病態代謝部
研究活動の概要

病態代謝部においては循環器疾患の克服を目的として、重篤な循環器疾患発症の基礎となる脂質代謝異常の発症機序や病態生理を解明すること、さらに動脈硬化症発症や進展へのメカニズムを解明し、有効な治療法の開発に関わる研究を、循環器および代謝内科学、病理学、分子生物学、材料工学、薬学、生化学、細胞生物学などの知識および技術を用いて実施している。

部長の斯波は、日本有数のリピッドクリニックを主宰する中、FHへテロ接合体450例、ホモ接合体14例をフォローし、その臨床データを用いて我が国で初めてのFHのガイドラインを作成 (Harada-Shiba et al. JAT 2012)するなど、日本におけるFHの診療基盤整備に大きな役割を果たしている。

一方、重症高コレステロール血症や動脈硬化症に対する新しい治療法の開発を目的として、大阪大学薬学部との共同研究により新規架橋型人工核酸医薬の開発を行なっている。PCSK9遺伝子、アポリポプロテインB(ApoB)、アポリポプロテインCⅢ(アポCⅢ)を標的遺伝子として、疾患モデル動物を用いた治療実験を行い、シード化合物の選択に成功している。

これらのプロジェクトについては、厚生労働省革新的医薬品医療機器再生医療実用化促進事業に選ばれ、日本における核酸医薬のガイダンス作成のモデルケースとして、臨床応用に向けた前臨床試験を計画中である。

また、動脈硬化症発症の基礎研究としては、脂質代謝と炎症、動脈硬化症の関連のキーとなる分子としてニューロメジンU(NMU)の研究を行っている。NMU-KOマウスに脂質異常症の遺伝的負荷をかけるため、ApoE-KOマウスとのダブルKOマウスを作製し、動脈硬化の発症、進展の解析を行っている。

