脳神経内科
研究活動の概要

脳神経内科の研究テーマとしては、①脳梗塞に対する細胞治療、②抗血栓療法における個別化医療、③脳神経超音波検査、④進行性脳梗塞の早期診断と治療法、⑤脳梗塞後のうつ、⑥脳血管障害や心血管リスクと認知症、⑦脳卒中地域連携が主なものとして上げられる。

①脳梗塞に対する細胞治療は、研究所田口室長との共同研究で、2009年から臨床症例での応用が開始された。2012年度に計画通り12症例の細胞治療と評価が終了し、現在結果の解析中であるが、第1の目的であった安全性については症例検討委員会においても安全であることが認められた。またヒストリカルコントロール群との比較で退院時のmRSが細胞治療群で有意に改善を示した。日本脳卒中学会をはじめとし、数々の学会報告を行い現在論文作成中である。

②抗血栓療法の個別化医療としては、研究所宮田部長、輸血部宮田室長との共同研究で、アスピリン抵抗性(Progear study)、クロピドグレル抵抗性(Cognac study)についての前向き観察研究を実施中である。Progear studyは2005年より厚労省科学研究費で開始され、2006年より基盤研究推進事業からも補助を得、現在全例追跡調査が完了し、研究結果を解析し英文雑誌に投稿中である。Cognac studyは2009年の循環器病研究委託費により研究組織を構築し、2009年11月より症例登録が開始され、2011年年度末までに512例が登録され、2年間の追跡調査が2013年度末で終了する。本年度は登録時の背景データと遺伝子多型との突合が完了し、種々の遺伝子多型が血小板機能に関連していることが明らかとなった。学会発表を各種学会で行っており、論文化中である。また2008年より厚生労働省科研費によりワーファリンの投与量に影響を与える因子についての前向き調査も進行中で、これまで報告されている遺伝子多型の他に、ビタミンK摂取量の影響について食事調査票を用いた調査で研究を行っている。先行研究において、遺伝子多型以外に腎機能が軽度の障害の段階からワーファリン投与量に影響があることも判明し、論文投稿中である。

③脳神経超音波検査では、主に頸動脈エコーによるプラークの性状診断、下肢深部静脈血栓症に取り組んでいる。2012年に超音波造影剤を用いることにより頸動脈プラーク内の新生血管の評価が可能であることが明らかとなり、種々の学会で発表を行い、論文作成中である。

④進行性脳梗塞の早期診断と治療法に関しては、循環器病研究委託費で多施設前向き共同研究が終了し、進行型の経過を呈する穿通枝領域梗塞では、発症後数日間の体温が36.8℃を越す場合が多く、病巣が縦長に拡大することを明らかになった。2011年度から新たに循環器病開発費により、穿通枝梗塞の後ろ向きおよび前向き調査を実施中で、後ろ向き調査からは入院時検査でのBUN・Hba1c・収縮期血圧の高値が症状の進行と関連していることが明らかとなった。また抗血小板剤の2剤併用が3ヶ月予後良好例で頻度が高いことも明らかとなった。国際学会で報告し、論文化中である。

⑤脳梗塞後のうつ研究に関しては、精神科に赴任されてきた安野先生、研究所再生医療部の田口先生との共同研究として開始している。2011年度末までに、脳梗塞症例29症例が登録され、MRIによる白質の質的変化がうつ症状および炎症性マーカーとの関連が示された。現在英文誌に投稿中である。

