臨床研究部
研究活動の概要

臨床研究部は、国立循環器病研究センターにおける基礎研究の成果を臨床研究の場に移し、その成果を実臨床で使用可能にするために橋渡し(トランスレーショナル)を行う部門である。臨床研究部のミッションは、このようなトランスレーショナル(TR)研究を行うためのインフラをセンター内で整備し、かつそのインフラを用いて、センター独自の循環器病学における情報発信をすることを業務および目的とする。つまり、私どもの仕事は、国立循環器病研究センターのTR/臨床研究を活性化するためのシーズをセンター研究所もしくは国内外研究施設の研究成果から探して、そのシーズが臨床試験に運用されるまでの研究を行うことであると考える。そのために、倫理委員会の予備事務局機能、TR研究支援、臨床の場におけるunmet needsの発掘と研究を行うことを業務とする。また、厚生労働省の進めている早期・探索的臨床試験拠点整備事業にも全面的に参画しているところである。

2012年の主な作業とその成果
  1. 臨床研究をサポートする人材育成と臨床研究サポート体制の構築:
    臨床研究企画室において、臨床研究に関するあらゆる相談の窓口業務を一本化した。相談内容に応じて、臨床研究企画室、TR室、先進医療・治験推進部のCRC室やDM・統計室へと相談内容の割り振りを行い、臨床研究の相談業務の円滑化を図った。臨床研究企画室では、相談内容に応じて、適切なアドバイスを行った。今年の臨床研究相談数は34件あり、そのうち研究計画書作成支援を行った研究は5件であった。また、センター外部からの臨床研究計画支援依頼も2件あった。特に医薬品の介入を伴う臨床試験の計画においては、先進医療・治験推進部の統計室と共同で、質の高い臨床試験計画書の作成を行った。TR室では、研究計画書における実施可能性の確認や説明同意文書の作成を行った。さらに、今年度は、被験者保護や研究の運営に関する専門的知識を持ったうえで活動できるCRCの育成を行った。また、院内外のCRCを対象にCRCが研究に参画することの目的や講義とグループワークからなる「CRCに必要な研究倫理セミナー」を開催し院内外に向けての人材育成に努めた。
  2. 臨床研究部 TR支援室:
    国立循環器病研究センター内で実施されているトランスレーショナルリサーチおよび探索的な臨床研究に、TR支援室のリサーチナースが参画し、研究計画作成段階から関わることで被験者保護に努めている。さらに試験の運営に関する人・もの・医事に係る調整や準備、試験の管理・運営補助、被験者への説明、有害事象への対応等を実施し、TRのスムーズな運営を支援している。また、院内で、研究に関連するトピックスのセミナーや勉強会の開催、院外での説明会や勉強会、学会において、早期探索型の研究における被験者保護についての講義を行っている。
  3. 臨床研究部 研究室の運営:
    国立循環器病研究センターで実施されている臨床研究(主として厚生労働科学研究)の研究補助員のための活動スペースを確保し、研究データ等の解析、保管に充てることで、個人情報等の漏洩、盗難を防止している。
  4. 医師主導治験
    臨床研究部が主体となって、医師主導型治験を行うための試験計画書を作成した。医師主導型治験を進める際に必要なPMDAの事前面談を行い、その面談の結果をもとに、治験計画書の作成を行った。さらに、日本医師会治験促進センター、先進医療・治験推進部、病院、企業と、頻回な電話会議などによる綿密な議論の元、PMDAの本相談を行った。医師主導治験の基盤整備を行った。今年度は、医師主導治験の各種手順書(10種類程度)の作成、電子症例報告書の作成などを中心に進めた。
  5. 基礎研究支援:
    医療クラスター棟に病院の先生が使用する実験室が完成し、その実験室運用の支援を開始した。国立循環器病研究センター執行役員会にて実験室管理要領が承認され施行した。病院内への周知を図るとともに、施設整備、需要の高い共通実験機器を設置し、使用説明会を開催した。
  6. 厚生労働省の早期・探索的臨床試験拠点整備事業への協力
    厚生労働省が進める早期・探索的臨床試験整備事業を担う5拠点のうち、循環器病研究センターは唯一の医療機器開発の為の施設に2011年に選定され、以後医療機器開発体制の整備を行うと共に、当センターにて開発が進められている2つのシーズについての支援を行ってきた。2012年には、新たなシーズの応募をホームページにて広く募集し、応募のあったシーズの中から外部委員も加わったシーズ選定委員会にて13のシーズを選定した。今後は先行して開発を行ってきた2つのシーズと共に、これらの13のシーズについても円滑に開発が進み上市することを最終目標とし、ISOの取得や人材の育成、開発支援体制の整備も平行して行っていく予定である。
  7. 臨床研究に関わる教育と啓発活動:
    2006年度からおこなっているNCVC臨床研究セミナーを、先進医療・治験推進部と共同で下記の通り、開催した。今年度は、臨床試験のデザインについて、新規抗凝固薬の承認申請のための3試験をもとに、参加者20名と共に、3回シリーズで討議を行った。
  8. 倫理委員会の予備調査事務局業務:
    倫理委員会の予備調査事務局業務を行った。毎月行われる倫理委員会に提出される研究すべてに対して、倫理委員会事務局と共同で運営を行っている。臨床研究企画室においては、予備調査事務局を行い、事務員にて、予備調査を円滑に行うように努力した。また、チェックシートを用いて、研究計画に必要な不備を均一に精査するようにした。
  9. その他
