周産期・婦人科
研究活動の概要

周産期・婦人科では2013年、母体心臓病合併妊娠の管理を年間約100例、母体の脳血管障害合併妊娠の管理を約20例、胎児心臓病に関する妊娠、出産の管理を年間約70例行った。この比率は例年と大きく変わることは無かった。研究はこの診療の３つの柱を中心に進められている。

胎児心疾患に関しては2013年には循環器病研究開発費研究(25-4-4)として「北摂地域における先天性心疾患スクリーニングと診断のシステム構築の研究」を開始した。この研究の趣旨を広報する意味も含めて超音波セミナーを開催した。そこでは小児循環器部、臨床検査部の協力のもと、周辺地域のみならず大阪全域の総合病院産婦人科、産科開業医によびかけ、医師、超音波検査技師、看護師の胎児心臓病診断の技術向上のための教育的セミナーへの参加が得られた。本研究では地域の有床診療所で行なわれる胎児心臓病スクリーニングの改善が最も重要であり、研究参加者の発掘は重要性が高い。胎児および新生児心エコーで診断がつきにくい画像を近隣施設よりリアルタイムで国循に転送し、診断の手助けをすることにより胎児の出生後の治療スケジュールを決め、予後の改善を改善させる試みを開始している。これまでの当センターへの紹介症例を中心にViewPal(GE)を用いて疾患別のライブラリーを構築した。このライブラリーは今後のスクリーニング精度向上のための教育の素材作成に有用であり、来年度からの教育セミナーでの使用が可能なように準備を進めている。以上の研究に平行して新たな胎児心機能評価指標の開発も行なった。胎内での状況を評価するために臍帯血、羊水中のANP、BNPの動態を評価する研究を行った。現在までに50例の測定が終わり、重症先天性心疾患における胎内での心不全評価への応用への基礎データが集積された。また、来年度に開始する予定である胎児心臓MRIによる胎児心機能の評価の試みの準備が進められた。

次に脳血管障害合併妊娠としては、もやもや病、血管腫、脳動静脈奇形合併妊娠などの脳出血のハイリスク妊娠の管理を通じてそのこれまでの症例の再評価を行なった。もやもや病合併妊娠については現在投稿中である。また、日本産科婦人科学会周産期委員会の事業として日本脳神経外科学会と共同で行なわれた妊娠に関連する脳血管障害の調査に参加した。そのデータから2006年の調査からの変化を解析した。