⑥脳梗塞と認知症との関連について、アミロイドPETを用いた前向き登録研究を開始し、継続中である。

⑦脳卒中地域連携に関しては、2000年より豊能2次医療圏域の地域リハビリテーション事業に参加し、大阪府モデル事業による長期予後調査を行い、その結果を踏まえて豊能地区独自の脳卒中地域連携パスを作製し、2006年末より運用を開始している。当センターが中心になって作製した地域連携パスで、その特徴は急性期から回復期への一方向性連携のみならず、維持期においても急性期病院や回復期病院がかかりつけ医や介護職とともに連携して支えてゆく、循環型連携を統合した点にある。維持期の循環型連携を支えるツールとして作製した脳卒中ノートは全国から注目され、他地域でも連携ツールが作製されつつある。豊能地区脳卒中地域連携パスは2006年の大阪府医療計画にも採用されている。2011年度は当センターが計画管理病院となり、診療報酬を算定することが可能となった。また現在豊能圏域の急性期病院6施設と回復期リハビリテーション病院20施設が合同で年3回のパス会議を開催しており、当センターは中央事務局としてデータのとりまとめを行っている。2012年からは回復期リハビリ病院から維持期のかかりつけ医に紹介した場合にも保険点数が加算されることに成り、連携医として151施設の協力を得ることができた。