2013年の主な研究成果
  1. 家族性高コレステロール血症(FH)の臨床研究(1)遺伝子解析
    当センターにてフォロー中のFHヘテロ接合体295例の遺伝子解析を行い、49.5%にLDLR遺伝子変異、7.4%にPCSK9遺伝子変異、3.7%にLDLRとPCSK9の両変異、39.3%にいずれの変異も認めなかった。LDLRとPCSK9の両方に変異を認める群で、未治療時LDL-C値が高値、アキレス腱厚が厚いこと、冠動脈疾患(CAD)の頻度が顕著に高い(86%)こと、薬剤に抵抗姓であることが示された。LDLR変異については、C317S変異においてCAD発症率が高いことが示された。また、2例についてARH遺伝子の変異を認めた。
  2. 家族性高コレステロール血症(FH)の臨床研究(2)LDLアフェレシス治療効果のメカニズム解析
    FHホモ接合体に用いられているLDLアフェレシス治療により除去される物質についてプロテオーム技術による網羅的解析を行い、凝固、炎症、血栓関連蛋白質、及び接着因子など多くの蛋白質が同定されたことを報告した(Yuasa Y, et al. Ther Apher Dial,2014)。また、高コレステロール血症の標的分子として注目されているPCSK9がLDLアフェレシスにより除去されていることも明らかになった。
  3. 新規架橋型人工核酸(2’4’-BNA/LNA)搭載アンチセンス医薬の開発(1)PCSK9
    PCSK9を標的とした2’4’-BNA/LNA搭載アンチセンスの臨床応用を目的として、本年度は約100種類の配列を持ったアンチセンスを作製し、in vitroおよびin vivo評価を経て、著明な治療効果を示し、毒性を示さない最適配列の選択に成功した。臨床応用に向けて、大きな進歩と言える。
  4. 新規架橋型人工核酸(2’4’-BNA/LNA)搭載アンチセンス医薬の開発(2)ApoCⅢ
    ApoCⅢを標的とした2’4’-BNA/LNA搭載アンチセンスを高脂血症モデルマウスに投与し、肝臓でのApoCⅢmRNA発現量が80%、血清ApoCⅢタンパク量が60%、TG値が60%低下することを報告した(Yamamoto T, et al, Eur J Pharmacol, 2014)。
  5. 動脈硬化モデルマウスにおける動脈硬化のイメージング
    薬効評価や遺伝子改変マウスの病態解析のために、動脈硬化モデルマウスを用いて、動脈硬化のイメージングと病理組織学的解析を行っている。本年度は、Gadofluorine Mを用いたMRIやエコーにおいて、動脈硬化病変の検出に成功した。
  6. 遺伝子改変マウスを用いたニューロメジンU(NMU)の脂質代謝及び炎症との関わりに関する研究
    NMUの動脈硬化発症や進展における役割を明らかにするため、ApoE/NMU-KO マウスを作製し、高脂肪食負荷した ApoE/NMU-KOマウスの解析を行った。ApoE/NMU-KO マウスは、ApoE-KO マウスに対し、血清総コレステロール値は2倍という非常に高値を示したが、en face による大動脈の評価及び大動脈洞における組織切片の解析においてプラーク面積に差は認められなかった。
研究業績
  1. Shibata MA, Shibata E, Morimoto J and Harada-Shiba M. Therapy with siRNA for Vegf-c but Not for Vegf-d Suppresses Wide-spectrum Organ Metastasis in an Immunocompetent Xenograft Model of Metastatic Mammary Cancer. ANTICANCER RESEARCH. 33, 4237-4247, 2013.
  2. Kobayashi K, Nagata E, Sasaki K, Harada-Shiba M, Kojo S and Kikuzaki H. Increase in Secretory Sphingomyelinase Activity and Specific Ceramides in the Aorta of Apolipoprotein E Knockout Mice during Aging. BIOLOGICAL & PHARMACEUTICAL BULLETIN. 36, 1192-1196, 2013.
  3. Makino H and M Harada-Shiba. New aspects of statin therapy. Immunology, Endocrine and Metabolic Agents in Medical Chemistry. 13, 97-106, 2013.
  4. Terasaki F, Morita H, Harada-Shiba M, Ohta N, Otsuka K, Nogi S, Miyamura M, Suzuki S, Ito T, Shimomura H, Katsumata T, Miyamoto Y and Ishizaka N. Familial Hypercholesterolemia with Multiple Large Tendinous Xanthomas and Advanced coronary Artery Atherosclerosis. Intern Med. 52, 577-581, 2013.
  5. 稲垣 暢也, 西村 理明, 綿田 裕孝, 斯波 真理子. 座談会 新規DPP-4阻害薬アナグリプチンの総合力を探る!. Medical Tribune. 46, 16-17, 2013.
  6. 斯波 真理子. 動脈硬化を意識した身体所見のとり方. medicina. 50, 962-966, 2013.
  7. 斯波 真理子. 今、動脈硬化はこう予防する 家族性高コレステロール血症. Medio. 30, 108-113, 2013.
  8. 横山信治, 斯波 真理子. 【動脈硬化のすべて】 家族性高コレステロール血症の治療 . 医学のあゆみ. 245, 1353-1359, 2013.
  9. 斯波 真理子. 家族性高コレステロール血症:PCSK9. 医学のあゆみ 動脈硬化のすべて. 245, 1343-1346, 2013.
  10. 斯波 真理子. 日常臨床に潜む家族性高コレステロール血症~ストロングスタチンの位置付け~. 岡崎医報. 332, 3, 2013.
  11. 斯波 真理子. 「コレステロールを下げなくても良い」は真か?-FHの知見をふまえて. 大阪府保険医協会研究会テキスト. , 1-7, 2013.
  12. 長谷川 夕希子, 斯波 真理子. 妊娠・出産・授乳を契機に内頸動脈内膜肥厚の著明な増悪をきたした家族性高コレステロール血症ホモ接合体の一例. 動脈硬化症例Q&A  News and Scope 2013. 5, 7-9, 2013.
  13. 斯波 真理子. 家族性高コレステロール血症の診断基準と治療. 動脈硬化予防. 11, 38-43, 2013.
  14. 斯波 真理子, 山本 剛史, 小比賀 聡. PCSK9(proprotein convertase subtilisin/kexin type 9)阻害による高LDLコレステロール血症の治療. 内分泌・糖尿病・代謝内科. 37, 441-447, 2013.
  15. 槇野 久士, 斯波 真理子. FHにおけるLDLアフェレシス-最近の知見-. 日本アフェレシス学会雑誌. 32, 43-48, 2013.
  16. 山本 剛史, 小比賀 聡, 斯波 真理子. 脂質異常症 -基礎・臨床研究の最新知見- PCSK9阻害薬. 日本臨牀. 71, 603-608, 2013.
  17. 斯波 真理子. 脂質異常症 -基礎・臨床研究の最新知見- 常染色体劣性遺伝性高コレステロール血症. 日本臨牀. 71, 207-210, 2013.
  18. 斯波 真理子, 山本 剛史, 小比賀 聡. 脂質異常症 -基礎・臨床研究の最新知見- PCSK9遺伝子変異による高コレステロール血症(ADH). 日本臨牀. 71, 203-206, 2013.
  19. 斯波 真理子. 高コレステロール血症の分子疫学と分子標的治療. Annual Review 糖尿病・代謝・内分泌. , 131-136, 2013.