国立循環器病研究センター研究所

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プロジェクト研究

臨床SPECT診断法の精度向上と標準化

SPECTはPETと同様に種々の機能画像の診断が可能で、現在多くの臨床機関で日常の診療に貢献しています。今までは脳や心筋の領域の視覚的診断に限られていましたが、当該研究プロジェクトでは、虚血の重症度とリスクを定量的に評価するような、今までにない診断法の開発と具体的な治療への貢献を目指しています。今までに、断層画像を正確に得るための基礎理論の開発とこれに基づくプログラムを整備し、脳主幹動脈閉塞症や内頚動脈狭窄症などの外科的治療法に有用な事前情報を提供する検査プロトコルの整備を行い、一般の臨床機関での実施を可能にしてきました。また、心筋組織血流量と運動や血管拡張薬に基づく組織血流量の上昇率(血管反応性、予備能)の正確な計測についても可能になりつつあります。これらの機能画像化に必要なプログラムの開発を行う一方、安定した診断に必要なクオリティコントロールの重要性を認識し、これを確認するための指標の作製を行っています。現在は新しい治療法の有効性の評価において、多施設で得られたSPECT機能画像の集約解析のために検査手技や解析手法の標準化を行っています。

1.SPECT画像撮像と画像再構成の基盤整備とプログラム開発

循環器研究委託事業(H19-21)

SPECTは、放射線検出装置の表面に放射線入射指向性を持たせるコリメータを設置し、これを被験体の周囲を回転させてデータを撮像し、これから断層画像を計算(画像再構成)する技術です。従来から、放射線が被験体内部で受ける吸収とコンプトン散乱のために正確な画像が得られないとされてきました。QSPECTプログラムでは、これらの誤差を補正する理論をもとに、正確な画像を計算することに成功しました。二つの誤差要因は被験体内部でのみ起こる事象であり撮像装置には依存しないことが明らかです。当該プログラムの開発によって、SPECT機能画像の装置や施設を超えた再現性が確保されたと考えています。

第1図 SPECT画像化の原理 放射線検出器を回転させて撮像を行う

第1図 SPECT画像化の原理 放射線検出器を回転させて撮像を行う。

第2図 SPECT画像の誤差要因―吸収と散乱線

第2図 SPECT画像の誤差要因―吸収と散乱線。

第3図 我々が開発したQSPECT画像再構成の概要(頭部計算の例)

第3図 我々が開発したQSPECT画像再構成の概要(頭部計算の例)

2.血行力学的脳虚血の診断法の開発と標準化

厚生科研トランスレーショナルリサーチ(H19-21)

安静時だけでなく脳血管拡張薬投与後の脳血流量を定量計測することで虚血の重症度すなわち脳梗塞発症のリスクが診断できることが知られています。しかし従来はこの検査は日を変えて行う必要があったためにあまり普及はしていませんでした。本研究は、正確な画像が得られることになったことで、放射性診断薬剤の脳内動態を正確に数理モデル化して解析ができるようになりました。すなわち、一回の検査中に安静時と血管拡張薬投与後の脳血流量画像を診断することが可能になり、日常の診療検査でも利用できるようになりました。頭蓋内バイパス術だけでなく、内頚動脈ステント留置術や血管内外科治療などの術前診断などに貢献しつつあります。現在は、検査結果の安定性や施設を超えた再現性の実証、正常者データベースの作製、また血行再建に基づく高次脳機能改善との関係調査などの研究が進行中です。

第4図 脳虚血重症度(脳梗塞リスク)の診断の例。安静時だけでなく脳血管拡張薬投与後の脳血流量を定量計測することで虚血の重症度すなわち脳梗塞発症のリスクが診断できる。

第4図 脳虚血重症度(脳梗塞リスク)の診断の例。安静時だけでなく脳血管拡張薬投与後の脳血流量を定量計測することで虚血の重症度すなわち脳梗塞発症のリスクが診断できる。

3.頭蓋内バイパス術の適用と有効性評価

循環器研究委託事業(H19-21)に続き循環器病研究振興財団委託事業(H22-23)

頭蓋内血管バイパス術治療の適用症例において、神経細胞の残存を示すと考えられているベンゾジアゼピン受容体の結合能のイメージング法の開発を行い、これに基づき、血行再建治療の有効性について多施設臨床研究を行っています。術前に神経細胞がよく残存している症例で血行再建治療の効果を明らかにするだけでなく、軽症度脳虚血の症例において内科治療薬のみで神経細胞の減少がどの程度抑制できるのかについても検証しています。また、MRI形体画像から得られる脳委縮と神経細胞残存との関係についても調査を行っています。

4.SPECTを用いた心筋組織血流量の定量とX線CT画像の利用

厚生科研ナノメディシン事業(H20-23)

QSPECTプログラムは脳以外でも正確な画像再構成が可能ですが、心筋領域では脳と異なり肺野における低密度領域をソフトのみで抽出することが困難なため外部照射に基づく正確な吸収減弱係数の画像(μマップ)の測定が必要になります。X線CT画像からμマップを推定することは可能ですが、しかしSPECT画像では時間平均化された画像が撮像されるのに対して、X線CTでは呼吸フェーズに同期して撮像するために、正確には一致せず、非線形な補正が困難とされてきました。私たちは外部CCDカメラにより呼吸深度をモニタすることで呼吸深度を計測することで、正確な補正を可能にする撮像プロトコルの開発を行っています。今までに健常者データでの確認が得られており、臨床検査での利用を開始するところです。

