画像診断医学部
研究活動の概要

画像診断医学部では、○先進診断機器開発研究室、○放射性同位元素診断研究室、○心血管撮像研究室、○画像解析研究室の四つの研究室の基に、PET、SPECTおよびMRIなどの最先端画像診断機器を使った新しい撮像技術と解析手法にかかる開発研究を行っています。限りなく無侵襲的なイメージング法の開発と実用化、さらに実際の医療への貢献を目指し、国際研究ネットワークを基に国内外の企業とも連携して研究を進めています。これらのイメージング技術のいくつかは日常の臨床や、多施設臨床研究などに利用されています。

2013年の主な研究成果

当該研究部が開発した迅速15O-ガスPET検査システムは、迅速化検査に対応可能な一連の放射性15O-標識ガスを連続で全自動標識合成し供給する装置の開発に加え、PET画像の定量性確保にかかる画像再構成の手法、放射性ガスを吸入しながら撮像した時間とともに変化する動態画像から必要な機能画像を計算する数理解析理論の開発とプログラムの実用化、必要な生理量を一括管理する周辺機器を一元管理するシステムからなる。全自動15O-標識ガス標識供給装置においては、クラスIII高度医療機器としての薬事承認を得るに至ったす。これに基づき、本年度には日常の診療の中で実施できるようになり、その有用性が明らかになった。特に、従来技術では本検査が適用できないとされた病態、すなわち血液体積が大きく上昇している動静脈奇形や動静脈漏の症例において病巣周囲の診断が可能になったことが明らかになった。また、週術期における過渡的な病態もとらえられるようになったことで、今後本検査の貢献はさらに高まることが予想される。本検査の利用を阻害する重要な限界要因であった動脈無採血については、これを排除する技術がほぼ完成し、その精度検証がなされた。検査時間の大幅な短縮化がなされていることと併せて、実際の診療の中で有用である。今後、多くの領域で有効活用されることが期待される。

実験小動物(ラット)においても15O-ガス吸入に基づく脳循環代謝量のイメージングが可能になり、PETとMRIとのハイブリッド 撮像法が整備された。脳梗塞モデルラット、および低酸素脳虚血モデル仔ラットにおいて、急性期から慢性期に至る病態の変化をとらえることができ、脳梗塞病態の中でも、活性化ミクログリアやマクロファージを参照した炎症イメージングと合わせて新しい治療法の開発に貢献することが期待される。

我々が開発したSPECTの画像を正確に再構成するプログラムを基に脳血行力学的虚血の重症度を診断する検査実施が構築され、国内で流通しているほぼ全ての装置データに適用できるようになった。脳を模倣するファントムをもとに、12の装置の間でデータの再現性を確認し、また3施設において作成された健常者データベースでは装置に依存した差を検出することはなかった。本検査は国内で200を超える臨床病院で利用され、年間13,000件の臨床検査に貢献するようになった。欧州多施設研究では、6施設において72例の健常者を対象に得られたドーパミントランスポータイメージング剤のSPECTデータに適用され、他の2つの画像再構成プログラムと比べて高い精度と施設間再現性を有していることが確認された。また外傷性脳挫傷の患者のうち高次脳機能障害を有する症例において、中枢性ベンゾジアゼピン受容体結合能の脳内分布が前頭葉内側面の帯状回領域で低下していることが観察された。モヤモヤ病に基づく高次脳機能障害の存在を画像で示す診断技術としての新しいデータ解析体系の構築が開始された。

小動物用7T MRI装置を使った小動物のイメージング環境の構築を行い、マウス、ラット、ウサギを対象にして(1)動脈硬化プラークのイメージング、(2)肝臓の脂肪量計測、(3)体脂肪量計測、(4)心臓の形態及び運動機能評価、(5)MR angiographyによる血管の形態の評価、(6)新規MRI用造影剤の開発と評価、(7)血栓のイメージング、(8)脳のファンクショナルアナトミーの解明、(9)脳梗塞の形態及び質的評価、(10)PET及びSPECT画像とMRI画像の重ね合わせなどのためのデータ収集法、データ解析法、及びハードウェアの整備がなされ、これらの研究プロジェクトを開始するに至った。RI管理区域内にPET,SPECTに並んでMRI装置が設置される施設は世界的にも希であり、核医学的手法とMRIを融合した分子イメージング技術を駆使した新しい次元での病態理解と新規治療法の有効性を評価する研究が可能になった。

小動物SPECT装置において、高解像度、高感度かつ定量撮像可能なデータ収集条件および画像化プログラムを整備した。また、放射性化合物の動脈血液中の動態を最小限の採血操作で推定する手法も確立した。これによりマウスやラットの生理機能を限りなく非侵襲で定量評価できるSPECTイメージングシステムが構築され、応用研究が可能となった。細胞トラッキングのためのレポーター遺伝子のイメージングに成功し、移植した細胞の残存をイメージング評価できることが示唆された。また、酸化LDL(oxLDL)を放射性ヨウ素で標識した化合物である123I-oxLDLを新規に作製し、小動物用SPECT/CTおよび7T MRIを用いてマウス静脈内投与後の体内動態を測定した。CTおよびMRIガイド下、全身放射能分布の明瞭な描出を達成した。Ex vivoオートラジオグラフィーや臓器摘出法による定量結果と照合した結果、123I-oxLDLは、所期の通り動脈硬化プラークや肝臓、脾臓に高集積するとともに、全く新しい知見として褐色脂肪へと選択的に取り込まれることが明らかとなった。oxLDLの体内動態と、特に褐色脂肪への取り込みは、循環器疾患の予防においても重要な知見であると考えられ、継続して検証を進める。

