薬剤部
研究活動の概要

近年の医療において薬物療法の果たす役割は大きく、特に医薬品の適正使用は、治療に影響を与える重要な要因である。このような中、薬剤部では、医薬品の適正使用の推進を目的とし、調剤、製剤、医薬品管理等の基本的な薬剤業務に加え、薬剤管理指導、医薬品情報管理、副作用モニタリング、薬物血中濃度モニタリング等の業務を行ってきた。当センターの基本方針に従い、薬剤部における研究活動は、医薬品の適正使用や薬剤管理指導に加え、循環器用薬等の薬物動態や薬剤疫学に焦点を合わせた研究を中心に行っている。

具体的には以下のテーマに基づいた研究を実施している。

  1. 抗不整脈薬、免疫抑制剤、抗菌薬の薬物動態に関する研究
  2. 薬物血中濃度モニタリング(TDM)の臨床的有用性に関する研究
  3. 循環器用薬に関する薬剤疫学研究
  4. 副作用や相互作用に関する調査研究
  5. 薬剤業務に関連する調査研究
2013年の主な研究成果
  • バンコマイシンを投与された101例を対象に、バンコマイシン体内動態と心機能の関連について検討を行った。その結果、心不全患者は非心不全患者と比較し、バンコマイシンのクリアランスが減少することが認められた。心不全患者へのバンコマイシン投与の際、腎機能に加えて心機能も考慮に入れることで、より迅速かつ体系的な投与計画の立案が可能になると考えられた。
  • 急性大動脈解離の緊急手術後に急性腎機能障害、Candida血症を合併した患者に高用量Liposomal Amphotericin B(L-AMB)を長期投与した経験を報告した。血液培養よりCandida albicansが検出され、Micafunginを投与するも、熱発およびCRP高値が継続したため、L-AMBを投与したところ血液培養が陰性化した。腎機能障害の悪化は認めなかったが、低カリウム血症が認められた。腎機能障害時においても、L-AMBの長期投与は可能であるが、低カリウム血症等の副作用モニタリングを十分に行う必要があると考えられた。
  • バンコマイシンを投与された105症例を対象に、体内動態と炎症所見の関連について検討を行った。その結果、SIRS criteriaの上昇に伴いバンコマイシンのクリアランスが増大する傾向が認められた。この現象にはARC – augmented renal clearanceが影響していると推測され、ARC発現の可能性がある場合には、より注意深い血中濃度モニタリングが必要であると考えられた。
  • 腸溶性製剤と制酸緩衝製剤である低用量アスピリン(LDA)に関係する胃腸障害のリスクを、時系列およびprescription sequence symmetry analysisを用いて、国立循環器病研究センターの処方オーダのデータ解析を行った。2001年1月から2010年12月までの期間において、LDA の腸溶性製剤と制酸緩衝製剤について処方の頻度の変化を確認するために分析を行ったところ、プロトンポンプインヒビターの使用頻度は腸溶性製剤使用患者のほうが制酸緩衝製剤使用患者よりも高頻度であった(17.6%、11%)。
研究業績
  1. Shimamoto Y, Fukuda T, Tominari S, Fukumoto K, Ueno K, Dong M, Tanaka K, Shirasaka T and Komori K. Decreased vancomycin clearance in patients with congestive heart failure. EUROPEAN JOURNAL OF CLINICAL PHARMACOLOGY. 69, 449-457, 2013.
  2. Shimamoto Y, Fukuda T, Tanaka K, Komori K and Sadamitsu D. Systemic inflammatory response syndrome criteria and vancomycin dose requirement in patients with sepsis. INTENSIVE CARE MEDICINE. 39, 1247-1252, 2013.
  3. Hachiken H, Murai A, Wada K, Kuwahara T, Hosomi K and Takada M. Difference between the frequencies of antisecretory drug prescriptions in users of buffered vs. enteric-coated low-dose aspirin therapies. INTERNATIONAL JOURNAL OF CLINICAL PHARMACOLOGY AND THERAPEUTICS. 51, 807-815, 2013.
  4. 中蔵 伊知郎, 山下 大輔, 堀部 明美, 和田 恭一, 老田 章, 小原 延章, 佐田 誠. 術後急性腎機能障害患者に対しての高用量Liposomal Amphotericin B 長期使用経験. 日本臨床救急医学会雑誌. 1, 21-24, 2013.
  5. 和田 恭一. 抗血栓療法における薬学管理のポイント―薬物相互作用を中心に―. 薬局. 64, 346-352, 2013.
  6. 老田 章. 国立循環器病研究センターにおける病棟薬剤業務実施加算への取り組み. 薬事新報. 2779, 9-14, 2013.