5.冠動脈多枝病変疾患における心筋虚血の重症度とリスク診断法の開発

厚生科研ナノメディシン事業(H20-23)

血管造影撮像では心筋動脈血管(冠動脈)の狭窄を診断することができます。しかし狭窄の程度だけでは実際の組織レベルの虚血評価ができないとして、近年は狭窄部位前後の圧差の計測法などの、より機能評価を行う診断法が提案されています。私たちは、この概念をさらに発展させて、心筋SPECTで組織レベルの血流量(潅流)を安静時および血管拡張負荷後の組織血流量上昇(血管反応性、血流予備能)を定量的に計測することで、重症度の診断を行うことを試みています。特に多肢病変を有する症例で大きな効果が期待されます。

6.脳梗塞可逆領域と治療薬輸送の高解像度イメージング

厚生科研ナノメディシン事業(スーパー特区課題)(H21-24)

QSPECT画像再構成プログラムでは定量精度の向上と施設や装置を超えた標準化を目指してきましたが、従来よりも高い空間解像度で画像再構成するプログラムと、さらに新しい撮像装置の開発を行っています。空間解像度の向上を目指すプログラムでは従来よりも2倍高い解像度が実現でき、また新しい検出器の開発によりさらに高い解像度が得られることが示されています。極小さな脳梗塞領域の特定や、脳保護治療薬の微小領域への選択的な輸送(DDS)のイメージング評価への貢献を目指しています。

7.SPECT装置クオリティコントロールの評価指標の作製

循環器研究委託事業(H19-21)に続き循環器病研究振興財団委託事業(H22-23)

標準化されたSPECT画像を見比べていくうちに、各臨床機関の装置クオリティコントロールを高める必要性が明らかになりました。一様な円筒状の容器に放射性溶液を封入して得た画像からは検出器の均一性に関する調整が不備であることが確認できます。また私たちは、限りなくヒトの脳および頭蓋を模倣する模型(ファントム)の開発を行い、これに基づいた画像の標準化指標の構築を行っています。日常の診療のクオリティ向上に貢献することが期待されます。

第5図 一様な円筒シリンダファントムに123I-放射性薬剤を封入して撮像した典型的な7施設における画像。QSPECTプログラムを利用することで施設や装置を超えた比較が可能になり、これによりクオリティコントロールの重要さが確認された。定量的な比較指標の必要性が示唆された。

第5図 一様な円筒シリンダファントムに123I-放射性薬剤を封入して撮像した典型的な7施設における画像。QSPECTプログラムを利用することで施設や装置を超えた比較が可能になり、これによりクオリティコントロールの重要さが確認された。定量的な比較指標の必要性が示唆された。

第6図 ヒトの頭蓋を模倣する構造体(ファントム)の開発を行った。ファントムにはには脳灰白質と骨領域が含まれ脳血流量画像の妥当性確認が可能である。典型的な5施設において、各装置に組み込まれた画像再構成では施設間の誤差が相当大であることが認められる。一施設においては偽欠損(赤矢印)を認めるなどの問題も指摘された。施設間の分散はQSPECTプログラムの採用によって大きく改善していた。

第6図 ヒトの頭蓋を模倣する構造体(ファントム)の開発を行った。ファントムには脳灰白質と骨領域が含まれ脳血流量画像の妥当性確認が可能である。典型的な5施設において、各装置に組み込まれた画像再構成では施設間の誤差が相当大であることが認められる。一施設においては偽欠損(赤矢印)を認めるなどの問題も指摘された。施設間の分散はQSPECTプログラムの採用によって大きく改善していた。

8.SPECTを使った多施設臨床研究の支援

企業との共同研究(H21、H22)

私たちの開発したQSPECTおよび関係する機能画像計算プログラムを利用する多施設臨床研究を支援しています。検査プロトコルについてのアドバイスや、画像撮像や機能画像計算における手順の確認、また脳組織血流量画像や脳神経細胞残存などの機能画像とMRI形態画像などとの重ね合わせ処理、脳委縮との関係などの解析をお手伝いします。事務局を設置し、解析の進捗などを確認するWebベースの閲覧システムにより、多施設臨床研究をサポートします。

第7図 解析の進捗を登録施設や主任研究者らと情報共有するためのWebベースの閲覧システム。図は経過観察中のMRI画像とSPECT機能画像を全て同一座標に重ね合わせた結果の解析進捗を示すもの。

第7図 解析の進捗を登録施設や主任研究者らと情報共有するためのWebベースの閲覧システム。図は経過観察中のMRI画像とSPECT機能画像を全て同一座標に重ね合わせた結果の解析進捗を示すもの。

この話題についての問い合わせ先:
先進医工学部門 画像診断医学部 部長 飯田秀博

※記載の内容は 2010年4月時点のものです。

最終更新日 2011年03月31日

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