12. 超高齢社会において、脳卒中に関連する血管性認知症が社会問題化している。既存のモデルよりも優れた新規モデルの開発が、新たな治療法の開発につながると考えられることから、マウスの新規動物モデルの開発を行い、いくつかの論文発表を行った(Hattori Y, et al. PLOS ONE 2014, Neurosci Lett 2014, J Neurosci, in press)。血管性認知症モデルに関する海外からの問い合わせが多く、平成27年度中のイギリス、カナダ、オーストラリアからの研究者の短期受け入れの調整中である。

研究業績
  1. Hattori Y, Kitamura A, Nagatsuka K and Ihara M. A Novel Mouse Model of Ischemic Carotid Artery Disease. PLOS ONE. 9, , 2014.
  2. Washida K, Ihara M, Tachibana H, Sekiguchi K, Kowa H, Kanda F and Toda T. Association of the ASCO Classification with the Executive Function Subscores of the Montreal Cognitive Assessment in Patients with Postischemic Stroke. Journal of Stroke & Cerebrovascular Diseases. 23, 2250-2255, 2014.
  3. Ihara M, Nishino M, Taguchi A, Yamamoto Y, Hattori Y, Saito S, Takahashi Y, Tsuji M, Kasahara Y, Takata Y and Okada M. Cilostazol Add-On Therapy in Patients with Mild Dementia Receiving Donepezil: A Retrospective Study. PLOS ONE. 9, , 2014.
  4. Tsuji M, Taguchi A, Ohshima M, Kasahara Y, Sato Y, Tsuda H, Otani K, Yamahara K, Ihara M, Harada-Shiba M, Ikeda T and Matsuyama T. EFFECTS OF INTRAVENOUS ADMINISTRATION OF UMBILICAL CORD BLOOD CD34(+) CELLS IN A MOUSE MODEL OF NEONATAL STROKE. Neuroscience. 263, 148-158, 2014.
  5. Nanri K, Mitoma H, Ihara M, Tanaka N, Taguchi T, Takeguchi M, Ishiko T and Mizusawa H. Gluten Ataxia in Japan. Cerebellum. 13, 623-627, 2014.
  6. Hattori Y, Kitamura A, Tsuji M, Nagatsuka K and Ihara M. Motor and cognitive impairment in a mouse model of ischemic carotid artery disease. Neuroscience Letters. 581, 1-6, 2014.
  7. Watanabe H, Ono M, Kimura H, Matsumura K, Yoshimura M, Iikuni S, Okamoto Y, Ihara M, Takahashi R and Saji H. Novel radioiodinated 1,3,4-oxadiazole derivatives with improved in vivo properties for SPECT imaging of beta-amyloid plaques. Medchemcomm. 5, 82-85, 2014.
  8. Seo JH, Maki T, Maeda M, Miyamoto N, Liang AC, Hayakawa K, Pham LDD, Suwa F, Taguchi A, Matsuyama T, Ihara M, Kim KW, Lo EH and Arai K. Oligodendrocyte Precursor Cells Support Blood-Brain Barrier Integrity via TGF-beta Signaling. PLOS ONE. 9, , 2014.
  9. Hattori Y, Okamoto Y, Maki T, Yamamoto Y, Oishi N, Yamahara K, Nagatsuka K, Takahashi R, Kalaria RN, Fukuyama H, Kinoshita M and Ihara M. Silent Information Regulator 2 Homolog 1 Counters Cerebral Hypoperfusion Injury by Deacetylating Endothelial Nitric Oxide Synthase. Stroke. 45, 3403-3411, 2014.
  10. Craggs LJL, Yamamoto Y, Ihara M, Fenwick R, Burke M, Oakley AE, Roeber S, Duering M, Kretzschmar H and Kalaria RN. White matter pathology and disconnection in the frontal lobe in cerebral autosomal dominant arteriopathy with subcortical infarcts and leukoencephalopathy (CADASIL). Neuropathology and Applied Neurobiology. 40, 591-602, 2014.