母体心疾患に関してはこれまでに進められてきた周産期心筋症の前向き登録事業が2013年も進められている。また、当センターでの過去の症例からデータベースを構築した。

2013年の主な研究成果
  1. 胎児頻脈性不整脈に関する多施設共同研究（厚生労働科学研究補助金「科学的根拠に基づく胎児治療法の臨床応用に関する研究（左合班）」）の中核施設としてプロトコールを作成し2010年から5年間の前向き研究を継続中である。
  2. 妊娠に関連する脳血管障害の全国調査の事務局として本邦での全体像の把握や治療戦略の策定に貢献した。
  3. 周産期心筋症に関する前向き登録をはじめ、病態解明の研究を進めている。
  4. 母体心疾患合併妊娠の研究成果を2011年にはマルファン症候群、周産期心筋症、2012年にはさらに大動脈炎症候群、2013年には機械弁合併妊娠について論文発表した。
  5. 日本妊娠高血圧学会の新しい診療ガイドラインの策定に参加、協力した。
  6. 当科で行なってきた胎児羊水腔胸腔シャント術をまとめ、論文発表した。
研究業績
  1. Katsuragi S, Kamiya C, Yamanaka K, Neki R, Miyoshi T, Iwanaga N, Horiuchi C, Tanaka H, Yoshimatsu J, Niwa K and Ikeda T. Risk factors for maternal and fetal outcome in pregnancy complicated by Ebstein anomaly. AMERICAN JOURNAL OF OBSTETRICS AND GYNECOLOGY. 209, ,2013.
  2. Katsuragi S, Neki R, Yamanaka K, Kamiya C, Miyoshi T, Kobayashi Y, Horiuchi C, Suzuki R, Toyoda K, Iihara K, Minematsu K, Ikeda T and Yoshimatsu J. Maternal outcomes in stroke during pregnancy and puerperium. AMERICAN JOURNAL OF OBSTETRICS AND GYNECOLOGY. 208,S286,2013.
  3. Kamiya CA. Pregnancy-Related Acute Myocardial Infarction in Japan. CIRCULATION JOURNAL. 77,606-607,2013.
  4. Miyoshi T, Kamiya CA, Katsuragi S, Ueda H, Kobayashi Y, Horiuchi C, Yamanaka K, Neki R, Yoshimatsu J, Ikeda T, Yamada Y, Okamura H, Noda T and Shimizu W. Safety and Efficacy of Implantable Cardioverter-Defibrillator During Pregnancy and After Delivery. CIRCULATION JOURNAL. 77,1166-1170,2013.
  5. Ohuchi H, Tanabe Y, Kamiya C, Noritake K, Yasuda K, Miyazaki A, Ikeda T and Yamada O. Cardiopulmonary Variables During Exercise Predict Pregnancy Outcome in Women With Congenital Heart Disease. CIRCULATION JOURNAL. 77,470-476,2013.
  6. Miyoshi T, Katsuragi S, Ikeda T, Horiuchi C, Kawasaki K, Kamiya CA, Sasaki Y, Osato K, Neki R and Yoshimatsu J. Retrospective Review of Thoracoamniotic Shunting Using a Double-Basket Catheter for Fetal Chylothorax. FETAL DIAGNOSIS AND THERAPY. 34,19-25,2013.
  7. Katsuragi S, Ikeda T, Noda S, Onishi J, Ikenoue T and Parer JT. Immediate newborn outcome and mode of delivery: Use of standardized fetal heart rate pattern management. JOURNAL OF MATERNAL-FETAL & NEONATAL MEDICINE. 26,71-74,2013.
  8. Katsuragi S, Neki R, Yoshimatsu J, Ikeda T, Morisaki H and Morisaki T. Acute aortic dissection (Stanford type B) during pregnancy. JOURNAL OF PERINATOLOGY. 33,484-485,2013.
  9. Kataoka H, Miyoshi T, Neki R, Yoshimatsu J, Ishibashi-Ueda H and Iihara K. Subarachnoid Hemorrhage From Intracranial Aneurysms During Pregnancy and the Puerperium. NEUROLOGIA MEDICO-CHIRURGICA. 53,549-554,2013.
  10. Miyoshi T, Ikeda T, Yoshimatsu J, Ikeda Y and Ishibashi-Ueda H. Fetal pulmonary thrombosis. ULTRASOUND IN OBSTETRICS & GYNECOLOGY. 41,708-709,2013.
  11. 神谷 千津子. 周産期心筋症を識る－切断プロラクチンの役割－. Heart View. 17,280-284,2013.
  12. 片岡 大治, 三好 剛一, 根木 玲子, 吉松 淳, 植田 初江, 飯原 弘二. 妊娠産褥期における脳動脈瘤破裂. The Mt.Fuji Workshop on CVD vol.31 妊娠分娩と脳卒中. 31,29-33,2013.
  13. 神谷 千津子. 成人先天性心疾患患者が直面する妊娠・出産のリスク. ハートナーシング. 26,746-756,2013.
  14. 神谷 千津子. 成人先天性心疾患の妊娠出産　一般の妊娠出産とどのように違い、どう対応するか. 呼吸と循環. 61,216-223,2013.
  15. 岡本 敦子, 三好 剛一, 桂木 真司, 根木 玲子, 山中 薫, 梅川 孝, 小林 良成, 堀内 縁, 神谷千 津子, 井出 哲弥, 田吹 邦雄, 吉原 史樹, 中村 敏子, 吉松 淳. 慢性高血圧症に降圧剤を使用し胎盤早期剥離-DIC後に腎障害が遷延した症例. 産婦人科の進歩. 65,69-74,2013.
  16. 吉松 淳. 解離性大動脈瘤. 周産期医学. 43,65-67,2013.
  17. 吉松 淳. 心エコー入門と心エコーレポートの読み方. 周産期医学. 43,285-289,2013.
  18. 桂木 真司, 山田 優子, 清水 渉, 吉松 淳. QT延長症候群. 周産期医学. 43,89-94,2013.
  19. 三好 剛一, 池田 智明, 左合 治彦. 我が国における多施設協同研究の現状－胎児不整脈の胎内治療－. 周産期医学. 43,1289-1293,2013.
  20. 三好 剛一, 桂木 真司, 池田 智明. 特集 胎児治療の最前線と今後の展望 3. 胎児不整脈に対する胎児治療とその効果. 小児外科. 45,23-26,2013.
  21. 神谷 千津子. 妊娠と心疾患. 心エコー. 14,254-263,2013.