    医薬品などを用いた臨床試験において必要となる補償保険契約の支援業務を行った。今年度は4件の補償保険の契約支援を行った。本支援は、臨床に忙しい医師にとって必要な支援と考えている。
    臨床研究を実施に当たっては、病棟や様々なコメディカルの協力が必要不可欠である。しかしながら、協力するには不十分な情報提供しかないなど、協力する側の困惑や拒否も見られた。このため、臨床研究に協力する際の意見や要望を病棟や各コメディカルから収集し、対応策を検討している。研究は本センターの責務でもあるが、研究が増えるとともに研究者以外のコメディカルの、本来業務とは異なる部分での負担の増大につながっている。よりスムーズに理解を得ながら研究を実施していくために、研究実施上での、様々な問題点を抽出し対策を考えることは、重要と考えている。臨床研究・臨床試験を計画・実施する研究者に利用しやすいだけでなく、研究には関係しないがその一端を担うことにならざるを得ない医療スタッフの負担軽減と理解を得られるような、研究関連の体制整備をさらに進めていく必要がある。
研究業績
  1. Yoshida A., Asanuma H., Sasaki H., Sanada S., Yamazaki S., Asano Y., Shinozaki Y., Mori H., Shimouchi A., Sano M., Asakura M., Minamino T., Takashima S., Sugimachi M., Mochizuki N. and Kitakaze M. H(2) mediates cardioprotection via involvements of K(ATP) channels and permeability transition pores of mitochondria in dogs. Cardiovasc Drugs Ther 26, 217-26, 2012.
  2. Chen C. Y., Yoshida A., Asakura M., Hasegawa T., Takahama H., Amaki M., Funada A., Asanuma H., Yokoyama H., Kim J., Kanzaki H. and Kitakaze M. Serum blood urea nitrogen and plasma brain natriuretic Peptide and low diastolic blood pressure predict cardiovascular morbidity and mortality following discharge in acute decompensated heart failure patients. Circ J 76, 2372-9, 2012.
  3. Sakamoto A., Kitakaze M., Takamoto S., Namiki A., Kasanuki H., Hosoda S. and Grp Jl-Knight Study. Landiolol, an Ultra-Short-Acting beta 1-Blocker, More Effectively Terminates Atrial Fibrillation Than Diltiazem After Open Heart Surgery - Prospective, Multicenter, Randomized, Open-Label Study (JL-KNIGHT Study). Circulation Journal 76, 1097-1101, 2012.
  4. Kitakaze M., Sarai N., Ando H., Sakamoto T. and Nakajima H. Safety and Tolerability of Once-Daily Controlled-Release Carvedilol 10-80 mg in Japanese Patients With Chronic Heart Failure. Circulation Journal 76, 668-674, 2012.
  5. Liao Y., Bin J., Asakura M., Xuan W., Chen B., Huang Q., Xu D., Ledent C., Takashima S. and Kitakaze M. Deficiency of type 1 cannabinoid receptors worsens acute heart failure induced by pressure overload in mice. Eur Heart J 33, 3124-33, 2012.
  6. Chen C. Y., Asakura M., Asanuma H., Hasegawa T., Tanaka J., Toh N., Min K. D., Kanzaki H., Takahama H., Amaki M., Itoh Y., Ichien G., Okumoto Y., Funahashi T., Kim J. and Kitakaze M. Plasma adiponectin levels predict cardiovascular events in the observational Arita Cohort Study in Japan: the importance of the plasma adiponectin levels. Hypertens Res 35, 843-8, 2012.