2012年の主な研究成果
  • 頸動脈エコーでの新たな不安テープラークの所見として、超音波造影剤でプラークの新生血管が評価できることを発見し、学会発表を行い論文作成中である。
  • アスピリン抵抗性に関するProgea studyの結果を解析し、多数の検査法を試したが、血小板機能検査でアスピリン抵抗性を評価することができないという結論となり、英文誌に投稿中である。
  • 細胞治療では12症例の登録、追跡が終了し、安全性と効果について学会報告を行った。現在論文作成中である。
  • ワーファリン投与量と遺伝子多型およびビタミンK摂取量との関連について、四季の変化を調査する前向き研究が終了し、データ解析中である。その前に終了している単施設研究については、英文誌に投稿中である。
  • 地域連携パスに関連して、計画管理病院となり豊能地域での地域連携パス会議の中央事務局として地域全体の脳卒中発症から自宅退院までの状況が把握できるようになった。
研究業績
  1. Koga M., Toyoda K., Yamagami H., Okuda S., Okada Y., Kimura K., Shiokawa Y., Nakagawara J., Furui E., Hasegawa Y., Kario K., Osaki M., Miyagi T., Endo K., Nagatsuka K., Minematsu K. and Ris Stroke Acute Management Urgent. Systolic blood pressure lowering to 160 mmHg or less using nicardipine in acute intracerebral hemorrhage: a prospective, multicenter, observational study (the Stroke Acute Management with Urgent Risk-factor Assessment and Improvement-Intracerebral Hemorrhage study). Journal of Hypertension 30, 2357-2364, 2012.
  2. Kuwashiro T., Toyoda K., Oyama N., Kawase K., Okazaki S., Nagano K., Koga M., Matsuo H., Naritomi H. and Minematsu K. High Plasma D-Dimer is a Marker of Deep Vein Thrombosis in Acute Stroke. Journal of Stroke & Cerebrovascular Diseases 21, 205-209, 2012.
  3. Matsuyama T. A., Ishibashi-Ueda H., Ikeda Y., Nagatsuka K., Miyashita K., Amaki M., Kanzaki H. and Kitakaze M. Critical multi-organ emboli originating from collapsed, vulnerable caseous mitral annular calcification. Pathol Int 62, 496-9, 2012.
  4. Sakamoto Y., Koga M., Toyoda K., Osaki M., Okata T., Nagatsuka K. and Minematsu K. Low DWI-ASPECTS is associated with atrial fibrillation in acute stroke with the middle cerebral artery trunk occlusion. Journal of the Neurological Sciences 323, 99-103, 2012.
  5. Sato S., Koga M., Yamagami H., Okuda S., Okada Y., Kimura K., Shiokawa Y., Nakagawara J., Furui E., Hasegawa Y., Kario K., Arihiro S., Nagatsuka K., Minematsu K. and Toyoda K. Conjugate Eye Deviation in Acute Intracerebral Hemorrhage Stroke Acute Management With Urgent Risk-Factor Assessment and Improvement-ICH (SAMURAI-ICH) Study. Stroke 43, 2898-2903, 2012.
  6. Suzuki R., Koga M., Toyoda K., Uemura M., Nagasawa H., Yakushiji Y., Moriwaki H., Yamada N. and Minematsu K. Identification of internal carotid artery dissection by transoral carotid ultrasonography. Cerebrovasc Dis 33, 369-77, 2012.
  7. Uemura M., Kasahara Y., Nagatsuka K. and Taguchi A. Cell-based therapy to promote angiogenesis in the brain following ischemic damage. Curr Vasc Pharmacol 10, 285-8, 2012.
  8. 宮下 光太郎, 成冨 博章. 【若い人にも起こる脳卒中-本邦若年性脳血管障害の現況】 若年成人の特殊な脳血管障害. 成人病と生活習慣病 42, 1501-1507, 2012.
  9. 宮下 光太郎, 長束 一行. めまいに対する学際的アプローチ 脳血管障害によるめまい. Equilibrium Research 71, 155-161, 2012.
  10. 宮田 敏行, 長束 一行. 【抗血栓療法と薬の使い方】 抗血栓薬に対する遺伝子多型の影響. 薬事 54, 1133-1137, 2012.
  11. 原田 浩二, 森山 美知子, 百田 武司, 長束 一行, 大森 豊緑. 脳卒中の再発予防に関する医療施設の患者教育の実態調査. 広島大学保健学ジャーナル 10, 81-86, 2012.
  12. 玄 富翰, 長束 一行. 【頸動脈エコーにおける病変診断】 頸動脈エコーにおける不安定プラーク判定のコツ. Vascular Lab 9, 604-608, 2013.
  13. 佐藤 祥一郎, 山本 晴子, Qureshi Adnan I., Palesch Yuko Y., 豊田 一則. わが国におけるAntihypertensive Treatment of Acute Cerebra Hemorrhage(ATACH)-II試験の開始 デザインと国内研究体制の構築. 臨床神経学 52, 642-650, 2012.
  14. 斎藤 こずえ. 【解剖がわかれば走査がわかる 決定版 超音波検査テクニックマスター 頭部・頸部・胸部・上肢編】 (第2章)頸部編 椎骨動脈エコーの基本手順とコツ. Vascular Lab 9, 178-183, 2012.
  15. 山上 宏. 話題のキーワード解説 脳血栓回収ステント. International Review of Thrombosis 7, 342-345, 2012.
  16. 山上 宏. 【解剖がわかれば走査がわかる 決定版 超音波検査テクニックマスター 頭部・頸部・胸部・上肢編】 (第2章)頸部編 CEA・CASの際に頸動脈エコーで注意するポイント. Vascular Lab 9, 159-165, 2012.
  17. 山上 宏. 【脳血管内治療の最前線】 プラーク評価と頸動脈ステント留置術. 血栓と循環 20, 210-216, 2012.
  18. 山上 宏. 【動脈硬化の診断法】 超音波 頸動脈. 動脈硬化予防 11, 42-49, 2012.
  19. 山上 宏, 坂井 信幸. 脳卒中の最新治療 急性期から維持期まで 脳卒中急性期の血管内治療. The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine 49, 379-384, 2012.
  20. 神吉 秀明, 長束 一行. 【頸動脈治療の新たな展開】 頸動脈超音波診断の進歩. 脳と循環 17, 27-30, 2012.
  21. 成冨 博章, 宮下 光太郎, 厚東 篤生. 提案に対する回答. 臨床神経学 52, 513-514, 2012.
  22. 長束 一行. 【一緒にみて、考えれば結果が変わる!患者さんとみる糖尿病検査値ガイド】 頸動脈超音波検査. 糖尿病ケア 9, 862-863, 2012.
  23. 長束 一行. 【抗血栓療法と薬の使い方】 脳梗塞に対する抗血栓療法. 薬事 54, 1117-1122, 2012.
  24. 福田 真弓, 古賀 政利, 森 真由美, 大崎 正登, 長束 一行, 峰松 一夫, 豊田 一則. rt-PA投与後の早期再発、進行および症候性頭蓋内出血による早期神経症候増悪の検討. 脳卒中 34, 47-50, 2012.
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  27. 斎藤 こずえ. 頸動脈エコーのトピックス. メディカル・ビューポイント(MVP) 33, 4, 2012.
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