糖尿病・代謝内科
研究活動の概要

糖尿病、肥満、脂質代謝異常、高血圧などは心筋梗塞、脳卒中、末梢動脈疾患などの心血管病の発症および再発の重大なリスク病態である。さらに、肥満(内臓脂肪蓄積)、耐糖能障害、軽症糖尿病、脂質代謝異常、高血圧が一個人に重積するメタボリックシンドロームは2型糖尿病と心血管病をもたらすリスク病態である。近年、2型糖尿病とメタボリックシンドロームをもたらす基盤病態として内臓脂肪蓄積とインスリン抵抗性が重要な役割を演ずることが明らかにされ、これらの病態に対する介入は糖尿病に合併する心血管病の発症、再発予防に重要である。

糖尿病・代謝内科は、これらの認識を踏まえて、糖尿病、肥満、高脂血症などの生活習慣病の診療、チーム医療としての生活習慣指導、早期動脈硬化の評価、糖尿病血管合併症の評価をおこなってきた。さらに家族性高コレステロール血症などハイリスクの脂質異常症の専門治療を行い、高頻度に合併する動脈硬化症の早期発見と進展予防に努めており、その中から新たなリスクマーカーの探索を行っている。

これらの背景をふまえ今後、1)病診連携を介してメタボリックシンドローム、糖尿病などの生活習慣病のための診療を展開するなかで心血管病発症予防への新しい取りくみの有用性を検討していく。2)心血管病の既往を有するハイリスク2型糖尿病患者に対する再発予防効果に関する多施設前向き臨床研究を推進する。また近年糖尿病薬は非常な進歩を遂げており、これら新規糖尿病治療薬の動脈硬化抑制作用に関する研究を行うことにより糖尿病性大血管障害予防におけるこれらの薬剤の意義を明らかにしていく。糖尿病において重要な食事療法、運動療法の効果的な介入法や大血管症予防における意義を明らかにしていく3)厚生労働省を中心とした国の心血管病(循環器病)の予防を目標とした、糖尿病とメタボリックシンドローム対策に循環器病センター全体として取り組む。4)心血管病のリスクの一つである肥満症の効果的な介入法、病態の評価法を確立する研究を行っていく。

2013年の主な研究成果
  • 糖尿病患者の心不全発症とHbA1cとの関係性を明らかにした。
  • 持効型インスリンを用いた治療においてグラルギンとデテミルの血管内皮機能改善への効果を検証する臨床研究を行い、これらを用いた血糖コントロールが動脈硬化予防に有用でるが、一方でインスリンの種類によりその効果が異なる可能性があることを明らかにした。
  • インクレチン関連薬であるDPP-4阻害剤の糖尿病血管合併症進展に与える影響の臨床研究を開始し、DPP-4阻害薬は、血糖低下作用に加えて、血管内皮機能の改善、脂質プロファイルの改善が期待できることを明らかにした。
  • 糖尿病患者における運動療法継続に関与する因子の解析を行い、性差や糖尿病の精神的負担度などに差があることを明らかにした。現在、更に詳しい解析を行っている。

現在進めている研究

  • 前年から引き続き2型糖尿病患者を対象とした血管合併症抑制のための強化療法と従来治療との多施設共同ランダム化並行群間比較試験(Japan Diabetes Outcome Intervention Trial J-DOIT3)をすすめた。
  • 研究所病態代謝部との共同研究において多施設の家族性高コレステロール血症を対象とした前向き観察研究に参加し、これを進めた。
  • 糖尿病患者におけるインクレチンの分泌動態に関する研究を開始しこれをすすめた
  • 心臓血管外科との共同研究でインクレチン関連薬の周術期血糖コントロールにおける有用性の検討に関する臨床研究を引き続き行っている。
  • 糖尿病性自律神経障害と心血管病発症との関連を明らかにする臨床研究を引き続き行っている。
  • 糖尿病患者におけるグレリンと自律神経機能に関する臨床研究を維持している。
  • どのような食事指導が最も効果的であるかは明らかにするため、中等度炭水化物制限食の有用性に関して栄養管理室との共同研究を開始した。
  • 代謝内科データベースを用いた糖尿病患者の腎機能低下に関与する因子の解明の後ろ向き研究を開始した。
  • 末期腎不全患者におけるレパグリニドの有用性に関する研究を開始し、これを進めた。
研究業績
  1. Mao YJ, Tokudome T, Kishimoto I, Otani K, Hosoda H, Nagai C, Minamino N, Miyazato M and Kangawa K. Hexarelin Treatment in Male Ghrelin Knockout Mice after Myocardial Infarction. ENDOCRINOLOGY. 154,3847-3854,2013.
  2. Mao YJ, Tokudome T, Otani K, Kishimoto I, Miyazato M and Kangawa K. Excessive Sympathoactivation and Deteriorated Heart Function After Myocardial Infarction in Male Ghrelin Knockout Mice. ENDOCRINOLOGY. 154,1854-1863,2013.
  3. Yamashita T, Makino H, Nakatani R, Ohata Y, Miyamoto Y and Kishimoto I. Renal Insufficiency without Albuminuria is Associated with Peripheral Artery Atherosclerosis and Lipid Metabolism Disorders in Patients with Type 2 Diabetes. JOURNAL OF ATHEROSCLEROSIS AND THROMBOSIS. 20,790-797,2013.
  4. 岸本 一郎, 岩本 紀之. その他の脂質異常症. 最新内分泌代謝学. ,603-606,2013.
  5. 岸本 一郎, 岩本 紀之. HDL代謝とその異常. 最新内分泌代謝学. ,596-598,2013.
  6. 岸本 一郎, 泰江 慎太郎. 高トリグリセリド血症. 最新内分泌代謝学. ,599-602,2013.
  7. 岸本 一郎, 大畑 洋子. 脂質異常症の概念・分類. 最新内分泌代謝学. ,579-584,2013.
  8. 岸本 一郎, 徳留 健. ナトリウム利尿ペプチド系. 最新内分泌代謝学. ,41-44,2013.
  9. 岸本 一郎, 槇野 久士. 低血糖とインスリノーマ. 最新内分泌代謝学. ,544-548,2013.
  10. 岸本 一郎, 芦田 康宏, 大森 洋子, 西 洋壽, 萩原 泰子, 藤本 年朗, 槇野 久士, 大畑 洋子, 岩根 光子, 飯沼 恵子, 前田 和恵, 佐藤 滋. 大阪府豊能医療圏における糖尿病実態と連携手帳所持率調査. 豊能医療圏糖尿病地域連携クリティカルパス検討会議  公開日2013年9月7日. 糖尿病. 56,543-550,2013.