呼吸器・感染症診療部
研究活動の概要

呼吸器・感染症診療部には、〇感染症科 〇呼吸器科の2つのセクションがあります。呼吸器科では循環器疾患との合併・併存が多い呼吸器疾患を中心に、循環器疾患との関連を調べ新しい診療概念の確立を目指しています。感染症科では循環器領域における効果的な感染症診療の確立に向けて、臨床検査部や薬剤部と連携して研究活動を行っています。

具体的には以下のテーマの研究を行っています。

  1. 循環器疾患患者における感染症発症状況の把握と効果的な感染予防策および診断・治療方法の確立に関する研究
  2. 感染症の早期発見・治療評価のための非侵襲的診断法の開発
  3. 循環器領域における慢性閉塞性肺疾患(COPD)の合併・併存状況の把握に関する研究
  4. 慢性心不全とCOPDの相互作用に関する研究
  5. 循環器領域における睡眠時無呼吸の病態解明と効果的診療方法の確立に関する研究
2012年の主な研究成果
  • 院内肺炎147例の喀痰培養の検討では、有意検出菌 (> 107/CFU) があった症例は38 例 (25.8%)で、Not isolated(検出されず)が38 例、口腔内常在菌 (> 107/CFU) 検出が23 例 (15.6%) であり、貪食像が認められたのはたった 1 例であった。院内肺炎症例の喀痰培養検査における原因菌同定率は予想以上に低いことがわかったと同時に、誤嚥の疑いのある症例が比較的多いことが示唆された。
  • 心血管系感染症の原因微生物のアンチバイオグラム(薬剤感受性率表)の作成およびその評価を続けている。当院で検出されたMRSAおよびS.epidermidis(表皮ブドウ球菌)に対するVCMのMIC値の2007年からの経年的推移を見てみると、MIC値が上昇傾向にあることがわかった(VCM MIC creep)。このMIC creepはS.epidermidisでより強い傾向にある。TEICのMIC値にも同様の現象が認められており、これまでのMRSA感染症に対する第一選択薬としてのVCM・TEICの位置付けを見直す段階に入っていると考えられた。血液培養陽性例における分離頻度の経年的推移の検討では、グラム陽性菌ではS.epidermidis、グラム陰性菌ではP.aeruginosa(緑膿菌)が増加傾向にあることがわかった。 
  • 難治性心血管系感染症(縦隔炎、大動脈グラフト感染、感染性大動脈瘤、LVAD感染)を対象にした後ろ向き観察研究「難治性心血管系感染症に対する抗菌薬使用状況の横断調査 [Survey of Antimicrobial Use in Patients with Refractory Cardiovascular Infection (SAPRI)]」(研究課題番号:M23-85)を継続している。2007〜2011年の大動脈グラフト感染症63例の検討では、原因菌の25.3%がMRSAであり、以下MSSA 9.5%、S.epidermidis 7.9%で、41.2% は原因菌不明であった。同様に2007〜2011年の縦隔炎71症例の原因菌の検討では、MRSA 42.2%、MSSA 22.5%、原因菌不明 26.7% であった。グラフト感染、縦隔炎ともに黄色ブドウ球菌が原因菌として重要である反面、原因菌が同定できないケースも多く、初期抗菌薬の選択の重要性が示唆された。
  • 感染症の早期発見・治療評価のための非侵襲的検査法を開発すべく、感染症と循環器疾患の病態の関連を探索することを目的とし,両者に共通してかかわる活性酸素種計測法と生体ガス成分の非侵襲的検査法の確立を目指している。そこで、これまで特に計測の難しかった(1)生体内活性酸素種の非侵襲的計測法と(2)硫黄系化合物の検出法に関する技術開発を行った。またこの応用例として(3)ヒト糞便中における腸内細菌の発するガス成分の評価法の確立と(4)肺高血圧モデルにおける腸・肝・肺・心臓における低分子化合物の臓器別分布を検討した。現在、(5)循環器疾患と感染症との間の関連を解明するため、①歯周病と循環器病疾患の関連と②循環器病施設における院内感染の早期発見・治療効果判定法に関する臨床試験を間もなく開始する予定である。
  • 2006-2011年に当院で呼吸機能検査を施行された7,502例の解析によると、全体の 27.5% に COPD の疑いがあることがわかった。疾患毎にCOPD疑い例の割合をみると、心不全で26.4%、高血圧31.5%、大動脈瘤39.3%、心筋梗塞33.7%、糖尿病30.5%であり、大動脈瘤とCOPDの病態上の関連が示唆された。
  • 当院通院中あるいは入院中で、労作時息切れの訴えのある80症例に対して呼吸機能検査およびBNP測定を施行した。FEV1/FVC < 70% をCOPD疑い、BNP ≧ 100 を心不全としたところ、COPD疑い 34%、心不全 11%、両者の併存 25%、その他 30%であった。循環器領域には COPD疑い症例が高率に存在していること、労作時息切れのある患者ではCOPDと心不全の両者の存在を念頭に置き診療する必要があることが示唆された。
  • 心不全症例に対するAdaptive-servo ventilation (ASV) 導入効果を検討中である。ASV導入により、LVEF (n=23) および血中BNP値 (n=29) が有意に改善する可能性が示唆されている(中間解析)。
  • 2012年の当院の簡易睡眠モニター検査施行 494 例の解析を行っている。RDI≧5 は391名(79.1%)で、そのうち RDI≧20の症例は 158名(31.9%)であった。当院では約8割の患者で睡眠時無呼吸症候群(SAS)の可能性があることが示唆された。睡眠呼吸障害(SDB)疑い患者の内訳は、閉塞性睡眠時無呼吸(OSA) 20%, チェーンストークス呼吸を伴う中枢性睡眠時無呼吸(CSR-CSA) 47%, OSA+CSR-CSA 21%で、CSR-CSAの割合が高いことがわかった。循環器領域ではOSAのみならずCSR-CSAに対する診療も重要であることが示唆された。
研究業績
  1. 佐田 誠. 心血管系疾患合併COPDの診断と治療・管理. THE LUNG-perspectives 20, 343-348, 2012.
  2. 佐田 誠. 【アセスメントポイントがひとめでわかるICUナースのための循環&呼吸管理と術前・術後ケア】 (2章)術後の最大の敵!合併症とその対応 肺炎. 呼吸器ケア , 173-180, 2012.
  3. 佐田 誠. 【東日本大震災支援-国循1年の取り組み】 循環器領域における大規模災害時の対策に関する研究 分担研究者報告 感染対策. 循環器病研究の進歩 , 98-101, 2012.
  4. 佐田 誠. 16.慢性閉塞肺疾患(COPD). A 疾病管理としての循環器病予防医学.第Ⅲ章 循環器病予防医学各論. エビデンスに基づく循環器病予防医学-慢性心不全を防ぐ予防戦略とは?- , 248-256, 2012.