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分子薬理部

構造機能研究室

3. 循環器疾患の危険因子である高トリグリセリド血症の病因解明

3-1. 動脈硬化惹起性高トリグリセリド血症の網羅的成因解析システムの開発とその臨床応用

高トリグリセリド血症(高中性脂肪血症)は、メタボリックシンドロームの判定項目に入っており、動脈硬化性疾患の危険因子の一つです。高トリグリセリド血症という危険因子をひとつでも減らすことにより、将来的な動脈硬化性疾患の予防を目指しています。

血清トリグリセリド値は、肝臓でのトリグリセリド合成系と流血中における主にリポ蛋白リパーゼ(LPL)によるトリグリセリド分解系によって決まります。LPLは血液中において、食事由来のトリグリセリドを運搬するリポ蛋白粒子であるカイロミクロンや、肝臓で合成・分泌されたトリグリセリドを運搬する超低密度リポ蛋白(VLDL)のトリグリセリドを水解する酵素です。LPLとその異常によって発症する病態の関係を研究するため、まず、LPLを精製し、そのポリクローナル抗体 (Biochim Biophys Acta 1003: 254-269, 1989)とモノクローナル抗体を作成しました。これらを用いて、サンドイッチエライザ法によるLPL蛋白の測定系(J Lipid Res 31: 1911-1924, 1990)と選択的免疫不活化法によるLPL活性測定系を開発しました(生化学的LPL検査法)(図1)。

開発した生化学的LPL検査法とLPL遺伝子診断法を組み合わせて、LPL欠損症の診断を行っています。LPL蛋白およびその機能検査を行い、基準値より低値の場合、LPL遺伝子解析を行います。このようにして、日本人においてのLPL変異を21種類集積してきました。日本人において、現在、他施設からしか見いだされていないものも含めて、約30種類の変異が集積されています(J Clin Invest 89: 581-591, 1992., Bioch Biophys Acta 1502: 433-446, 2000., Nuc Acids Res 32: e141, 2004.他)。変異は人種特異的なものが多いので、日本人における簡便な遺伝子検査をするためには、日本人での変異を集積することが重要と考えられます。

LPLの完全欠損(ホモ接合体や複合型へテロ接合体)者では、血液中のカイロミクロンやVLDLのトリグリセリド分解不全のため、乳白濁した血清外観を示し、腹痛をおこし、ときに膵炎を併発し、死に至ることもあります。LPLの完全欠損より頻度の高い、LPL欠損へテロ接合体においては、正常の約半分のLPL活性となります。LPL欠損へテロ接合体であっても、肝臓でのトリグリセリド合成の亢進を引きおこすような負荷がなければ、つまり健全な生活習慣であれば、正常な血清トリグリセリド値を維持できます。しかし、LPL欠損へテロ接合体という遺伝背景に、アルコール多飲癖や肥満(過食や運動不足)といった生活習慣が負荷した場合、高トリグリセリド血症を発症します(図2)。この高トリグリセリド血症状態の持続は、それ自身が動脈硬化惹起性であり、更に動脈硬化惹起性異常リポ蛋白(小型高密度LDL)の産生をまねき(項目3-2を参照)、動脈硬化の危険因子となり、将来的に心疾患になる危険性が高まります。LPL欠損へテロ接合体者は、アルコール飲酒において、LPL正常者が高トリグリセリド血症を引き起こさない量の摂取においても、高トリグリセリド血症を引き起こします。それ故、LPL欠損へテロ接合体者はLPL正常者以上に生活習慣に注意をすることが必要であり、健全な生活習慣の維持により、高トリグリセリド血症の発症を免れ、将来的な心疾患の危険因子を減らすことができるようになると考えられます。

今後、さらにLPLの遺伝子診断の簡便化のため、日本人における変異の集積を行い、また、LPL機能発現に関与する種々の因子(LPL蛋白合成に係るLMF1やLPLの合成後の作用場への移行と保持にかかわるGPIHBP1の因子や自己免疫疾患によるLPL自己抗体といった因子)に関しても、網羅的に調べることにより、高トリグリセリド血症の予防をとおしての循環器疾患の予防を目指していこうと考えています。

図1

図2

3-2. 肝性トリグリセリドリパーゼの生理機能解明と動脈硬化惹起性リポタンパク産生機構の解明

血清リポタンパク代謝に関わる酵素群として、リポ蛋白質リパーゼ(LPL)、肝性トリグリセリドリパーゼ(HTGL)などがありますが、前者に比して、後者の役割は明確ではありません。そこでHTGLの生理的役割を解明するために、HTGLを精製し、ポリクローナル抗体(Biochim Biophys Acta 1003: 254-269, 1989)とモノクローナル抗体(J Lipid Res 31: 1911-1924, 1990)を作製して、活性測定系およびタンパク測定系(J Immunol Methods 235: 41-51, 2000.)を構築しました。これら測定系を用いて、日本人で、はじめての本酵素の欠損症を見出し、そのリポタンパクの解析を行いました。その結果、本酵素は小型のリポタンパク粒子中のトリグリセリドの代謝に関わっていることが明らかとなりました。

高トリグリセリド血症の状態において産生される異常リポタンパクである小型高密度LDLは動脈硬化惹起性と考えられています。この小型高密度LDLの生成機構を解明し、生成機構におけるHTGLの役割を明確にしました。小型高密度LDLは次に示す機構により生成されることが明らかになりました。(1)血中に増加したTriglyceride-rich lipoprotein(TGRL)は、HDL粒子と接触回数を増加し、HDLに結合したコレステロールエステル転送タンパクの反応によりHDLがTG-rich HDLとなり、(2)TG-rich HDLは、LDLと接触し、LDLの性質を、HDLに結合したコレステロールエステル転送タンパクの反応で、TG-rich/コレステロールエステル-poorな粒子に変換し、(3)最終的に、TG-rich/コレステロールエステル-poorのLDL粒子中のTGがHTGLによって水解され、LDL粒子サイズが小型化します(Ikeda Y, Takagi A et al.: Physiological role of human hepatic triglyceride lipase (HTGL): HTGL regulates the multiple lipoprotein metabolism of IDL, LDL, and HDL2. In: Multiple risk factors in cardiovascular disease, Ed. Yamamoto A (Churchill Livingstone, Tokyo) pp.181-186, 1994)。

最終更新日 2016年07月01日

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