メニュー

心臓再生制御部

概要

ゼブラフィッシュ・マウスを用いた心筋再生研究

 心臓のポンプ機能は生命の維持に必須です。そのポンプ機能の要となる細胞が心筋細胞です。心筋細胞は収縮機能に特化した特殊な細胞であり、ほとんど増殖することはできません。そのため、心筋梗塞や様々な原因で心筋細胞が失われると、心臓の機能は著しく低下し、その回復はきわめて困難です。
 損傷を受けた心臓の機能回復のため、現在、心臓再生制御部では「自己再生誘導療法」の開発を目指しています。その実現のため着目しているのがイモリや魚などの動物にみられる生理的な心筋再生能力です。私たちは小型魚類モデルであるゼブラフィッシュを用いて、損傷後の心臓において、残存する心筋細胞が一時的に分化状態を逆戻しする「脱分化」を経て再び活発に増殖し、新しい心筋が作り出されることを世界で初めて発見しました(Kikuchi et al. Nature 2010)。その後、心筋細胞の脱分化と増殖はマウス、ラット、ブタなどの哺乳類においても、生後数日の間は保持されており、心臓損傷後も心筋が再生されることも分かってきました。この再生機構は成長とともに失われ、前述のように哺乳類の成体心臓では心筋再生は見られませんが、ヒトの心臓においても少ない割合ながら心筋細胞の脱分化・増殖機構が維持されている可能性が示唆されています。
 心臓再生制御部が目指す「心筋自己再生誘導療法」は、上記の心筋細胞の脱分化・増殖誘導機構を解明し、その人為的操作を基盤とする新たな治療法です。これまでに私たちは、非心筋細胞が分泌するパラクライン因子や免疫細胞との相互作用が心筋細胞の脱分化・増殖制御に重要であることを明らかにしました(Kikuchi et al. Dev Cell 2011, Hui et al. Dev Cell 2017他)。最近では赤血球の分化決定因子として知られている転写因子Klf1 が損傷時にのみ心筋細胞で発現し、その脱分化・増殖誘導に関わる遺伝子群を制御するという全く新しい機能を持つことを報告しています(Ogawa et al. Science 2021)。また、現在はマウスを用いた心筋梗塞後の心臓の機能回復を促進する新たな分子機構の同定も進めています。さらに、これまでに得られた有望な結果を元に企業との共同研究を行っており、心筋細胞の脱分化・増殖機構を標的とする遺伝子治療の開発を進めています。

透明魚ダニオネラを用いたイメージング研究

 心臓再生制御部では成長後も全身が透明で心臓などの体内臓器が生きたままイメージングできる新規小型魚類ダニオネラ(Danionella)の実験動物としての確立と研究応用を進めています。ダニオネラはゼブラフィッシュやメダカなどの飼育システムで繁殖可能であり、遺伝子改変も容易です。また、成魚においても体長は1.5cm弱と小さいため、全身のイメージングが可能です。
 最近の細胞生物学の進展とイメージング技術の開発により、シグナル伝達、細胞骨格再編成、代謝変化など、細胞内の重要な反応を生きた細胞でイメージングできるようになってきました。しかし、個体レベルでは、マウスなどで皮膚表面に近い部位のイメージングが可能であるものの、心臓を含む生体内の深部臓器や組織を非侵襲にイメージングすることは未だ困難です。ゼブラフィッシュは生体イメージングに有用なモデル動物ですが、透明性が維持されるのは稚魚に限られており、複雑な成体の体内組織をイメージングすることはできません。
 成体組織は発生期の組織とは比較にならないほど複雑に発達しています。その成体組織を直接観察するような研究において、ダニオネラは非常に有用なモデル動物になると考えています。現在、心臓再生制御部では成体組織における損傷応答と再生、成体幹細胞の機能、臓器連関、老化の進展、疾患病態の形成と進展などに着目して研究を進めています。このようなダニオネラを用いたイメージング研究から生命現象や病態形成過程の理解が深化し、新たな治療法の開発につながると考えています。

研究テーマ

 心臓再生制御部では下記のようなテーマに取組んでいます。当部では基本的に部員各自が自身の興味にしたがって研究を進めています。大学院生・リサーチフェロー(博士研究員)は随時募集しています。若手研究者は部長およびシニアスタッフによる手厚いサポートのもと、面白くて新しい研究を目指してもらいたいと考えています。ここに記載のない研究内容のご提案も歓迎しています。ご興味のある方はいつでも菊地までお気軽にご連絡下さい。

1)ゼブラフィッシュ・マウスを用いた心筋再生研究 
損傷による心筋再生プログラムの活性化機構の解明
心筋細胞増殖誘導因子の同定と遺伝子治療法の開発
成体マウス心臓における再生抑制機構の解明と操作 

2)透明魚ダニオネラを用いたイメージング研究
細胞種特異的レポーターおよびバイオセンサー系統の開発
ライブイメージングによる組織損傷応答・修復機構の解明
ライブイメージングによる疾患発症・進展機構の解明

最終更新日:2023年02月08日

各部の紹介About

設定メニュー