研究業績
  1. Iida H, Hori Y, Ishida K, Imabayashi E, Matsuda H, Takahashi M, Maruno H, Yamamoto A, Koshino K, Enmi J, Iguchi S, Moriguchi T, Kawashima H and Zeniya T. Three-dimensional brain phantom containing bone and grey matter structures with a realistic head contour. ANNALS OF NUCLEAR MEDICINE,27,25-36,2013.
  2. Kaku Y, Iihara K, Nakajima N, Kataoka H, Fukushima K, Iida H and Hashimoto N. The Leptomeningeal Ivy Sign on Fluid-Attenuated Inversion Recovery Images in Moyamoya Disease: Positron Emission Tomography Study. CEREBROVASCULAR DISEASES,36,19-25,2013.
  3. Kudomi N, Maeda Y, Sasakawa Y, Monden T, Yamamoto Y, Kawai N, Iida H and Nishiyama Y. Imaging of the appearance time of cerebral blood using [15O]H2O PET for the computation of correct CBF. EJNMMI Res,3,41,2013.
  4. Kudomi N, Maeda Y, Yamamoto Y, Nishiyama Y and Iida H. Computation of cerebral blood volume from single PET scan with sequential administration of O-15(2) and H-2 O-15. EUROPEAN JOURNAL OF NUCLEAR MEDICINE AND MOLECULAR IMAGING,40,S144,2013.
  5. Yamanami M, Ishibashi-Ueda H, Yamamoto A, Iida H, Watanabe T, Kanda K, Yaku H and Nakayama Y. Implantation study of small-caliber biotube vascular grafts in a rat model. JOURNAL OF ARTIFICIAL ORGANS,16,59-65,2013.
  6. Kudomi N, Hirano Y, Koshino K, Hayashi T, Watabe H, Fukushima K, Moriwaki H, Teramoto N, Iihara K and Iida H. Rapid quantitative CBF and CMRO2 measurements from a single PET scan with sequential administration of dual O-15-labeled tracers. JOURNAL OF CEREBRAL BLOOD FLOW AND METABOLISM,33,440-448,2013.
  7. Shah NJ, Oros-Peusquens AM, Arrubla J, Zhang K, Warbrick T, Mauler J, Vahedipour K, Romanzetti S, Felder J, Celik A, Rota-Kops E, Iida H, Langen KJ, Herzog H and Neuner I. Advances in multimodal neuroimaging: Hybrid MR-PET and MR-PET-EEG at 3 T and 9.4 T. JOURNAL OF MAGNETIC RESONANCE,229,101-115,2013.
  8. Iguchi S, Imai H, Hori Y, Nakajima J, Kimura A and Fujiwara H. Direct imaging of hyperpolarized (129) Xe alveolar gas uptake in a mouse model of emphysema. Magn Reson Med,70,207-215,2013.
  9. Iguchi S, Hori Y, Moriguchi T, Morita N, Yamamoto A, Koshino K, Kawashima H, Zeniya T, Enmi J and Iida H. Verification of a semi-automated MRI-guided technique for non-invasive determination of the arterial input function in O-15-labeled gaseous PET. NUCLEAR INSTRUMENTS & METHODS IN PHYSICS RESEARCH SECTION A-ACCELERATORS SPECTROMETERS DETECTORS AND ASSOCIATED EQUIPMENT,702,111-113,2013.
  10. Shah NJ, Mauler J, Neuner I, Oros-Peusquens AM, Romanzetti S, Vahedipour K, Felder J, Celik A, Iida H, Langen KJ and Herzog H. Advances in hybrid MR-PET at 3 T and 9.4 T in humans. NUCLEAR INSTRUMENTS & METHODS IN PHYSICS RESEARCH SECTION A-ACCELERATORS SPECTROMETERS DETECTORS AND ASSOCIATED EQUIPMENT,702,16-21,2013.
  11. Kawai T, Kawashima H, Kuge Y and Saji H. Synthesis and evaluation of C-11-labeled naphthalene derivative as a novel non-peptidergic probe for the beta-secretase (BACE1) imaging in Alzheimer's disease brain. NUCLEAR MEDICINE AND BIOLOGY,40,705-709,2013.
  12. Sunaguchi N, Yuasa T, Hyodo K and Zeniya T. Fluorescent x-ray computed tomography using the pinhole effect for biomedical applications. OPTICS COMMUNICATIONS,297,210-214,2013.
  13. 飯田 秀博, 越野 一博. 【決定版 病棟必携!カラーで診る心血管疾患の画像診断マニュアル 疾患別でみるモダリティの基礎知識とテクニック】 (第2章)虚血性心疾患の画像診断 虚血性心疾患で使用するモダリティ RI PET・SPECT.. CIRCULATION Up-to-Date,8,85-92,2013.
  14. 井口 智史, 森口 哲朗, 堀 祐樹, 越野 一博, 山本 明秀, 森田 奈緒美, 河嶋 秀和, 圓見 純一郎, 銭谷 勉, 飯田 秀博. O-15ガスPETにおける動脈採血を排除した入力関数推定法の妥当性. 脳循環代謝,24,33-37,2013.