  7. Funada A., Kanzaki H., Kanzaki S., Takahama H., Amaki M., Hasegawa T., Yamada N. and Kitakaze M. Coconut left atrium. Int J Cardiol 154, e42-4, 2012.
  8. Sohma R., Inoue T., Abe S., Taguchi I., Kikuchi M., Toyoda S., Arikawa T., Hikichi Y., Sanada S., Asanuma H., Kitakaze M. and Node K. Cardioprotective effects of low-dose combination therapy with a statin and an angiotensin receptor blocker in a rat myocardial infarction model. J Cardiol 59, 91-6, 2012.
  9. Matsuyama T. A., Ishibashi-Ueda H., Ikeda Y., Nagatsuka K., Miyashita K., Amaki M., Kanzaki H. and Kitakaze M. Critical multi-organ emboli originating from collapsed, vulnerable caseous mitral annular calcification. Pathol Int 62, 496-9, 2012.
  10. 浅沼 博司, 北風 政史. 【メトホルミンの現況と新たな展望】 心血管リスク症例における海外での報告. Diabetes Frontier 23, 53-58, 2012.
  11. 浅沼 博司, 北風 政史. 急性心不全患者におけるアデノシンA1受容体拮抗薬rolofyllineの効果は?. EBM循環器疾患の治療 2012-2013, 196-200, 2012.
  12. 高濱 博幸, 北風 政史. 【あなたも名医!高血圧、再整理 がっちり押さえたい最新の診療方法】 (第6章)その他の高血圧の患者さんをどう診る? 高血圧性心不全 緊急時の対応. jmed mook, 179-182, 2012.
  13. 閔 庚徳, 朝倉 正紀, 北風 政史. β遮断薬・α遮断薬 . これで決まり!循環器治療薬ベストチョイスこんな病態・症例にこの処方, 21-25, 2012.
  14. 北風 政史. 循環生理学・循環薬理学・分子生物学は重症心不全を救えるか. 呼吸と循環 60, S5-S7, 2012.
  15. 北風 政史. <納豆>健康食品の元祖【納豆】の実力は本物だった。コレステロールと中性脂肪が減り、便秘も改善した. 最新版コレステロール・中性脂肪がみるみる下がる大百科, 40-41, 2012.
  16. 高橋 彩子, 北風 政史. 病態51 糖尿病患者の左室拡張能障害の分子機構について教えてください. 循環器医から寄せられる「糖尿病と血管合併症」に関する100の質問, 118-119, 2012.
  17. 朝倉 正紀, 北風 政史. 慢性心不全のエビデンス. 循環器疾患最新の治療, 532-535, 2012.
  18. 朝倉 正紀, 北風 政史. 【心筋疾患に対するアプローチ】 心筋症の分類と診断基準. 循環器内科 71, 491-495, 2012.
  19. 高濱 博幸, 北風 政史. リモデリング予防の薬物療法. 循環器内科 72, 113-118, 2012.
  20. 北風 政史. 心不全の新しいとらえ方. 心不全診療Q&A, 76-80, 2012.
  21. 北風 政史. 急性心筋梗塞治療における現状と新展開. 大阪府内科医会会誌 21, 22-32, 2012.
  22. 浅沼 博司, 朝倉 正紀, 金 智隆, 北風 政史. 【心筋虚血と心不全】 耐糖能異常は心不全と連関するか?. 日本冠疾患学会雑誌 18, 245-251, 2012.
  23. 浅沼 博司, 北風 政史. 【最新臨床糖尿病学 上-糖尿病学の最新動向-】 糖尿病の疫学とEBM 疫学研究・大規模臨床試験より得られたEBM PROactive. 日本臨床 70, 301-308, 2012.
  24. 北風 政史. 心血管保護を考えた糖尿病治療とはーその科学的エビデンスと臨床現場での実践ー. 飯塚医師会報VOICE 127, 27-28, 2012.
  25. 朝倉 正紀, 山本 晴子, 嘉田 晃子, 土井 香, 平瀬 佳苗, 北風 政史. アカデミアにおける臨床試験サポート体制の現状 国立循環器病研究センターにおける臨床研究支援体制の現状. 薬理と治療 40, S34-S37, 2012.